問100はナルコレプシーに関する理解が問われています。
2019年度はナルコレプシーに関連する問題が出ますね(2019-30の選択肢⑤で出題)。
問100 ナルコレプシーについて、正しいものを1つ選べ。
①入眠時に起こる幻覚が特徴である。
②治療には中枢神経遮断薬が用いられる。
③脳脊髄液中のオレキシン濃度の上昇が特徴である。
④笑いや驚きによって誘発される睡眠麻痺が特徴である。
⑤耐え難い眠気による睡眠の持続は通常2時間から3時間である。
2019-30の選択肢⑤では「カタレプシー」と「カタプレキシー(情動脱力発作)」を読み間違えさせようとする問題が出ていました。
これは問題としてはあまり頂けない出題の仕方なのですが、一応、理由はあるんです。
それはナルコレプシー患者のカタプレキシー(情動脱力発作)は、しばしばカタプレシー(強硬症)と比較されるからです(古い辞書に載っていました)。
一方は突然身体の力が抜ける発作であり、もう一方は他人から受動的にとらされた姿勢を保ち続け、自分の意思で変えようとしない状態ですから、まったく逆の様子であることがわかりますね。
解答のポイント
ナルコレプシーの病態について把握している。
選択肢の解説
①入眠時に起こる幻覚が特徴である。
④笑いや驚きによって誘発される睡眠麻痺が特徴である。
⑤耐え難い眠気による睡眠の持続は通常2時間から3時間である。
ナルコレプシーは、睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺を四主徴とする一つの疾患単位です。
それぞれについて述べていきましょう。
ナルコレプシーの最も基本的な症状は日中反復する居眠りがほとんど毎日数年間にもわたって続くことです。
これは睡眠発作と呼ばれ、昼間何回も眠気に襲われ、実際に数十分も眠り込んでしまう発作性病状です。
通常は10~20分くらい眠ると目が覚めてサッパリすることが特徴的で、1時間を超えることは稀です。
しかし、いったん目が覚めて2~3時間もすると再び眠気が襲ってきます。
このとき意識的に緊張したり、身体を動かしたりすることによりある程度眠気を押さえることは可能だが、毎日続く眠気ですからずっと我慢し続けることは不可能でしょう。
睡眠発作は会議中であるとか、正常者でも眠気の起こりやすいときに見られることが多いが、歩行中などにも起こり得る点で正常者の眠気とは質的に異なると考えられます。
なお、睡眠発作は強い覚醒刺激を与えると覚醒させ得るものです。
情動脱力発作とは、笑ったり驚いたりなどの主に陽性の強い情動の変化に伴って起こる全身の脱力です。
この発作の持続はごく短時間であるが、骨格筋の脱力のほか顔面筋の脱力もあり、転倒したり机にうつぶせになったりすることもあります。
通常、脱力は瞬間的ですぐに回復するので、周囲の人にあまり気づかれずに済むことが多いが、突然顔の力に締まりがなくなり、ろれつが回らなくなったり、しゃがみこんで床に崩れ折れてしまったりすることもあります。
情動脱力発作中でも意識は保たれており、周囲の状況はよく記憶されています。
ときには情動脱力発作が続けざまに起こり、数分から30分間くらい脱力状態が持続することがあり、脱力重積状態と呼ばれます。
入眠時幻覚とは、入眠後まもなく体験される幻覚で、通常の夢に似るが夢よりも生々しく、現実感のある体験です。
入眠時レム睡眠期に一致します。
夜間睡眠時のみならず、昼間の睡眠時や睡眠発作時にも体験されます。
多くの場合、不安恐怖感のある幻覚で、何か怖いものが襲い掛かってきたり、のしかかられて苦しむといった内容のものが多く、強い現実感と恐怖感を伴う幻視、幻触、身体運動感覚、ときに幻聴が見られます。
通常、目が覚めることによって悪夢であったことを悟りますが、まれには入眠時幻覚が発展して日中にも侵入し、夢幻様体験から幻覚妄想状態を呈することもあります。
睡眠麻痺とは、通常入眠時幻覚による不安・幻覚体験に一致して、全身の脱力状態が起こることを言います(俗にいう金縛りと同じ状態です)。
患者は恐怖から助けを求めて起き上がろうとしますが、全身が金縛りとなって動けず、声もほとんど出すことができません。
以上より、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断でき、選択肢①が正しいと判断できます。
②治療には中枢神経遮断薬が用いられる。
ナルコレプシーの治療に用いる薬剤は以下の通りです。
まず睡眠発作を抑える目的で「精神刺激薬」を用います。
精神刺激薬としては、メチルフェニデート、ぺモリン、ピプラドロールなどがあります。
これらは夜間睡眠が改善しても残る日中の眠気に対して用いられることが多く、半減期を考慮しつつ投与することになります。
なお、夕方以後の服用に関しては、夜間残留する血中濃度のため睡眠が妨げられ、入眠時幻覚を賦活する恐れがあります。
メチルフェニデート投与中に統合失調症様症状(幻覚、妄想、昏迷など)が生ずることが稀にあります。
その際には投与を中止し、精神安定薬を投与することにより症状を抑えることができます。
夜間睡眠障害のある場合には、入眠と睡眠の持続を改善する睡眠導入剤やクロルプロマジンなどの抗精神病薬を投与します。
また、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺に対してはREM睡眠抑制作用のある三環系抗うつ薬を用いることもあります。
こちらは症状の強さに応じて就眠前、または朝・昼・就眠前に服用してもらいます。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
③脳脊髄液中のオレキシン濃度の上昇が特徴である。
視床下部外側野には、覚醒を維持する重要な生理的役割を持つオレキシンを産生するニューロンが局在しています。
オレキシンの欠損はナルコレプシーの病態に密接に関わっています。
ナルコレプシー患者の髄液では90%以上の割合でオレキシンAが非常に低値(110pg/mL以下)とされています。
最初にナルコレプシーとオレキシンの関係が示唆されたのは動物実験の結果からであり、オレキシンが欠損すると、ヒトでもマウスやイヌのような動物でもナルコレプシーを発症することがわかっています。
このことは少なくとも哺乳類において、オレキシンが広く覚醒の維持機構に関わっていることを示しています。
ナルコレプシーの病態はオレキシンの欠損によってもたらされます。
オレキシン産生ニューロンは脳内の広範囲にわたり広く投射しますが、特に脳幹のモノアミン・コリン作動性神経核に強く投射します。
そしてオレキシン受容体もこれらの核に強く発現しています。
つまり、覚醒の制御に係わるモノアミン作動性システムと深い関係があるということです。
この点については、電気生理学的実験からも、オレキシン覚醒を司るモノアミン作動性ニューロン群を興奮させる働きがあることが明らかにされています。
また、オレキシン作動性ニューロンは覚醒時に活動し、逆に睡眠時には停止しています。
ただし、オレキシンだけがこれらのモノアミン作動性システムを制御しているわけではありません。
ナルコレプシーは、睡眠と覚醒の切り替えが非常に不安定な状態と言え、オレキシンは言わば覚醒状態を安定化する(=睡眠に移行することを防ぐ)働きをもっていると考えられています。
ナルコレプシーの主症状の一つが強烈な眠気だとすると、オレキシン欠損によるモノアミン・コリン作動性ニューロンの発火の不安定性が眠気を作り出すための一つの条件である可能性が高いわけです。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。