問30は緊張病の診断基準を押さえておくことが求められている問題です。
各選択肢は精神医学的問題に関する内容ですから、それぞれがどういった状態を指すのか、それを示しやすい病態を把握しておくようにしましょう。
問30 緊張病に特徴的な症状として、正しいものを1つ選べ。
①昏迷
②途絶
③観念奔逸
④情動麻痺
⑤カタプレキシー
DSM-5における緊張病は、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群のカテゴリーの一つです。
こうした精神症状についての把握は、こちらの書籍が非常に優れています。
興味のある方は是非。
本解説もこちらの書籍を中心にしながら作成しました。
解答のポイント
各精神症状の特徴と、それが生じやすい病態について把握していること。
よく読むこと。
選択肢の解説
①昏迷
緊張病には「他の精神疾患に関連する緊張病」「他の医学的疾患に関連する緊張病」「特定不能の緊張病」などがあります。
診断基準に関しては大きな差が見られませんので、ここでは「他の精神疾患に関連する緊張病」の診断基準をまずは以下に示します。
臨床像は以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が優勢である。
- 昏迷:すなわち、精神運動性の活動がない。周囲と活動的なつながりがない。
- カタレプシー:すなわち、受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する。
- 蝋屈症:すなわち、検査者に姿勢をとらされることを無視し、抵抗さえする。
- 無言症:すなわち、言語反応がない。またはごくわずかしかない(既知の失語症があれば除外)。
- 拒絶症:すなわち、指示や外的刺激に対して反対する、または反応がない。
- 姿勢保持:すなわち、重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する。
- わざとらしさ:すなわち、普通の所作を奇妙、迂遠に演じる。
- 常同症:すなわち、反復的で異常な頻度の、目標指向のない運動。
- 外的な刺激が影響によらない興奮。
- しかめ面。
- 反響言語:すなわち、他者の言葉をまねする。
- 反響動作:すなわち、他者の動作をまねする。
上記のように、選択肢の内容は診断基準に含まれていることがわかります。
昏迷とは、一つの症状というよりも、特徴的なまとまりをもった状態像です。
それを具体的に示すと以下の通りです。
- 自発的運動がない。動かない。じっとしている。姿勢、表情に動きがない(常同姿勢)。すなわち無動である。躯幹や四肢の筋肉は固く緊張していることもあるし、弛緩していることもある。発語がない(緘黙)。受動的にとらせられた姿勢を、そのまましばらくずっと保ち続ける(カタレプシー)。
- 意思の発動が見られない。ぼんやりしていて、欲動の表出がない(無欲状)。精神活動の徴候は何も見られない。
- 身体生理的な行為、例えば摂食、排泄などもしない。空腹なはずなのに、目の前に食膳を出しても、自ら食べようとしない。口に入れてやっても、咀嚼も嚥下もしようとしない。口の中に食物を入れたままじっとしている。トイレにも行こうとしない。痛覚に対しても無反応。
- こちらからの働きかけに反応せず、返答もない。いろいろ質問しても答えない。
- ぼんやりしている。放心状態あるいは夢の中にいるような、忘我的な、恍惚境にいるような感じに見える。
この点についての理解で大切なのは、「インプットは比較的良く保たれているのに、アウトプットが極度に悪い」という捉え方です。
昏迷から脱した後に患者に問うことで、その間あったことをよく記憶していることもその傍証と言えるでしょう。
昏迷が現れる病態としては、統合失調症の緊張病性昏迷、かつてよりずいぶん見られなくなったがうつ病性昏迷、ヒステリー性昏迷(解離性障害など)、器質性精神病者の昏迷(甲状腺機能低下症、非定型のウイルス性髄膜炎など)などがあります。
以上より、選択肢①が正しいと判断できます。
②途絶
こちらは思考体験の異常の一つです。
話の流れの突然の停止は「途絶」と呼ばれ、主観的には何の理由も述べられないこともあります。
また、考えが外力で奪われたと感じている場合もあり、これを「思考奪取」と呼びます。
統合失調症の症状の一つとされており、クレペリン、ブロイラー、クルト・シュナイダーが共通して挙げている統合失調症の特徴的で頻発の症状は「思考途絶」と「思考化声」です。
