むずむず脚症候群に関する問題です。
内容自体は「むずむず脚症候群の基本的知識」に過ぎませんが、やはり心理からは少し遠い分野であることは間違いないので、ここまで勉強している人も少ないかもしれませんね。
問131 むずむず脚症候群について、正しいものを2つ選べ。
① 妊婦に多い。
② 鉄欠乏性貧血患者に多い。
③ 運動によって症状は増悪する。
④ 早朝覚醒時に出現する異常感覚が特徴である。
⑤ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉によって症状が改善する。
解答のポイント
むずむず脚症候群の概要を把握している。
選択肢の解説
むずむず脚症候群は心理からはやや縁遠い疾患かもしれません。
ただ、不眠の原因としてはよく見られるものですし、不眠を見立てる際の「外因」の可能性の一つとして頭に入れておくことが大切ですね。
余談ですが、私はこの病気は前から知っていました。
小学校くらいの時に見た「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」で上記のようなシーンがあったので、家にあった「家庭の医学」で調べたことがあったんです。
「なんでむずむず脚症候群で咳してんねん!」ですね。
他にもこういうシーンがありますが、この「おしりぴりぴり病」は、たぶん「坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)」のことだと思います。
坐骨神経というのは、腰から足の先までつながっている、人体のなかでも最も太くて長い、何本もの神経が集まった、神経の束のようなものです。
この坐骨神経が圧迫されると、その周辺にある知覚領域(痛みを感じるエリア)が刺激され、電気が走ったような痛みや、ピリピリしたしびれ、麻痺などを引き起こします。
痛みが出る場所も、腰、おしり、太もも、ふくらはぎ、ひざの裏、すね、足先など、人によってさまざまです。
痛みの原因となる疾患によっては、歩行が困難になる、座っていられなくなる、排泄ができなくなるなど、重篤な症状を引き起こすことがあります。
なんでも知っておくと役に立つということですね。
臨床実践では「知らないことで、できない支援がある」ということを私は強く思います。
未熟な私ごときの人間が「これは覚える価値がある」「こんなの臨床と関係ないでしょ」などと、知識の選り好みをするなど分を弁えない考え方はしないように自戒しております(臨床に使えないと判断するのは、自分の臨床が狭い証拠ですね)。
知識に関してどのような態度でいるかによって、その人の学びを促進するか阻害するかが分かれますね。
① 妊婦に多い。
② 鉄欠乏性貧血患者に多い。
⑤ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉によって症状が改善する。
むずむず脚症候群(下肢静止不能症候群)は、基礎疾患が明らかにできない突発性(一次性)と、鉄欠乏性貧血、慢性腎不全、妊娠、多発ニューロパチー、腹膜透析(PD)といった基礎疾患や状態があって発症する二次性とに分類されます。
前者では家族歴が濃厚で発症年齢が若い(小児期~40歳)ことに対し、後者では家族歴に乏しく発症年齢も高い(40歳以上)という傾向があります。
むずむず脚症候群の病態については、ドパミン作動薬に治療効果があることが偶然見出されて以来、ドパミン神経系に焦点を絞った研究がなされてきています。
少なくとも病理学的に神経変性が生じている疾患ではなく、ドパミン代謝亢進を伴った機能異常であり、脳内の鉄欠乏がその機能異常に関わっていることが示唆されています(鉄や葉酸はドパミンを作るもとになっています)。
根本的な原因は現在も完全には解明されていませんが、妊婦に生じやすく、特に妊娠最後の2~3ヶ月では約15%に症状が見られます(むずむず脚症候群の症状は分娩後に改善するとされています)。
妊娠すると循環する血液量が増えたり、胎児に優先的に栄養を送ったりするため、鉄分不足になる場合があります。
このことが妊娠すると(特に妊娠後期に)むずむず脚症候群が出やすくなる理由と考えられています。
