選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉の副作用として、適切なものを2つ選ぶ問題です。
副作用の問題は、2018年9月9日実施試験でも出題されていましたね(しかも2問!)。
ひとつは薬剤と副作用の組み合わせの正誤の問題(公認心理師2018-55)、もうひとつは副作用としてアカシジアを発現させやすい薬剤種を選ぶ問題(公認心理師2018-104)になります。
現在のところ必ず出ている状況ですので、来年度の試験に向けてもこの点は押さえておくと良いでしょう。
どの症状が何によって生じているか(器質性とか機能性とか)、というのは実際には境界線が曖昧で判断が難しいことがほとんどです。
例えば、発達障害由来なのか愛着障害由来なのかについては、両者が混ざり合っていたり互いに関係しあって現在の状態を生じさせているというのが自然な理解です。
ですが、やはり教科書レベルの知識はしっかりと押さえておく必要があります。
知っておかないと、できない質問、できない対応、できない支援というものがあります。
知ろうと思えば知れたものを、知らずにいたことで支援できないというのは、自分の経験を振り返っても支援者として悲しいことです。
解答のポイント
向精神薬の副作用を把握していること。
選択肢の解説
『①心房細動』
Rayらの報告では抗精神病薬を服用していると心臓突然死のリスクが倍増し、その用量が増えるに従って、心臓突然死リスクが高まるとの結果が得られました。
抗精神病薬は心筋細胞の再分極過程を抑制し、その結果QT時間が延長し、これがtorsades de pointes(TdP)、心室細動、心房細動、突然死に結びつくと想定され、心電図の経時的な追跡の必要性が述べられています。
多くの精神病薬の禁忌事項や慎重投与患者として心疾患患者が挙げられているのはそのためです。
ちなみに、ヒトの心電図においてQ波の始まりからT波の終わりにいたるまでの時間のことを、QT時間を言います。
単純に言えば、大きな波(QRS波)の始まりから中くらいの波(T波)の終わるまでの時間のことです。
QT延長症候群は心筋細胞の電気的な回復が延長することにより起こる病気で、心電図上のQT時間が延長することからこの名前がついています。
突然、脈が乱れて立ち眩みや意識を失う発作が起こり、意識を失う発作が止まらない場合は死亡することがあります。
比較的稀な頻度ですが、薬剤投与により過度のQT延長をきたし不整脈を引き起こすことがあります(薬剤誘発性QT延長症候群)。
これを引き起こす可能性が高い精神科薬剤として抗精神病薬が挙げられているわけです。
リスパダール、リスペリドンの重大な副作用として心房細動が挙げられていますね。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②排尿障害』
排尿障害は排出障害と蓄尿障害に分けられます。
排出障害は、尿意があって排出しようと思ってもスムーズに排尿できない状態を指し、排尿困難、残尿感などがあります。
蓄尿障害は、排尿を意図するまで一定量の尿を膀胱に貯えられない状態で、頻尿、尿失禁などがあります。
通常状態において、排尿時には副交感神経が優位、蓄尿時は交感神経が優位な状態です。
蓄尿時は、膀胱充満に伴い交感神経反射が誘発され、βアドレナリン受容体を介した膀胱平滑筋の弛緩およびαアドレナリン受容体を介した尿道平滑筋および前立腺の収縮が起こります。
これに加えて、交感神経はコリン性神経伝達を抑制し、膀胱の収縮を持続的に抑制します。
更に体性神経を介した外尿道括約筋の収縮も加わり、尿の排出路は閉鎖します。
一方で、排尿時には、副交感神経系が活性化し、ムスカリン受容体を介した膀胱収縮が起こり、交感神経系および体性神経系の抑制により、尿の排出路は開きます。
これが逆転して、排尿時に膀胱が弛緩もしくは尿道抵抗が増大すると排尿障害が生じ(膀胱内圧≦尿道内圧)、蓄尿時に膀胱が収縮もしくは尿道抵抗が低下すると蓄尿障害(膀胱内圧≧尿道内圧)が生じます。
よって、尿道抵抗が増大する作用を有する薬剤、すなわち抗コリン作用やα1受容体刺激薬などは、副作用によって排出障害が起こるとされています。
抗パーキンソン病薬はα1アドレナリン受容体刺激作用がありますし、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬では膀胱平滑筋直接弛緩作用および抗コリン作用があるとされています(ベンゾジアゼピン系による抗コリン作用由来の排尿障害は少ないとされていますが)。
抗うつ薬では三環系・四環系抗うつ薬では抗コリン作用が認められていますので、排尿障害が生じる可能性があります。
抗精神病薬でも抗コリン作用、抗ドパミン作用(αアドレナリン受容体刺激作用がある)によって排尿障害が副作用として生じる可能性があります。
