公認心理師 2018追加-87

聴覚障害について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

「人体の構造と機能及び疾病」のカテゴリーは、臨床心理士試験には出題が稀な領域であり、本問のような聴覚障害に関する問題は出題されたことはありません。
ですが、例えば、特別支援学校の5障害には聾が入っていますから、もちろん我々の資格と関連がある領域と言えるでしょう。

音源より生じた空気の振動を感じることで、人は音を認識しています。
耳の機能により、音の振動は脳で感じるための電気信号に変換されます。
音により生じた鼓膜の振動は、鼓膜の奥の小さな骨(耳小骨)を伝わって内耳に到達し、内耳で振動は電気信号に変換され、聴神経を伝わって脳へ到達、音として認識されます。
難聴は、このプロセスが障害されることで生じます。

耳は、音を集めて鼓膜まで伝える外耳、音を増幅する中耳、音の振動を電気信号に変換する内耳という3つの部分から構成されています。
以下の通りです。

上記のいずれの箇所で問題が生じるかで、以下の通り難聴の種類が分けられています。
  • 外耳、中耳に原因のある伝音難聴
  • 内耳、蝸牛神経、脳に原因のある感音難聴
  • 伝音難聴と感音難聴の2つが合併した混合性難聴

このことを踏まえて、各選択肢の解説に入っていきます。

解答のポイント

難聴の種類と主な治療法を把握していること。
特別支援教育における聴覚障害児への指導について把握していると望ましい。

選択肢の解説

『①伝音難聴は内耳の疾患によって生じる』

伝音難聴は、何らかの原因で、音が外耳・中耳を通って内耳に到達することが妨害されるために起こる、すなわち外耳または中耳による難聴を指しています
伝音難聴の原因としては、一時的な場合と永続的な場合とがあります。

一時的な原因では、寒さやアレルギーによる耳の閉塞、耳感染症、外耳炎(水が中耳に閉じ込められ感染する。 適切に治療されると、感染が治癒され、聴力が回復する)、外耳道の過剰な耳垢などがあります。

永続的な症状の原因としては、外耳または中耳の奇形 、腫瘍、耳硬化症の原因となる麻疹やおたふく風邪によって中耳の耳小骨の一部が正常に機能しない、耳の骨に影響を及ぼす突発頭部外傷などがあります。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②日本手話には日本語に対応した文法と単語がある』

日本の手話には「日本手話」と「日本語対応手話」があります
ドラマ「星の金貨」とかで使われていたのは日本語対応手話のようですね。

「日本語対応手話」は、ベースは日本語ですので、日本語をしっかり取得した後に聞こえなくなった、中途失聴の方や、少しは聞こえるという難聴者の方が使っていることが多いようです(あくまでも一般的な傾向ですが)。
それに対して「日本手話」は、日本語の文法とは全く違う文法ですので、生まれつき聞こえない方や、幼少時に聞こえなくなった方が使っていることが多いとされています。

「日本語対応手話」はピジン言語(現地人と貿易商人などの外国語を話す人々との間で異言語間の意思疎通のために互換性のある代替単語で自然に作られた接触言語)ですから、日本語に対応した文法と単語があります

これに対して「日本手話」は、クレオール言語(意思疎通ができない異なる言語の商人らなどの間で自然に作り上げられた言語(ピジン言語)が、その話者達の子供たちの世代で母語として話されるようになった言語のこと)ですから、日本語とは全く異なる文法をはじめとする言語の体系を持っている

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③人工内耳埋込術後、速やかに聴力の改善がみられる』

人工内耳は、現在世界で最も普及している人工臓器の1つで、聴覚障害があり補聴器での装用効果が不十分である方に対する唯一の聴覚獲得法です
人工内耳は、手術で耳の奥などに埋め込む部分と、音をマイクで拾って耳内に埋め込んだ部分へ送る体外部とからなります。
体外部は耳掛け式補聴器に似た格好をしているものが主体ですが、近年、耳に掛けず後頭部に取り付けるコイル一体型の体外装置も製品化されています。

人工内耳は、その有効性に個人差があり、また手術直後から完全に聞こえるわけではありません
人工内耳を通して初めて聞く音は、個人により様々な表現がなされていますが、本来は機械的に合成された音です。
しっかりリハビリテーションを行うことで、多くの場合徐々に言葉が聞き取れるようになるので、術後のリハビリテーションが大切です。

