公認心理師 2018追加-100

ストレス反応について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

セリエの学説の理解が問われている問題になっています。
汎適応症候群、HPA系(視床下部、下垂体、副腎)、ホルモンの作用などについて理解していることが大切になります。

ストレスはその他にもラザルス、ホームズとレイの社会再適応評価尺度などがよく知られています。
併せて覚えておきましょう。

解答のポイント

汎適応症候群の仕組みについて、HPA系を交えながら理解していること。

選択肢の解説

『①甲状腺ホルモンは代謝を促進する』
『④ストレスに長時間暴露され、疲弊状態になると免疫系が活性化される』

セリエは、生体が外部から寒冷、外傷、疾病、あるいは怒りや不安などの精神的緊張(ストレッサー)を受けたとき、これらの刺激に適応しようとして生体に一定の反応が起こることを発見しまし、これを「汎適応症候群」と名付けました
こちらは「警告期」「抵抗期」「疲憊期」という3つの段階が過程されています。

ストレッサーが生じると、ショックを受けて一時的に抵抗力が低下します。
すなわち、体温、血圧、血糖値は下がり、神経活動は鈍くなり、筋肉も弛緩します。
これらが「警告期」です。

次の段階では、身体がストレッサーに対して積極的に抵抗するようになり、生理的機能は亢進します。
持続するストレッサーと抵抗力とが一定のバランスをとり、生体防衛反応が完成される時期です。
これらが「抵抗期」となります。

しかし、ストレッサーが長期にわたると、生理的反応は限界に達し、抵抗力の低下が見られるようになります。
適応エネルギーの消耗からストレッサーと抵抗力のバランスが崩れ、再びショック相に似た兆候を示すことになります。
体温の下降、胸腺・リンパ節の萎縮、副腎皮質の機能低下などが起こり、ついには死に至ることになります。

こうしたストレス事態における身体の生理的反応には、自律神経系、内分泌系および免疫系の機能変動によって生じる様々な生理的変化が挙げられます。
ふつう自律神経系と内分泌系に免疫系が加わり、心身のバランスを保つ機構(ホメオスタシス)が維持されていると考えられますが、過剰なストレスが長期にわたってかかることにより、このホメオスタシスが崩れて病気になることがあります
上記の図の通り、疲憊期に入ると抵抗力がぐっと下がることからもわかりますが、免疫システムへのネガティブな影響が指摘されています

また免疫系のみならず、長期間のストレスによって内分泌系の調整パターンが変化する可能性も指摘されています
その一つが甲状腺ホルモン産生の促進です。
後述しますが、ストレッサーによって刺激された視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系の活動によって放出された糖質コルチコイドは、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、性ホルモン、インスリン、カテコールアミンなどの効果を増強する作用があります。
甲状腺ホルモンは、新陳代謝率の継続的な上方調整を促します

以上より、選択肢①は正しいと判断でき、選択肢④は誤りと判断できます。

『②コルチゾールは肝臓における糖分解を促進する』
『③コルチコトロピン放出ホルモン〈CRH〉は下垂体後葉を刺激する』
『⑤ストレス反応の第1段階は短時間で終わる視床下部からのホルモン分泌である』

汎適応症候群を指摘したセリエですが、その研究の最初期において適応における副腎の重要性に気づき、また、下垂体-副腎皮質系がストレス反応に重要であることを実証しました。
この重要なストレス反応系を「視床下部-下垂体-副腎系(hypothalamic-pituitary-adrenalaxis:HPA系)」と呼びます

大脳皮質がストレスを認識すると、視床下部へと刺激が伝えられ、副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン)放出ホルモン(CRH)が分泌されると下垂体前葉からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が促進されます
※選択肢③は「下垂体後葉」となっていますが、「下垂体前葉」が正しいです。

ACTHは副腎皮質を刺激し、生体の恒常性やストレス反応を制御するグルココルチコイド(コルチゾール)の分泌を促進します。
急性のストレスではコルチゾールの分泌が著しく増加し、血圧上昇、心拍数増加、血糖上昇(糖新生)、脂質分解促進、更にインスリン抵抗性や免疫等、様々な生体機能に影響を与えます
※選択肢①は「糖分解を促進する」となっていますが、「糖の新生を生じさせる」が正しいです。

このコルチゾールが分泌されるところまでが、セリエの「警告期」に該当します。
短期的にはストレスに対処する反応ですが、繰り返されると免疫力を低下させ、種々の病気への抵抗力が落ちるとされています。
コルチゾールは血糖値を上昇させ、細胞面疫や液性面疫を抑制し、特にナチュラルキラー細胞の活動を抑制するので、がんを悪化させたり、生じやすくさせたりします。

また、上記のHPA系の流れからもわかるとおり、大脳皮質がストレスを認識した最初の反応として、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されることがわかります
人体内における情報伝達は、神経系によるものと内分泌系によるものがあります。
神経系の伝達速度は速いのですが、内分泌系は血液の循環に伴ってゆっくりと全身に広がっていきますから、非常にゆっくりとした作用になります。
その分、効果の持続も長時間になるとされています。
※選択肢⑤は「短時間で終わる」とされていますが、この点が誤りであることがわかります。

以上より、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断できます。

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