心の理論、メンタライゼーション

今日は発達領域の「心の理論」「メンタライゼーション」についてです。
最後に紹介してある論文が、概要を把握するのに優れているかもしれません。

心の理論

他者の行動の背後には「心」の存在があるとする理論です。
Premack&Woodruff(プリマックとウッドラフ)が示しました。
彼らは、チンパンジーが餌を持っていないように振る舞う欺き行動から「心の理論」の存在を仮説化していきました。

つまりは心の理論とは、ヒトや類人猿などが、他者の心の状態、目的、意図、知識、信念、志向、疑念、推測などを推測する心の機能のことなので、他者の目的・意図・信念・推測などの内容が理解できていれば「心の理論」を持っていると見なします。

Dennettは子供が「心の理論」を持つと言えるためには、他者がその知識に基づいて真であったり、偽であったりする志向や信念をもつことを理解する能力、すなわち誤信念を理解することが必要であると指摘しました。
これに基づきWimmer&Perner(ヴィマーとパーナー)は心の理論の有無を調べるための課題、すなわち誤信念課題(False-belief task)を行いました。
この課題を解くためには、前述したように他人が自分とは違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できなければならないわけですね。

代表的な誤信念課題は、マクシ課題、スマーティ課題、サリーとアン課題などがありますが、ここではサリーとアン課題を示します。

  1. サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる。
  2. サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行く。
  3. サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す。
  4. サリーが部屋に戻ってくる。

上記の場面を被験者に示し、「サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すか?」と被験者に質問します。
正解は「かごの中」だが、心の理論の発達が遅れている場合は「箱」と答えるわけです。

その結果として示されているのは以下の事柄です。

  • 3~4歳では正答せず、4歳ごろから正答率が上昇。
  • 「Aが場所Bから場所Cに移っている、と誤って思っている」という考え方(二次的信念の理解)は9~10歳ごろと身につく。
健常児が4歳ごろから解決可能になる誤信念課題をASD児がなかなか通過できないことが知られています。
この結果に基づき、ASDの中核的障害が「心の理論」の欠如にあるという考え方が提案されていましたが、それを否定する知見も多く、この議論はそれほど行われていないように見受けられます。

メンタライジング(メンタライゼーション)

自己と他者の精神状態に注意を向けることを指します。
Allenら(アレン)は、「行動を、内的な精神状態と結びついているものとして、想像力を働かせて捉える・解釈すること」としています。
自分や他者の精神状態に注意を向け、その精神状態についての認識を心にとどめおいて、考えたり吟味したり感じたりすることであり、この自分自身や他者の感情について注意を向けて考えている時(精神状態を認識している時)に「メンタライズしている」と表現します。
 「心で心を思うこと」「自己や他者の精神状態について注意を向けること」「誤解を理解しようとすること」「自分自身をその外側から眺めること、他者をその内側からみつめること」「(何か/誰かに)精神的性質を付与すること、あるいは精神的に洗練させること」などが重要とされ、愛着理論や認知療法などと重なる概念でもありますね。
メンタライジングは、人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力であることがわかると思います。
メンタライジングの始まりは、乳児期初期の社会的知覚だと考えられています。
すなわち、人に対する志向性から始まり、母子関係に代表される二項関係、さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立(共同注意などがその代表的現象ですね)、そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続いていくとされています。
メンタライジングが心の理論と並んで記載されているのは、こうした理由があるわけです。
こちらの論文などが詳しかったです。

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