治療についても述べていきましょう。
軽症例では、食習慣の見直し(アルコールやカフェインを避ける、意識して鉄を摂取する)、睡眠前の入浴やストレッチ、場合によっては足枕を使用する、冷却シートを脚に貼るといったことも効果があります。
中等症~重症例では薬物療法となりますが、長期にわたり対症療法を行うという前提を念頭に置き、最低必要量で対応していきます。
効果があるとされているものを大別すると、①ドパミン作動薬、②抗痙攣薬、③ベンゾジアゼピン系薬剤、④オピオイド製剤の4種になりますが、①や②が中心であり、③は不眠症状に対して用いられることがあり、④は日本において一般的に用いられていないとのことです。
なお、貧血を併存していないが、貯蔵鉄が正常範囲内低値(10~75ng/mL)の例でも鉄補充により改善する場合があり、上述の薬剤を使用しづらい小児、思春期、妊婦の場合は考慮される必要があります。
ドパミン作動薬については、症状の出現する数十分から1時間ほど前に服用することで、下肢の異常感覚の出現が抑えられる場合があり、またこのタイプの薬剤は、むずむず足症候群に大変多く見られる周期性四肢運動(足や手がビクンと動くけいれんで、通常20~30秒おきに認められ、夜間を通して出たり引っ込んだりする神経症状。85%のむずむず脚症候群には周期性四肢運動が合併するとされている)を起こりにくくさせる作用もあります。
このように、むずむず脚症候群は、妊婦や鉄欠乏性貧血患者に多く、ドパミン作動薬によって改善が期待できると言えます。
よって、選択肢①および選択肢②が正しいと判断でき、選択肢⑤は誤りと判断できます。
③ 運動によって症状は増悪する。
④ 早朝覚醒時に出現する異常感覚が特徴である。
こちらについては、まずICSD-3(International Classification of Sleep Disorder 3rd:睡眠障害国際分類第3版)のむずむず脚症候群の診断基準を確認してみましょう。
A.脚を動かしたい衝動があり、脚の不快で気持ちの悪い感覚を伴うことが多く、かつ以下の3つを伴う。
- 横になったり、座ったりといった休息や活動していないときに症状が出てくる、もしくは悪化する。
- 歩いたり、ストレッチしたりといった動きによって、少なくとも動かしている間は部分的、もしくは完全に症状がなくなってしまう。
- 夕方から夜にかけてのみ起こるか、もしくはその時期に一番悪化する。
B.上記の症状は、他の内科的または行動状態のみで説明できるものではない(例:こむらがえり、体位による不快感、筋肉痛、静脈うっ血、下肢の浮腫、関節炎、下肢をたたく癖)。
C.むずむず脚症候群の症状により心配、気分の落ち込み、睡眠の問題や精神的、身体的、社会的、仕事や学習、行動上の機能に問題が生じている。
ただし、こうした項目のすべてが患者の主観によるものになるので、操作的に当てはめるのではなく、不快感が出現する場面とそのときの行動が目に浮かぶまで具体的に聞き取ることが必要です。
表現は必ずしも「むずむず」ではなく、種々の形容になり(例:重だるい、ざわざわする、虫が這う、何かが中で引っ張っているような)、言葉で伝えるのが困難で当惑している様相を示します。
異常感覚の表現がいかなるものであっても「動かさずにはいられない」「動かすと(あるいは、押さえる、こする、叩く、指圧をするといった物理的な刺激で)楽になる」という症状を伴っており、軽減させるための具体的な方法を自ら会得している場合が多いです。
症状の出現と消失は概日リズム(サーカディアン・リズム)に従うのが原則であり、昼夜逆転の生活を送っていない限り、少なくとも発症当初は、夜間就寝前~就寝時に限局して生じ、入眠困難が強い場合でも明け方には少し眠って朝起床時には症状が無くなっていることを特徴とします。
家族歴も参考になり、診断に迷うときにはドパミン作動薬への反応性をもって判断する場合もあります。
上記の通り、むずむず脚症候群では、運動によって(少なくとも運動中は)症状が軽快もしくは消失すること、安静時や夕方から夜にかけて(就寝時など)症状が出やすいことが示されていますね。
以上より、選択肢③および選択肢④は誤りと判断できます。