公認心理師 2024-99

生活習慣病に該当するものを選択する問題です。

過去問で出てきた疾患もありますが、別角度からの問題になっていますね。

問99 生活習慣病に該当するものを1つ選べ。
① B型肝炎
② 1型糖尿病
③ Parkinson病
④ Turner症候群
⑤ 本態性高血圧症

選択肢の解説

⑤ 本態性高血圧症

まず本問で問われている生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称です。

生活習慣病の範囲や定義には、はっきりと定められたものはありませんが、健康増進法では「がん及び循環器病」、「健康日本21」では、「がん、心臓病、脳卒中、糖尿病等」と位置づけています。

「生活習慣病」の範囲については、以下に例示するような生活習慣と疾病との関連が明らかになっているものが含まれる。

食 習 慣インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等
運動習慣インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等
喫煙肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病等
飲酒アルコール性肝疾患等

なお、世界保健機関(WHO)は似たような概念として、NCDs(Noncommunicable diseases、非感染性疾患)という用語を用いており、NCDsには心臓病、脳卒中、がん、糖尿病のほか、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患が含まれます。

上記の通り、生活習慣病には高血圧症が含まれていることがわかりますね。

安静時でも慢性的に血圧が高い状態が続いていることを高血圧症と呼び、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合であり、どちらか一方でもこの値を超えていると高血圧症と診断されます。

高血圧症には腎臓疾患や内分泌異常、心臓や血管の異常などが原因で起こる「二次性高血圧」と、主に体質的な要因(親が高血圧であるなどの遺伝的要因)と他のさまざまな要因(塩分の摂り過ぎ、肥満、過度の飲酒、運動不足、ストレス、喫煙などの生活習慣なども含む)が加わって発症する「本態性高血圧」とがあり、高血圧症のほとんどが本態性高血圧症です。

本態性高血圧症の治療では、生活習慣の改善を目指し、まずは減塩し1日の塩分摂取を6-7g以下目標にします(日本人の平均塩分摂取量は男性11g、女性9g程度とされており厳密な減塩が必要になります)。

その他、BMI25以下への減量、禁煙、節酒、有酸素運動、野菜や果物などカリウムの摂取、脂肪摂取の減量などの生活習慣の改善が重要です。

また、降圧剤の摂取など、薬物療法も選択肢に入ってくるでしょう。

なお、「公認心理師 2020-18」にもある通り、本態性高血圧症は心身症でもありますね。

以上より、選択肢⑤が生活習慣病に該当すると判断できます。

① B型肝炎

B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって起こる、致命的となり得る肝臓の感染症です。

B型肝炎は、主要な世界的健康問題で、ウイルス性肝炎の中では最も重症な型であり、慢性肝疾患を起こし、肝硬変や肝がんによる死亡の危険が高くなります。

世界中で20億人が感染していると推計されており、2億4千万人以上が慢性の(長期にわたる)肝臓感染症にかかっていると推計されていて、毎年60万人がB型肝炎の急性または慢性の経過によって死亡しています。

地理的分布として、B型肝炎は中国やアジアの他の地域にまん延しています。

この地域のほとんどの人は、小児期にB型肝炎ウイルスに感染し、成人の8%から10%が持続感染していおり、この地域におけるB型肝炎によるがんは、男性の三大死因の一つであり女性のがんの主な原因となっています。

アマゾンや、東部ヨーロッパと中央ヨーロッパの南部でも持続感染が高率で、中東やインド亜大陸では、全人口の2%から5%が持続感染していると推計されています。

一方、西ヨーロッパや北米では、持続感染しているのは人口の1%未満です。

B型肝炎ウイルスは、感染した人との血液と血液の直接接触や、精液や膣分泌液によって感染します。

感染経路はHIVと同じですが、B型肝炎ウイルスはHIVに比べて50倍から100倍感染力が強く、また、B型肝炎ウイルスはHIVと異なり、人の身体の外でも少なくても7日間は生存することができ、この期間に予防接種を受けていない人の身体にウイルスが入った場合には、感染が成立することがあります。

開発途上国で、よくみられる感染経路には、以下の経路があります。

  • 周産期(出生時の母から子への感染)
  • 小児早期の感染(感染している家族との密接な人‐人感染による不顕性感染)
  • 安全でない注射器の使用
  • 安全でない輸血
  • コンドームを適切に使用しない性的接触