経過として、手術後2週間前後で「音入れ」(初めて人工内耳を介した音を聞く)を始め、1~2カ月位は、週に1回程度電極の調整のマッピングを含めたリハビリテーションがあります
リハビリは聞き取りの訓練や機器の使用方法等を覚える期間であると同時に、人工内耳の機器に慣れる期間でもあります。
それ以後は個人個人でかなり違ってきますが、週に1回が2週に1回になり、そして月に1回といった具合にだんだん間隔を空けて半年から1年程度続きます。
その後も半年か1年に1回くらいの定期的な「聞こえのチェック」を行うことが望ましいとされています。

以上より、人工内耳の埋め込み手術後は、音入れから始まり、リハビリを通して音に慣れていくことが大切であることがわかります
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④発音指導は教育課程において自立活動の領域である』

自立活動は、特別支援学校学習指導要領に示されている、特別支援学校の教育課程に特別に設けられた障害に対応した指導領域を指します
幼児児童生徒の障害に由来する種々の困難を改善・克服すること、すなわち社会によりよく適応していくための資質を伸ばす指導の必要性を重視して、各教科、道徳、特別活動とは別に、特別の指導領域として設けられたものです

その内容については「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編」に記載されています。
具体的には以下の通りです。

  • 生徒の発音の実態や補聴器の活用状況、手話等のコミュニケーション手段の活用等に関する実態を把握するとともに、生徒の心理的な不安なども的確に受け止めて、自立活動の指導を計画することが大切である
  • 構音障害のある場合、発声・発語器官の微細な動きやそれを調整することが難しかったり、音韻意識の未熟さがあったりするため、正しい発音にならないことがある。そこで、構音運動を調整する力を高めたり、音韻意識を育て、音の弁別や自分の発音をフィードバックできるようにしたりして、正しい発音を定着させることが大切である
このように、特別支援教育の自立活動において発音指導がなされていることがわかります。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。

『⑤補聴器で音の聞き分けを改善しやすいのは感音難聴である』

感音難聴は、内耳(蝸牛と有毛細胞)が正常に機能していないことが特徴の難聴を指します。
内耳と聴神経はつながっていて、一緒に機能するため、内耳の問題と聴神経の問題を合わせて、ひとつの問題として考えられています。

感音難聴の最も一般的な原因は老化とされています。
歳を取るにつれて、内耳の微細な毛が傷つき、音を伝えることができなくなります。
それ以外の後天性の感音難聴には、外傷、過度の騒音(騒音性難聴)、メニエール病、髄膜炎など、様々な原因が考えられます。

先天性の感音難聴の場合は、出生時に難聴が生じています。
新生児に最も多くみられる異常であり、遺伝や胎児期の発達異常によるものとされています。
ワクチンが開発されるまでは、妊娠中に母親が風疹にかかることが、先天性難聴のもっとも一般的な原因でした。

加齢性難聴などは現在は治療は困難ですが、補聴器で聞こえを補うことで、認知症予防、生活の質を改善させることが可能です。
しかしながら、難聴の程度が重いと、補聴器が十分役に立たないことがあります
感音難聴の場合、音が歪んで聞こえており、補聴器を使うと、音は大きく聞こえますが、必ずしも明瞭に聞こえるとは限りません
特に、重度の難聴の場合は、高品質の補聴器でも音が歪むことがあるとされています。

重度の難聴で、補聴器であまり効果が得られない場合は、人工内耳の装用を考えてみると聞こえが戻る可能性があります。
人工内耳は、インプラントと呼ばれる機械を手術で側頭部に埋め込み、インプラントから伸びた電極を内耳(蝸牛)に挿入して、損傷を受けた内耳に代わって、聴神経を直接刺激して音を伝えるという仕組みです。
音を増幅する補聴器とは異なり、人工内耳は、音を電気信号に変換して、より自然な聴こえに近づけます。

一方、伝音難聴は、その原因となっている問題の治療が難しい場合であっても、補聴器を装用することで適切な音を内耳に届けられれば問題なく聞こえることも多いとされています
補聴器による改善は、感音難聴よりも伝音難聴の方が大きいと一般的には言えそうです

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です