この点からも途絶は統合失調症に広く見られる症候であることがわかります。
ただし、本問は緊張病に特徴的な症状を問うています。
そもそも緊張病に関しては、選択肢①でわかるとおり「話の流れの突然の停止」という事態を基準に据えることが考えられません(話していないのが前提ですからね)。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
③観念奔逸
こちらについては2018-103の選択肢②に出題されていますね。
しっかりと復習しておきましょう。
観念奔逸は、思考の流れや形式の障害の1つです。
うつ病などにおいて、思考の進みが遅く停滞することを「思考制止」と呼び、躁病や飲酒酩酊時などの、思考の進みが早く思いつきは多いが、道から逸れやすいことを「観念奔逸」と呼びます。
躁気分とともに思考面でも制止(抑制)がとれて、思路に異常が生じます。
観念が次から次へとほとばしり出て、話題は次から次へ移り、拡がっていきます。
しばしば思考の目的がわからなくなります。
内容の関連や単なる発音の類似による連なり(音連合)で思路が進み、発話衝動が亢進しているため早口で多弁です。
このように、観念奔逸が生じやすい疾患に「緊張病」は該当しないと考えられます。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。
④情動麻痺
こちらについても2018-103の選択肢③に出題されていますね。
やっぱり過去問は大切です。
情動麻痺はショックで悲しみや喜びなどが表現不能になった状態を指します。
類似したものとしては「感情鈍麻」があり、こちらは統合失調症や器質性精神障害などに見られる、文字通り感情の発現が鈍い状態です。
情動麻痺は天災などの突発的な出来事の後、急性に感情表出が無い状態が生じることを言います。
例えば、地震や火事の直後に、放心状態で驚きも悲しみも見せないままに座り込んでいる状態を指します。
小さな子どもが、はずみで悪いことをしてしまった場合もこんな感じが見て取れますね。
本当に悪いことをしたときは、謝るという行為ができなくなるくらい衝撃を受けるわけです。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
⑤カタプレキシー
こちらは明らかな引っかけです。
選択肢①で示した通り、緊張病の診断基準には「カタレプシー」が示されています。
こちらは、受動的に取らされた姿勢を、そのまましばらくじっと保ち続ける状態を指します。
ですがよく見ればわかるとおり、本選択肢は「カタレプシー」ではなく「カタプレキシー」です(カタレプシーだと緊張病に特徴的な症状と見なしてよい)。
カタプレキシーとは、情動脱力発作のことで、笑ったり、怒ったり、緊張したり、と感情の動き(情動)が誘引となって、「膝の力が抜けて立っていられない」「握っている物を落とす」「口がもつれてしゃべにくい」などの脱力発作が数分続くことを指します。
症状の程度はわずかに脱力感を覚えるほどの軽微なものから、崩れ落ちるように転倒してしまうといった重度な症状まで様々だが、長くても数分以内に収まる場合がほとんどです。
ただし発作を抑えようと緊張することで断続的に発作が起こり、20~30分もの間身動きが取れない状況(重積状態)に陥るケースもあります。
発作の最中でも聴覚や意識等ははっきりしており、患者は周囲で何が起こったかを明晰に覚えています(この点は昏迷と同じですね)。
カタプレキシーはナルコレプシー患者がよく示す症候です。
ナルコレプシーの主な症状としては以下の通りです。
- 睡眠発作:
日中の授業中や食事中などに、発作的に耐えがたい眠気に襲われて眠り込んでしまいます。生活に大きな支障をきたします。 - カタプレキシー
- 睡眠麻痺/入眠時幻覚:
入眠直後に目が覚めて、体を動かせず、声も出せなく不安と恐怖が強まる状態を睡眠麻痺といいます(いわゆる金縛りですね)。また、やはり入眠直後に「幽霊が立っている」「体が空中に浮く」などの現実感のある夢を見る事を入眠時幻覚といいます。この2つは伴うことが多く、いずれも入眠直後にレム睡眠が出現することが背景にあるとされています。
このようにカタプレキシーは緊張病とは関連がない症候であることがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。