公認心理師 2020-126

DSM-5の急性ストレス障害に関する問題です。

単純に診断基準に関して問われていますが、背景に「外傷体験とはどういったものなのか」に関して理解していることが重要になります。

この辺も含めて述べていきましょう。

問126 DSM-5の急性ストレス障害〈Acute Stress Disorder〉について、正しいものを1つ選べ。
① 主な症状の1つに、周囲または自分自身の現実が変容した感覚がある。
② 心的外傷的出来事は、直接体験に限られ、他者に生じた出来事の目撃は除外される。
③ 6歳以下の場合、死や暴力、性被害などの心的外傷体験がなくても発症することがある。
④ 心的外傷的出来事の体験後、2週間以上症状が持続した場合は心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉に診断を切り替える。

解答のポイント

「DSM-5における」急性ストレス障害の基準を把握している。

臨床における心的外傷と、制度における心的外傷は異なることを理解している。

選択肢の解説

① 主な症状の1つに、周囲または自分自身の現実が変容した感覚がある。

こちらは症状に関する基準を見ていくことが大切になります。

急性ストレス障害の基準Bを見ていきましょう。


B.心的外傷的出来事のあとに発現または悪化している。侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状の5領域のいずれかの、以下の症状のうち9つ(またはそれ以上)の存在。

侵入症状

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶。
    注:子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢。
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる。またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに反応して起こる、強烈または遷延する心理的苦痛または顕著な生理的反応。

陰性気分

  • 陽性の情動を体験することの持続的な不能(例:幸福、満足、または愛情を感じることができない)。

解離症状

  • 周囲または自分自身の現実が変容した感覚(例:他者の視点から自分を見ている、ぼーっとしている、時間の流れが遅い)。
  • 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。

回避症状

  • 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を回避しようとする努力。
  • 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結び付くもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

覚醒症状

  1. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)
  2. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
  3. 過度の警戒心
  4. 集中困難
  5. 過剰な驚愕反応

このように、本選択肢の内容は「解離症状」の内容であることがわかりますね。

なお、解離には、圧倒的な脅威の事態を「ひとごと」にすることによって、無益で危険な損壊行動を止めさせ、事態を凌ぎ易くするという機能があります。

人がまだ他の動物から侵襲を受けていた時代、動物から食べられているときにパニックになっては生き延びることができる可能性が減るので、解離によって「自らの状況をひとごと」として認識することで生き延びる可能性を高めたという話もあります。

いずれにせよ、人間が示す様々な心理的問題は「かつてはその方法が適応的な時代があった」という目で眺めてみることが大切です。

その捉え方ができていれば、カウンセラーがクライエントの問題をネガティブにだけ捉えていないことも伝わりやすくなります。

以上より、選択肢①が正しいと判断できます。

② 心的外傷的出来事は、直接体験に限られ、他者に生じた出来事の目撃は除外される。
③ 6歳以下の場合、死や暴力、性被害などの心的外傷体験がなくても発症することがある。

こちらはいわゆる出来事基準について問う選択肢となっています。

まずは急性ストレス障害の基準Aを見てみましょう。


A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接経験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする。
    注:家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

このように、急性ストレス障害の出来事基準では「他人に起こった出来事を直に目撃する」「近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする」のように、直接的な体験でなくても該当することが示されていますね。

こちらが選択肢②が誤りである根拠となります。

続いて、選択肢③についてです。

まず急性ストレス障害は、年齢で区切るような基準は設けられておりません。

6歳という年齢で線を引いているのは「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」になります。

ここではPTSDの6歳以下の場合の出来事基準を引用しましょう。


A.6歳以下の子どもにおける、実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人、特に主な養育者に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 親または養育者に起こった心的外傷的出来事を耳にする。

ここでもやはり「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事」という限定が設けてありますね。

つまり、急性ストレス障害であろうと心的外傷後ストレス障害であろうと、出来事基準としては「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への曝露」という内容であることが欠かせないということです。

この点が、選択肢③が誤りである根拠と言えます。

おそらく、選択肢③については疑義がある人もいるのではないかと思います。

「診断基準に設けられているような極端な出来事でなくても心的外傷になりうるのではないか」という疑義です。

この点については、「臨床における心的外傷と、制度における心的外傷は異なる」と考えておきましょう。

制度における心的外傷の基準は、私はDSM-5の内容で仕方がないと思っています。

出来事基準を緩めてしまうことで、「自分の思いと反する現実全てに不満を抱くクライエント」をPTSD事例と見誤って対応してしまい、そのクライエント及び組織に対して多大な損失を与えることになりかねません。

ただ、臨床においてDSM-5の出来事基準だけで対応するにも無理があります。

私は、臨床実践においては「外傷体験の記憶による不穏が「here and now」で動いている精神活動に阻害的に働いている」という状況を見れば、概ね心的外傷事例と見てよいだろうと考えています。

ただし「「here and now」で動いている精神活動に阻害的に働いている」という点を、単に「嫌なことを語っている」などのような表面的な認識をしないでいただきたいです。

この弁別ができるか否かで、そのクライエントが「心的外傷を負ったクライエント」なのか「自分の思いと反する現実全てに不満を抱くクライエント」なのかの見極めになります。

このように、出来事基準に関しては様々な意見があるだろうと思います。

自分なりに、制度と実践の矛盾をどのように納めておくことが大切ですね。

いずれにせよ、選択肢②および選択肢③は誤りと判断できます。

④ 心的外傷的出来事の体験後、2週間以上症状が持続した場合は心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉に診断を切り替える。

こちらは急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害の基準の違いを理解しておくことで除外できる選択肢になります。

急性ストレス障害のC基準をまずは見てみましょう。


C.障害(基準Bの症状)の持続は心的外傷への曝露後に3日~1ヵ月。

注:通常は心的外傷後すぐ症状が出現するが、診断基準を満たすには持続が最短でも3日、および最長でも1ヵ月の必要がある。


このように、3日~1か月の間、症状が持続している場合は急性ストレス障害とされます。

PTSDに切り替えるのは1か月以降も症状が持続した場合になります。

こちらについてはPTSDの診断基準Fを参考にしましょう。

診断基準Fには「障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上」とあります。

なお、基準Bは侵入症状、基準Cは回避症状、基準Dは認知と気分の陰性の変化、基準Eは覚醒度と反応性の著しい変化になります。

これらの症状の持続が1か月以上であれば、PTSDと判断することになるわけです。

なお、急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害では、微妙に症状の基準が異なりますが(解離がPTSDの基準には設けられておらず、特定の要件になっている)、急性ストレス障害の症状基準が5領域14項目のうち9項目該当で診断となることを考えれば、「急性ストレス障害と診断される=PTSDの診断基準のいずれかを満たす」ということになります。

ですから、本選択肢の「移行する」という表現にも間違いはないと見なしてよいでしょう。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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