多くの先進国(例えば、西ヨーロッパや北米)では、感染経路は開発途上国と異なり、主に、青年期の性交渉や注射薬物使用による感染が中心になっています。

B型肝炎ウイルスは汚染された食物や水によって広がることはないので、通常、職場で感染が広がることはありません。

B型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均90日ですが、30日から180日の幅があり、ウイルスに感染した後、30日から60日後にウイルスが検出されるようになるなど検出される期間には幅があります。

このことからもわかる通り、B型肝炎は生活習慣病ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢①は生活習慣病に該当しないと判断できます。

② 1型糖尿病

1型糖尿病は、インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β細胞が破壊されることにより、インスリン分泌能が低下・消失し、インスリン欠乏が生じる病態で、生存にはインスリン補充が必要な「インスリン依存状態」となることが多いとされています。

小児~15歳で発症することが多いとされていますが、中高年になって発症する例もあります。

β細胞の破壊には、HLA遺伝子などが関与していると考えられています。

HLAは白血球中の免疫機能を調整する遺伝子のひとつであり、それがウイルス感染などをきっかけに自己免疫反応を引き起こすと考えられています。

1型糖尿病には、糖尿病発症後わずか1週間のうちにケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る「劇症1型糖尿病」、数年をかけてゆっくりインスリン依存状態になる「緩徐進行1型糖尿病」があります。

1型糖尿病は、遺伝要因を有する人に、環境要因がトリガーとなって免疫異常をきたし、発症すると考えられています。

環境要因としては、食事がトリガーになっている可能性が以前から指摘されており、もっとも有名な食品は牛乳です(1型糖尿病を発症した小児において、乳製品摂取の時期が早かったこと、消費量が多かったという報告がある)。

ただし、その後の研究では一定した見解が得られておらず、そのほかにもさまざまな報告があるので、現在も研究中という状態です。

これに対して、2型糖尿病は、過食・運動不足でエネルギー摂取の過剰状態が続くと、血糖値を正常に保つために多くのインスリンが分泌されます(これを代償インスリン過分泌と言います)。

そして、過剰に分泌されたインスリンにより脂肪が蓄積されていきます。

脂肪細胞は内分泌細胞でもあるため、脂肪が分泌されることによって悪玉アディポサイトカインが増加、善玉サイトカインが減少し、結果としてインスリン抵抗性(簡単にいうと「インスリンの効き具合」を意味する。膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態)が起こります。

なお、「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味し、アディポサイトカインは脂肪細胞から分泌されるその多彩な生理活性物質の総称で、アディポサイトカインには悪玉物質と善玉物質があり、悪玉には血栓をつくりやすくするPAI-1、インスリン抵抗性を起こすTNF-α、レジスチン、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンなどが、また善玉にはインスリン抵抗性を改善し、動脈硬化を防ぐアディポネクチンがあります。

インスリン抵抗性によるインスリン過剰分泌状態が続くと膵β細胞は疲弊し、インスリン分泌能力が低下します。

それに加え、高血糖が持続すると、高血糖自体がインスリン分泌能を低下させ、同時にインスリン抵抗性を増大させることにより、更なる高血糖を助長します(この悪循環を「糖毒性」とよぶ)。

これらの変化は徐々に起こり、インスリン分泌のピークが遅れて食後の高血糖がみられる境界型糖尿病から、十余年かけて糖尿病へと進展します。

さらにインスリン分泌能低下が進行すれば、高血糖の是正にインスリン治療が必要になってきます。

選択肢⑤の解説内にもあったように、生活習慣病として認められるのは「インスリン非依存糖尿病」になります。

インスリン非依存糖尿病とは、要するに2型糖尿病のことを指すと思っておいてもらって大丈夫です。

その発症機序を踏まえれば、1型糖尿病が生活習慣病に該当することはないと考えるのが妥当ですね。

よって、選択肢②は生活習慣病に該当しないと判断できます。

③ Parkinson病

パーキンソン病は、黒質のドパミン神経細胞の障害によって発症する神経変性疾患です。

3大症状として、①静止時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③運動緩慢・無動を特徴とし、このほかにも、④姿勢保持障害、⑤同時に2つの動作をする能力の低下、⑥自由にリズムを作る能力の低下を加えると、ほとんどの運動症状を説明することができます。

運動症状として、初発症状は振戦が最も多く、次に動作の拙劣さが続き、中には痛みで発症することもあり、五十肩だと思って治療していたが良くならず、そのうち振戦が出現して診断がつくこともまれではありません。

