問92は解離性障害に関する問題です。
過去問の内容とかなり被っているので、間違いなく押さえておきましょう。
問92 解離性障害について、正しいものを1つ選べ。
①自殺企図との関連は乏しい。
②心的外傷との関連は乏しい。
③半数以上に交代性人格を伴う。
④てんかんとの鑑別が必要である。
⑤治療の方針は失われた記憶を早期に回復させることである。
解離という現象自体は、さまざまな場面で生じ得ます。
また解離で妄想様の状態に見えることも少なくありません。
ただ解離による妄想様の状態と、統合失調症のそれとはやはり違うものです。
違うものですが、例えば彼らの言説を文字起こしして、違いを見分けろと言われると、それは不可能と言えます。
では、どこで判断するのか?
解離はあくまでも人間に備わっている安全弁の代表であり、それを使用している間は「なんだかんだあるけど、安心感のある雰囲気を有している」という特徴がありますが、統合失調症にはそれがありません。
すなわち、解離と統合失調症の違いは、そうした雰囲気の違いでキャッチするのが一番大切だと個人的には思っています。
もちろんそれ以外にも「解離性障害では幻視が多いが、統合失調症ではほぼ見られない」といった知見もあるので、そういう点で見分けることも大切です。
ただし、幻視は文化依存性が高いようで、インドでは多くの統合失調症者が幻視を示すといった知見もあります。
これらは統合失調症との鑑別ですが、本問ではてんかんとの鑑別について出題がありますね。
解答のポイント
解離性障害に関する基本的な理解をしている。
過去問の復習をしている。
選択肢の解説
①自殺企図との関連は乏しい。
こちらについては2018-35の選択肢①ですでに示されている内容です。
過去問の復習で確実に除外できる選択肢と言えるでしょう。
頻回に自傷行為や過量服薬を繰り返して救急外来を頻回利用する患者の中に、解離性障害を見出されることが明らかにされています。
自傷行為は強い感情が引き起こした解離症状を減少させる効果があり、一方、過量服薬はポップアップ現象に対する自己治療の試みとして行われる場合があります。
また、健忘は、患者の周囲に起こった現実的な問題、つまり借金や貧困という現実的問題、異性問題や夫婦間の問題、性的な問題、仕事上の不始末、自殺企図、近親者との死別、犯罪などに関連することが多いです。
ちなみに、なぜこの選択肢が成り立つのか?を考えておくことが大切です。
それは「解離性障害では現実検討力は失われない」という古くからの知見があるためだと思われます。
例えば、解離症状が出ているときに自殺をすることは少ないとは言われていますので、その辺の知識があるときに「自殺企図はしないのではないか?」と考えてしまう可能性があります。
しかし上述の通り、実際のところは自己治療的に自殺企図を行うということがありますので、解離性障害と自殺企図との関連性は大きいと見ることが大切です。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
②心的外傷との関連は乏しい。
こちらについても2018-35の選択肢③ですでに触れられている内容です。
ICDには「解離性障害は、起源において心因性であり、トラウマ的な出来事、解決しがたく耐え難い問題、あるいは障害された対人関係と時期的に密接に関連していると推定される」とされており、心的外傷体験と関連が深いことが見て取れます。
それ以外にも、大部分の症例(60%)には幼児虐待の既往がある、解離性障害患者の多くが虐待を含めて何らかの心的外傷を体験してきていると認められる、幼児期から繰り返される性的虐待や身体的虐待などは心的外傷となる典型的な状況であり解離の防衛機制が最も働きやすい状況である、などの指摘がなされています。
そもそも解離性同一性障害が出現する事例では、性的虐待が多いという知見が解離性障害研究の初期から示されており、虐待状況を含む心的外傷と解離との関連は深いことはグランド・セオリーのようなものです。
他の場所でも述べていますが、解離とは「圧倒的な侵襲体験に曝されたとき、自身を守るためにその出来事を「他人事」として処理することで急場を凌ごうとする」ためのこころの安全弁です。
当然、心的外傷体験は、こうした侵襲体験に含まれることになります。
ちなみに心的外傷となるような体験は「受身的な体験」であることが大きな要件となりますね、実践上は。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
③半数以上に交代性人格を伴う。
まず交代性人格を伴う場合は「解離性同一性障害」と診断されることになります。
解離性障害のうち解離性同一性障害は約30%と言われています。
個人的には「30%もいるのか?」というのが正直な印象ですが。
この印象の背景には、おそらく私が学校領域でたくさんの「解離という対処法を採っている児童・生徒」を見ているためだと思われます。
それこそ診断されないレベルではあるが、解離を確実に使っている事例を見ることはそう珍しくありません。
恐らく上記の「解離性障害のうち解離性同一性障害は約30%」の解離性障害には、こうした事例は含まれておらず、医療機関という枠組みで見たときの割合だろうと考えられます。
また、気をつけておかねばならないのは、日本の解離性同一性障害では、明確な交代性人格があるということは海外ほど多くはないということです。
