公認心理師 2024-91

発達のレディネスを重視してA. L. Gasellが提唱した学説を選択する問題です。

発達心理学の歴史に関する問題と言っても良いでしょう。

問91 発達のレディネスを重視してA. L. Gasellが提唱した学説として、最も適切なものを1つ選べ。
① 輻輳説
② 環境閾値説
③ 環境優位説
④ 成熟優位説
⑤ 相互作用説

選択肢の解説

③ 環境優位説
④ 成熟優位説

心理学では、古くから「氏か育ちか」という論争が行われてきました。

ここで挙げている2つの説は、それぞれ「氏に偏った考え方」と「育ちに偏った考え方」の代表になります。

まず「成熟優位説」とは、Gesell(ゲゼル)が提唱した説であり、「人は適切な成熟を待たなければ、教育や訓練の効果はない」という考えになります。

ゲゼルは「一卵性双生児」の実験を行い、双生児に対して、1人には階段のぼりの訓練をさせて経験の比較実験を行いました。

その結果、訓練をさせた子どもは一時的に良い成績を残しましたが、一定期間を過ぎると双子の差が無くなってしまったことから、学習には必要条件があり、ある程度の内的な成熟段階に達していることが必要であることが示されました。

ゲゼルの成熟優位説において、その成熟段階に達していることを「レディネス(学習準備性)」と呼びます(「ready go!」のレディですね)。

これに対して、環境優位説とはWatson(ワトソン)が唱えた説であり、学習に遺伝的な要素は関係なく、後天的に与えられた環境によって、どのようにも変化すると主張したものになります。

この考え方の根拠となっているのが「アルバート坊やの実験」で、赤ちゃんに白いネズミのおもちゃを見せ、同時に大きな音を鳴らして怖がらせるというものでした。

実験を繰り返すと、赤ちゃんは音を鳴らさなくても白いネズミ、あるいは白いものを見るだけで怖がるようになりました。

ワトソンは、発達心理学の基本は「環境から刺激に対する子どもの反応と条件づけが発達の要因」と考えており、学習により「どんな人間」にでも教育できるという、つまり「氏よりも育ち」 という環境優位説・行動理論説を主張したわけですね。

以上からもわかる通り、本問の「発達のレディネスを重視してA. L. Gasellが提唱した学説」は成熟優位説であることがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

① 輻輳説

輻輳は車輪を支える放射状の矢が中心に集まってくる様態のことであり、転じて一般的に複数の事項が方々から寄り集まることを意味します。

心理学における輻輳説は、個人の性格などの形成に関して、生得か獲得か、すなわち、氏か育ちかといった二者択一ではなく、複数の要因を包括的に考えるべきであるとする説です。

内的遺伝的要因と外的環境要因の双方が、収斂・収束して個々人の性格や人格が形成されるという考え方ですね(生得的要因と環境要因が、別々に寄り集まって発達に影響を与えている、という考え方)。

輻輳説はStern(シュテルン)が提唱した理論になっています。

輻輳説が特徴的なのは「発達とは遺伝と環境の足し算である」と考える点になります。

すなわち、視力は「遺伝が80%、環境が20%」のように考えるということです。

生まれつきの性質で視力がどれくらいになるかはおおかた決まり、視力を伸ばそう・維持しようとする工夫(遠くを見るとか、ブルーベリーを食べるとか)をどれくらいやるかでプラス20%の部分が決まる、という感じです。

これは「発達のレディネスを重視してA. L. Gasellが提唱した学説」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 環境閾値説
⑤ 相互作用説

人間や生物一般のもつ諸形質(形態、行動、能力、パーソナリティなど)の形成やその個人差・個体差のすべて、あるいはその一部の説明の仕方として、遺伝と環境、親と子、人と状況など、対立する諸要因やエージェントのいずれか1つだけに還元したり、いずれか一方が原因、他方が原因と見なすのではなく、それら要因が相互にダイナミックに作用しあう点を強調する立場の総称を「相互作用説」と呼びます。

古典的には、遺伝要因、環境要因のどちらか一方に原因を帰する孤立要因説(生得説や経験説)や、両者間の静的な統合性・全体性・加算性を謳う輻輳説に替わって登場した説とされ、ピアジェの発生認識論、ミシェルの状況主義などがその代表例とされています。

今日、相互作用説の立場はどの分野でもほとんど自明であると言えますが、要因がそれぞれに独立性をもったうえで相互作用とすると考える立場と、独立して作用する要因の存在そのものを否定し、要因と見えるものも相互作用過程の中で漸次作り出されていると考える立場があります。

この相互作用説は、人間の発達に遺伝と環境の要素が関わるという点では輻輳説と大きな違いは無いように見えますが、新しいポイントは、遺伝と環境が互いに影響する(相互作用)ものである、という考え方に独自性があるとされています。

輻輳説が単純な足し算の理論だとすれば、相互作用説は「発達=遺伝×環境」という掛け算の理論であるという説明がなされていますね。

相互作用説の中でも、遺伝と環境の関係性について具体的に説明しているのが、Jensen(ジェンセン)の唱えた環境閾値説です。

環境閾値説は、特性によって環境要因から受ける影響の大きさが異なり、環境がある一定の水準(閾値)に達したときにその特性が発現するという説です。

つまり、環境閾値説では、ある性質が発現するためには、遺伝要因も環境要因も必要だが、性質によって必要となる環境要因の度合いが異なる、という考え方になります。

輻輳説は単純に遺伝的要因と環境的要因の総和を考えるわけですが、環境閾値説は環境要因は一定の水準に達するか否かで、影響するorしないの境界が存在するということですね。

例えば、身長や視力のような遺伝の影響が大きいものであれば、どのような環境要因であれ、両親の身長が高ければ身長が高い子どもに、両親の視力が悪ければ視力が低い子どもになる可能性が高くなります。

対して、絶対音感であれば、両親がその性質を備えていたとしても、環境(ある年齢までに一定の経験をする必要性が高い)の影響がないと身につかない特徴になります。

つまり、身長や視力の場合は、環境要因の影響度合い(閾値)が低いのに対し、絶対音感の場合は閾値が高い、ということになるわけですね。

以上のように、相互作用説および環境閾値説は「発達のレディネスを重視してA. L. Gasellが提唱した学説」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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