しかし、姿勢保持障害やすくみ足で発症することはなく、症状の左右差があることが多いです。

動作は全般的に遅く拙劣となるが、椅子からの起立時やベッド上での体位変換時に目立つことが多いです。

表情は変化に乏しく(仮面様顔貌)、言語は抑揚と声量が低下して、なにげない自然な動作が減少します。

歩行は前傾前屈姿勢で、前後にも横方向にも歩幅が狭く、歩行速度は遅くなり、進行例では、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなり、いわゆるすくみ足が見られ、方向転換するときや狭い場所を通過するときに障害が目立ちます。

パーキンソン病では上記の運動症状に加えて、意欲の低下、認知機能障害、幻覚、妄想などの多彩な非運動症状が認められることがあります。

このほか睡眠障害(昼間の過眠、REM期睡眠行動異常症)、自律神経障害(便秘、頻尿、発汗異常、起立性低血圧)、嗅覚の低下、痛みやしびれなど様々な症状を伴うことが知られるようになり、パーキンソン病は単に錐体外路疾患ではなく、パーキンソン複合病態として認識すべきとの考えが提唱されています。

近年では運動症状のみならず、こうした精神症状などの非運動症状も注目されています。

発症年齢は50~65歳に多いが、高齢になるほど発病率が増加し、40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれ、この中には遺伝子異常が明らかになる場合もあります。

このように、パーキンソン病は大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こります(ドパミン神経が減ると体が動きにくくなり、ふるえが起こりやすくなります)。

このドパミン神経細胞が減少する理由はわかっていませんが、現在はドパミン神経細胞の中にアルファ-シヌクレインというタンパク質が凝集して蓄積し、ドパミン神経細胞が減少すると考えられています。

なお、パーキンソン病は、遺伝はしませんが、若く発症する人の一部では家族内に同じ病気の人がいて、病気の原因となる遺伝子が確認されることがあります。

いずれにせよ、こうした要因を踏まえると、パーキンソン病が生活習慣病(食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称)ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は生活習慣病に該当しないと判断できます。

④ Turner症候群

ターナー症候群は、女児が2本のX染色体の片方が部分的または完全に欠失した状態で生まれてくる性染色体異常です。

臨床的には、低身長、性腺異形成、特徴的奇形徴候により特徴づけられ、また、高度の流産率も知られています。

現在、ターナー症候群の正確な定義はないが、通常の染色体検査で認識される染色体異常と上記の臨床症状の少なくとも1つが存在するとき、ターナー症候群と診断してよいと考えます。

すべてのターナー症候群の女性に以下の特徴を認めるわけではありませんが、複数の特徴を持っていることが多いです。

  1. 低身長:ターナー症候群の女児の出生時の身長は平均約47cmで、ターナー症候群ではない女児と比べるとおよそ2cm小さいです。多くはその後の身長の伸びが小さく、3歳ごろから一般集団に比べて小さいことが目立ち始めます。思春期時期の身長増加も小さく、無治療の場合、大人になったときの身長は138cm前後となります。
     
  2. 二次性徴が現れないことが多い:一般的な女性は、平均10~12歳ごろに乳房が膨らんだり、月経がはじまったりします。これは二次性徴と呼ばれ、卵巣から血液中に分泌される女性ホルモンの働きによりおこります。ターナー症候群の女性では、卵巣の機能が弱いことが多く、二次性徴は起こらないか、乳房が膨らんだのみで月経が来ないなどのように不完全です。
     
  3. 身体的な特徴:首から肩にかける皮膚にたるみがある(翼状頚とよびます)、肘から先の腕が外に離れる(外反肘とよびます)、背中側の髪の毛の生え際が低い、手足の甲がむくむ、などの特徴があります。
     
  4. 知的面:一般的にターナー症候群の女性は、知的に正常で、まじめな性格の人が多いです。算数(図形)や体育が苦手など、得意不得意は存在しますが、ゆっくり時間をかければ、理解できるようになります。ただし、一部のターナー症候群の女性では知的障害を伴うこともあります。

なお、特徴の程度も人によって異なります。

以上のように、ターナー症候群は生まれつきの性染色体異常であり、後天的になることはありません。

よって、生活習慣病ではないことは明白です。

このことから、選択肢④は生活習慣病に該当しないと判断できます。

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