むしろ日本では慢性的なストレス状況におかれたことによる反応として生じていることが多く、その中で示される症状は明確な人格が複数存在するという形にはなりにくいようです。
治療の基本は、各人格の言い分を聞き、お互いが知り合えるようにして、最終的には統合を目指すということです。
ただし、治療者としては統合の際の悲哀を理解し汲むことが大切になります。
解離に限らず、それまで自分を支えてくれていた症状と別れるのは哀しいことです。
解離の場合、複数の人格を有することで抱える必要がなかった矛盾や葛藤を、一つの人格になることでそうした苦しみを抱えてもらうということになります。
ですから、人格の統合を当たり前のものとして治療をするのは適切ではないのではないか、とも思うのです。
むしろ、人格たちが集まって民主的に合議する程度で治療を終えることになる場合も少なくありませんし、それで良いのではないか、とも思います。
(この辺の治療観は人それぞれかもしれませんね)
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④てんかんとの鑑別が必要である。
こちらは2018追加-101などで多少示してありますね。
解離性障害で見られる健忘に関しては、特にてんかんでも類似の現象が生じるため、必ず鑑別することが求められます。
てんかんの部分発作では、意識がはっきりしているかどうかで「単純部分発作」と「複雑部分発作」に分かれます。
複雑部分発作は、意識が徐々に遠のいていき、周囲の状況がわからなくなるような意識障害がみられる発作で、患者には記憶障害がみられます。
発作は通常1~3分続き、単純部分発作から続くこともあれば、突然複雑部分発作から始まることもあります。
脳のどの部分が興奮するかにより、意識障害に伴ってどのような症状があらわれるか異なります。
たとえば、側頭葉から興奮がおこった場合、衣服をまさぐる、口をもぐもぐする、口をぺちゃくちゃ鳴らす、ウロウロ歩くといった一見無意味な動作(自動症)があらわれます。
繰り返し述べていることですが、見立てには順番があります。
外因→内因→心因の順です。
外因とは、身体ないしは脳の急性の、しかし可逆的なことも多い精神症状です。
必須症状は意識障害とされています。
内因とは、統合失調症とうつ病を指しており、かつては原因不明とされていましたが、現在では遺伝的要因と環境的要因の組み合わせによって生じるとされています。
心因とは、その名の通り心理的要因によって生じる症状のことを指します。
例えば「記憶がない」という訴えが出てきたら、まずは外因(側頭葉てんかん等)を疑い、それが排除されてから解離性障害(心因)などを見ていくことが大切になります。
これは周辺情報がどんなに解離性障害の可能性を示していても同じです。
「心因にしか見えないものが外因であり、外因にしか見えなかったものが心因である」ということは古くから指摘されていることです。
また、こうした記憶障害という共通の症候があるというだけでなく、実際に解離自体がてんかんや脳炎によって生じることもあります。
上記には「筆者は実際、不明熱のあと遠い町の繁華街で発見され、それまでの記憶がなかった例を長期にわたって診療したことがある。抗けいれん薬と脳代謝改善剤で治療し、けいれん発作が受験の夜に一度あったが無事入試をすませ、その後20年近く元気に公務員として働いている。健忘症その他の解離現象の再発はなかった」と記載があります。
以上より、選択肢④が正しいと判断できます。
⑤治療の方針は失われた記憶を早期に回復させることである。
解離性障害の治療の基本は、安心できる治療環境を整えること、家族など周囲の人の理解、適切な支援者との信頼関係です。
解離性障害の主な原因は、上記のような心的外傷に類するような体験、慢性的なストレス状況におかれること、心的なストレスによりほかの人に自分を表現することができないことなどが挙げられます。
すなわち、解離されている心の部分は、安心できる関係性でしか表現できません。
解離性障害の症状の多くは、ある程度の時間を経れば自然に解消されるか、別の症状へ移行するのが一般的です。
早い段階で、催眠や暗示によって、解離性の健忘や、失立、失声、麻痺等を解消することは効果が期待できないだけでなく、症状を悪化させることもあります。
安全な環境や自己表現の機会を提供しながら、それらの症状の自然経過を見守るという態度も重要です。
安心感のない環境で健忘内容を思い出させようとすることは、心理的デブリーフィングを引用するまでもなく避けるべき行為と言えるでしょう。
むかし、ある臨床心理士が解離性障害のクライエントに対し「忘れていることを思いださせよう」としていました。
その度にクライエントは健忘症状を示し、結局は、カウンセリングの日自体を「忘れて」しまいました。
そもそも、クライエントは健忘していることを思い出すと「侵襲的に感じる」ために、健忘することで自身を守っているわけです。
それを思い出させようとするのは、その場の安心感が失われて当然と言えるでしょう。
そのクライエントは別のカウンセラー(臨床心理士は取得していない)に出会い、「思い出せないのには理由があるはずだから、それがわからないのに思い出そうとするのは止めておこう」という方針のもと支援を受け、徐々に軽快していきました。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。