DSM-5における抑うつエピソードの主要な症状に関する問題です。
診断基準を問う、オーソドックスな問題ですね。
問129 DSM-5における抑うつエピソードの主要な症状に該当するものを2つ選べ。
① 注意散漫
② 無価値感
③ 自尊心の肥大
④ 現実感消失又は離人感
⑤ 興味又は喜びの著しい減退
選択肢の解説
② 無価値感
⑤ 興味又は喜びの著しい減退
ここではDSM-5の抑うつエピソードを引用しましょう。
A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。
- その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
- ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
- 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
- ほとんど毎日の不眠または過眠
- ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
- ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
- ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
- 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
- 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
まずA‐2に「興味又は喜びの著しい減退」があり、A‐7に「無価値観」に関する記述がありますね。
よって、選択肢②および選択肢⑤がDSM-5における抑うつエピソードの主要な症状に該当するものとして適切と判断できます。
① 注意散漫
③ 自尊心の肥大
これらは躁病エピソードもしくは軽躁病エピソードの基準になりますね。
【躁病エピソード】
A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。
B.気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。
- 自尊心の肥大、または誇大
- 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
- 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
- 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
- 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
- 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
- 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)
C.この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。
D.本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
【軽躁病エピソード】
A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。
B.気分が障害され、かつ活力および活動が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。
- 自尊心の肥大、または誇大
- 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
- 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
- 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
- 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
- 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥
- 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)
C.本エピソード中は、症状のない時のその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。
D.気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。
E.本エピソード、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要としたりするほど重篤ではない、もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。
F.本エピソードは、物質(例:薬物乱用、医薬品、あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない。
上記の通り、躁病エピソード・軽躁病エピソードのいずれにおいても「自尊心の肥大、または誇大」「注意散漫」が含まれています。
よって、選択肢①および選択肢③はDSM-5における抑うつエピソードの主要な症状として不適切であると判断できます。
④ 現実感消失又は離人感
こちらについてはパニック症のDSM-5の診断基準を挙げていきましょう。
A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる。
- 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
- 発汗
- 身震いまたは振え
- 息切れ感または息苦しさ
- 窒息感
- 胸痛または胸部の不快感
- 嘔気または腹部の不快感
- めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
- 寒気または熱感
- 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
- 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
- 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
- 死ぬことに対する恐怖
注:文化特有の症状(例:耳鳴り、首の痛み、頭痛、抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は、必要な4つ異常の1つと数えるべきではない。
B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。
- さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうかなってしまう”)。
- 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)。
上記の通り、パニック症の診断基準において「現実感消失又は離人感」が含まれています。
よって、選択肢④はDSM-5における抑うつエピソードの主要な症状として不適切であると判断できます。