以上より、排出障害は多くの精神科薬剤で生じますが、それは抗コリン作用やα1アドレナリン受容体刺激作用がある薬剤であることがわかり、SSRIはそれに該当しません。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。
『③悪心・嘔吐』
SSRIは、脳内神経伝達物質のセロトニン濃度を高め、神経伝達能力が上がることにより、抗うつ作用および抗不安作用を示すとされています。
SSRIの共通した副作用として、悪心・嘔吐があります。
こうした消化器系の有害事象は服薬コンプライアンスを低下させ、QOLにも悪影響を及ぼしやすいとされています。
ちなみに悪心は嘔吐に先行するむかつき、嘔吐は胃内容物の排出現象ですね。
悪心・嘔吐のメカニズムは、中枢性(嘔吐中枢が物理的・化学的刺激を受けて生じる)と末梢性(末梢神経を経由して嘔吐中枢に伝えられた刺激によって生じる)に分けられ、SSRIによるものは前者となります。
嘔吐中枢の近くには、ドーパミンやセロトニンの受容体があり、その濃度によって嘔吐中枢が刺激されることになります。
SSRIでは放出されたセロトニンを再取り込みすることで、その濃度を上昇させますが、それによって悪心・嘔吐が生じやすくなるとされています。
うつ病への効果はしばらくかかる一方で、悪心・嘔吐症状は比較的早く出現します。
以上より、選択肢③は正しいと判断できます。
『④賦活症候群』
賦活症候群は、SSRIなどの副作用の一種で中枢神経刺激症状の総称を指します。
不安、焦燥、不眠、敵意、衝動性、易刺激性、アカシジア、パニック発作、軽躁、躁状態などを生じさせ、悪化するとリストカットなどの自傷や、自殺行為に至ることもあるとされています。
SSRIの使用により自殺などの衝動行為の危険性が増したり、攻撃性が増強する症例が報告されるようになり、これらの薬剤の添付文書にも注意事項として記載されるようになりました。
過去には抗うつ薬による躁転と言われていましたが、躁状態に至らないまでも、不眠や攻撃性亢進が見られる状態も含めて、賦活症候群と総称するようになりました。
もともとアメリカで自殺の可能性は増加させないけれども、それに向かう行動を増加させるという見解が示され、米国の食品医薬品局が2004年に自殺関連事象につながる可能性のある抗うつ薬による中枢刺激様症状を「賦活症候群(activation syndrome)」というふうに表記しました。
賦活された状態になると衝動性のコントロールが不良となり、対人関係や社会生活上の様々な問題が生じて、病状も不安定になるため、あたかも人格障害のような行動異常が目立つようになることがあります。
そのため、賦活症候群を示した患者が境界性人格障害と誤診されることもあったようです。
賦活症候群の生物学的なメカニズムもまだわかっておりませんが、SSRI投与初期のセロトニンの再取り込みによって、特に不安や焦燥に関しては、脳内のセロトニン受容体の刺激の関与がこういった衝動性、あるいは不安などに関係しているのではないかと考えられています。
以上より、選択肢④は正しいと判断できます。
『⑤起立性低血圧』
抗うつ薬には古くからある三環系および四環系抗うつ薬と、比較的新しいとされるSSRIなどの抗うつ薬があります。
起立性低血圧は、主に三環系抗うつ薬の副作用として知られているものです。
イミプラミン塩酸塩(例:トフラニール;三環系)、マプロチリン塩酸塩(例:ルジオミール;四環系)などで見られる副作用としては、抗コリン作用や起立性低血圧などがあります。
(起立性低血圧は、主に三環系抗うつ薬に多いとされています)
抗コリン作用とは、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する作用を指し、便秘、口の渇き、胃部不快感等といった神経症状が代表的です。
臨床心理士資格試験の過去問で、上記の「便秘」を「下痢」と書いて正誤を問う問題がありました(私の記憶が確かならば)。
起立性低血圧とは、急に立ち上がったときや長時間立ち続けていると立ちくらみ・めまいなどを起こす状態のことを指します。
症候性(病気の症候として現れる)と薬剤性(何らかの薬剤の副作用として現れる)があるとされています。
起立性低血圧はアドレナリンα1受容体(血管収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮などに関与する)との親和性に相関があるとされています。
アドレナリンα1受容体遮断作用によって、起立性低血圧が生じるということですね。
すなわち、起立性低血圧はSSRIではなく、三環系抗うつ薬の副作用と言えます。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。