公認心理師 2018-35

ICD-10の解離性(転換性)障害に関する問題です。
しかし、選択肢の内容は驚くほどICDに沿っていないように思えます(一般的なICDと、ケースブックしか見ておらず、研究用診断基準はチェックしていませんが…)。
ICDに記述がある部分は抜き出しつつ、それ以外の点は別の書籍で補っていこうと思います。

専門医のための精神科リュミエール20 解離性障害」に選択肢を説明する内容が多く載っていたので、こちらからの引用が多くなります(以下、リュミエールと略します)。

解答のポイント

ICDの診断基準を把握していること。
解離性障害に生じやすい現象について理解していること。

選択肢の解説

『①自殺の危険性がある』

リュミエールには、以下のように記載されています。
頻回に自傷行為や過量服薬を繰り返して救急外来を頻回利用する患者の中に、解離性障害を見出すようになった。自傷行為は強い感情が引き起こした解離症状を減少させる効果があり、一方、過量服薬はポップアップ現象に対する自己治療の試みとして行われる場合がある(p145)」

「健忘は、患者の周囲に起こった現実的な問題、つまり借金や貧困という現実的問題、異性問題や夫婦間の問題、性的な問題、仕事上の不始末、自殺企図、近親者との死別、犯罪などに関連することが多い(p96)」

以上のように、選択肢①は正しく、除外できます。

『②身体症状を伴う場合がある』

Nijenhuisは解離を「精神表現性解離症状」と「身体表現性解離症状」に分けています(リュミエール、p73-74)。
そのうち、身体表現性解離の内容として以下をあげています。

  • 感覚の麻痺
  • 痛覚脱失
  • 運動能力、発話能力、嚥下能力などの喪失
  • 身体的侵入症状
  • 外傷的出来事の再体験の身体面(外傷に関連した特定の感覚と身体運動)
  • 解離性人格部分の交代における身体面
  • 解離性精神病の身体症状

また、ICDケースブックにも身体症状を呈している事例が載っています。
以上のように、選択肢②は正しいといえ、除外することができます。

『③幼少時の被虐待体験が関連している』

ICDには以下のように記述されています。
「解離性障害は、起源において心因性であり、トラウマ的な出来事、解決しがたく耐え難い問題、あるいは障害された対人関係と時期的に密接に関連していると推定される」
これらについては診断ガイドラインにも明記されています。

リュミエールには以下のように記載があります。
大部分の症例(60%)には幼児虐待の既往があるという(p96)」

「解離性障害患者の多くが「性的虐待、身体的虐待、ネグレクトといったような重篤な心的外傷を受けてきた」と訴える。…解離性障害患者の多くが虐待を含めて何らかの心的外傷を体験してきていると認めざるを得なくなった(p122)」

幼児期から繰り返される性的虐待や身体的虐待などは、心的外傷となる典型的な状況であり、この解離の防衛機制が最も働きやすい状況である(p123)」

以上のように、選択肢③は正しく、除外することができます。

『④自らの健忘には気づいていないことが多い』

解離症状によく見られるのが、「気がついたら◯◯だった」といった健忘に対する自覚のなさや、解離を指摘された時の無関心さです。

この点についてリュミエールには以下のように記載があります。
はじめは健忘症状の自覚はなく、ある時期の生活史を想起できないことに自分では気づかない。社会生活や仕事上で混乱して初めて記憶の空白に気づくことが多い

以上のように、選択肢④は正しく、除外することができます。

『⑤可能な限り早期に外傷的な記憶に踏み込んで治療すべきである』

こちらについては心理的デブリーフィングの問題点を思い起こすと良いと思われます。
心理的デブリーフィングは、災害や精神的ショックとなる出来事を経験した人々のための危機介入的手段とされています。
災害などの2、3日後に行われ、2〜3時間かけて出来事の再構成、感情の発散、トラウマ反応の心理教育などがなされるものです。

心理的デブリーフィングは、以前は外傷的体験をした人に行うことで、心理的後遺症の発症が予防できると言われてきましたが、1990年以降、このことに対する疑問が多く提出され、注意喚起がなされています

リュミエールには以下のように記載があります。
「心的外傷を直接的に取り扱うのではなく、患者–治療者間に再演される外傷的関係の反復を取り上げ、治療関係によって抱えていく精神分析的な精神療法(p191)」

治療は概ね3点によってまとめられるとされています(p192)。

  1. 安全な環境下で外傷記憶の想起を手助けし、除反応を通して外傷体験の再統合を目指す方法。
  2. 治療上の転移関係に現れた過去の虐待関係の再現を「今、ここで」の体験として取り上げ、洞察を促す方法。
  3. 患者を取り巻く環境の安定を図り、支持的な患者–治療者関係のなかで適応様式をより健康的な防衛機制に置き換えていこうとする方法。

何れにしても、早期に外傷的な記憶に踏み込んで治療するのは適切とされておらず、踏み込む場合はあくまでも「安全な環境下」という点が重要となる。
以上のように、選択肢⑤は誤りであり、こちらを選択することが求められます。

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