問28はDSM-5の反社会性パーソナリティ障害の診断基準に関する内容です。
反社会性パーソナリティ障害は2018追加-102の選択肢①にちらっと出てきています。
以前、反抗挑戦性障害、素行障害と併せて解説を述べていますのでこちらもご参照ください。
(※本問は採点除外等の取扱いとなった問題です)
問28 DSM-5の反社会性パーソナリティ障害の診断基準として、正しいものを1つ選べ。
①10歳以前に発症した素行症の証拠がある。
②他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、14歳以降に起こっている。
③反社会的行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中ではない。
④他人の権利を無視し侵害する広範な様式には、「自殺のそぶり、脅し」が含まれる。
⑤他人の権利を無視し侵害する広範な様式には、「衝動性、または将来の計画を立てられないこと」が含まれる。
反抗挑戦性障害、素行障害、反社会性パーソナリティ障害はひとつの流れとしてみてよいです。
個人的には、土居先生の甘え理論とも関連が深いのではないか、というふうにも思っていますが、それはこういった事例に出会うタイミングによるのでしょう。
私は比較的幼い時期からの問題(反抗挑戦性障害)と関わることが多いので、どうしても家庭環境との繋がりで見えてしまいますし、そこにアプローチすることで変化を見出すことが多いです。
問題がもっと持続的に生じている状態で出会ったカウンセラーには、そういった側面に対する認識は生まれないだろうと思うので、この辺が教育と医療(司法?)との捉え方や支援法の違いになっていくのだと思います。
最近、あまり違和感を覚えることなく「サイコパス」という表現を用いる専門家も散見されるようになってきましたが、やはり軽々に使うべき言葉ではないと考えています。
メディア等によって手垢がついてしまった言葉は、どんなに専門的な知見を備えて言っていても、受け手がこちらの意図したように受け取ってはくれないのです。
解答のポイント
反社会性パーソナリティ障害の診断基準を把握していること。
DSM-5における反社会性パーソナリティ障害の診断基準
DSM-5におけるパーソナリティ障害はA群・B群・C群に分類され、それぞれ3~4の障害が規定されています。
ざっくりと説明すると、A群は奇妙で風変わりな群(統合失調症に近い群)、B群は演技的・感情的で移り気な群、C群は不安で内向的な群とされています。
本問の反社会性パーソナリティ障害はB群に該当しますね。
以下に診断基準を載せておきます。
A.他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以上で起こっており、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。
- 法にかなった行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。
- 虚偽性、これは繰り返し嘘をつくこと、偽名を使うこと、または自分の利益や快楽のために人をだますことによって示される。
- 衝動性、または将来の計画を立てられないこと。
- いらだたしさおよび攻撃性、これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
- 自分または他人の安全を考えない無謀さ。
- 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
- 良心の呵責の欠如、これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり、これを正当化したりすることによって示される。
B. その人は少なくとも18歳以上である。
C. 15歳以前に発症した素行症の証拠がある。
D. 反社会的な行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中のみではない。
下線部に関しては、本問を解くにあたって理解しておく必要がある箇所です。
これらを踏まえて、問題を解いていきましょう。
選択肢の解説
①10歳以前に発症した素行症の証拠がある。
上記にあるとおり基準Cに「15歳以前に発症した素行症の証拠がある」という記載がありますから、選択肢の内容は誤りとなります。
DSMにおいても素行症と反社会性パーソナリティ障害の連関を前提にしていることがわかりますね。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
②他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、14歳以降に起こっている。
上記にあるとおり「他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以上で起こっており、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される」という記載がありますから、選択肢の内容は誤りとなります。
選択肢①の内容と併せて「15歳」というのをインプットしておきたいところです。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
③反社会的行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中ではない。
上記にあるとおり「反社会的な行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中のみではない」とあります。
この「のみ」という2文字があるだけで全く違った意味になりますね。
選択肢の内容だと、反社会性パーソナリティ障害においては、その経過中には生じるものは反社会性パーソナリティ障害の基準として採用しないということになってしまいます。
しかし、DSM-5の基準では「統合失調症や双極性障害の経過中のみではない」ということですから、統合失調症や双極性障害の経過中に起こる反社会的行為についても診断の参考にするということですね。
そしてそれだけではなく、そういった経過中じゃない場面でも反社会的行為があることが重要ということになります。
うろ覚えだとついこの選択肢を選んでしまうかもしれませんね。
ちょっと意地悪な問題だと感じました。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
本問が採点除外となった理由は、選択肢③によるものだと思われます。
「のみ」という表現の有無によって、まったく意味が変わってしまうのは解説で述べたとおりですが、それではあまりにも問題として不適切だという判断になったと思われます。
人間辞書のように何でも覚えている人を求めているのではなく、実効性・汎用性に優れた専門職を求めているはずですからね。
④他人の権利を無視し侵害する広範な様式には、「自殺のそぶり、脅し」が含まれる。
こちらの内容は同じくB群の境界性パーソナリティ障害のものです。
診断基準を以下に示します。
対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。
- 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
- 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
- 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
- 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
- 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
- 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
- 慢性的な空虚感。
- 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
- 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。
本問に限らずですが、パーソナリティ障害群に関連する問題では、あるパーソナリティ障害について問うときに別のパーソナリティ障害の診断基準を持ってきて問題を作成するという手法がよく採用されます。
解いていて「あ、これは○○障害の診断基準だな」ということがわかることが大切になります。
全ての障害の基準を覚えるのは大変ですが、パーソナリティ障害に関しては10障害(それでも多いですが。ミラーの記憶容量を超えちゃってる)ですから、時間をかけて把握しておきたいところですね。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
⑤他人の権利を無視し侵害する広範な様式には、「衝動性、または将来の計画を立てられないこと」が含まれる。
上記の通り、基準Aの中に「衝動性、または将来の計画を立てられないこと」が明記されております。
よって、選択肢⑤が反社会性パーソナリティ障害の診断基準として正しいと判断できます。