流動性知能の特徴について問う内容です。
不適切となる選択肢が流動性知能と対応する結晶性知能に関しての記述であるなど、かなり親切な問題だと言えます。
こういう問題は落とさないようにしたいところです。
問112 流動性知能の特徴として、不適切なものを1つ選べ。
① 図形を把握する問題で測られる。
② いわゆる「頭の回転の速さ」と関連する。
③ 学校教育や文化的環境の影響を受けやすい。
④ 新しい課題に対する探索的問題解決能力である。
⑤ 結晶性知能と比べて能力のピークが早期に訪れる。
解答のポイント
Cattellの提出した「流動性知能」「結晶性知能」に関して概要を把握している。
選択肢の解説
① 図形を把握する問題で測られる。
② いわゆる「頭の回転の速さ」と関連する。
③ 学校教育や文化的環境の影響を受けやすい。
④ 新しい課題に対する探索的問題解決能力である。
⑤ 結晶性知能と比べて能力のピークが早期に訪れる。
本問では、選択肢を一つずつ解説していくと、かえってわかりづらいので、流動性知能とその周辺に関する知識を概観する形で解説していきます。
知能とは何かという知能についての定義づけは、古くから多くの議論、多くの主張がなされてきました。
それらの主張を大きくカテゴライズすると、ほぼ三つに分けることができます。
- 高等な抽象的思考能力という見方:TermanやSpearmanによって代表される。Termanは「抽象的思考を行いうる程度に比例してその人は知能的である」という提言を行っていますし、Spearmanは知能の本質は関係の抽出と、相関者の抽出であるとしています。Jaspersが、判断力や思考力、そして自発性や主導性が本来の知能であるとし、記銘や記憶、知識とは異なった能力であると述べているのも、こちらに含まれる。
- 学習能力とする見方:Dearbornは、知能をより広く「学習する能力、又は経験によって獲得していく能力」と主張している。
- 環境への適応能力とする見方:Sternは、知能を「個体が試行作用を合目的的に方向づけ、新しい要求に向かって意識的に関わる能力であり、生活上の新しい課題と条件に対する全般的精神的適応力」としている。
上記は、1→3になるにつれて、より広く知能を定義づけていると言えますが、近代では3を中心としつつも1や2も含有しようとする定義が増えてきました。
例えば、APA(アメリカ心理学会)では「知能とは学習する能力、学習によって獲得された知識および技能を、新しい場面で利用する能力であり、また獲得された知識によって選択的適応することである」としており、Wechslerは「個人の目的的に行動し、合理的に思考し、環境を効果的に処理する総合的または全体的な能力である」としています。
上記のどのような立場に依拠するにせよ、知能には諸々の側面、因子があって、それらが全体として有機的な構造を形作っているという点に関しては、多くの人が否定できないことだと言えます。
さて、こうした知能の構造についての代表的な議論を以下に記します。
- Spearman(1904)
知能を単一のまとまりではなく、いくつかの質的に異なる能力に分けられるという立場から、「知能はすべての知的活動に共通に働く一般因子(g因子)と相互に独立した各能力ごとの固有の特殊因子(s因子)から構成されており、検査間の相関はg因子による」という二因子説を唱えた。 - Thurstone(1938)
「空間認知、言語理解、言語流暢性、機能、認知速度、演繹、機械的暗記、推論の8項目の知的機能から構成される」と多因子説を唱え、それぞれの機能は脳内の基本的神経回路に対応していると考えた。 - Vernon(1950)
「g因子の基盤の下にverbal-educational因子とspatial-mechanical因子とがあり、更にはこれらの下にいくつかの小群因子がある」と階層構造を想定した。 - Cattell(1971)
「流動性知能(生活の中で経験しながら学習される、神経生理学的反応)と結晶性知能(個人の経験や文化的、教育体験により形成されるもの)という2つの共通因子に大別できる」とした。
この考え方は、Hebb(1949)のいう「A知能(知識を獲得するための基本的な生物学的能力)とB知能(文化、教育。個人的経験の蓄積)」にほぼ対応している。 - Stanberg(1985)
コンポーネント理論(人間の知的行動の背後にある構造と機能を明らかにするもの)、経験理論(新しい状況や課題に対処する能力の理論と情報処理を自動化する能力の理論に二分される)、文脈理論(知的行動が社会的文脈によってどのように規定されるのかを明らかにするもの)の三本柱からなる鼎立理論の概念を提出した。
本問では、上記のCattellの「流動性知能」について問われています。
以下では、こちらについて詳しく述べていきましょう。
流動性知能に関しては、以下のような特徴を持つとされています。
- 記憶や知覚、推理といった基本的な情報処理としての能力。
- 新しい状況に適応したり、これまで経験したことのない問題を解決するのに用いられる能力。
- 生得的要因(問題に対する適性・関心・能力)に強い影響を受けていて、後天的な文化や教育の影響が比較的少なく、非言語性知能検査の結果によく反映される。
- 青年期(18歳~20歳)までは急速に上昇し、その後ゆるやかに衰退がはじまり、老年期にはかなり衰退する(Horn&Cattell,1963)。
- 性格特性とも関連するとされている。
こうした特徴から、選択肢②の「いわゆる「頭の回転の速さ」と関連する」ということ(新しい状況でも要領よく対応することができるなど)が言えますし、選択肢④の内容もまさに該当すると言えます。
さて、この流動性知能と対応するのが結晶性知能であり、その特徴は以下の通りです。
- これまでの文化、教育環境と結びついて発達する能力。
- 言語や知識の豊かさなどに関係する知能。
- 経験や学習によって得た知識ないしは、その知識の再生によって解決できる場面で働く知能。
- 青年期以降も衰えず、老年期まで緩やかに発達していく。
これらより、選択肢③の内容は結晶性知能に関する内容であることがわかります。
また、流動性知能と結晶性知能のピークの時期の違いは明示されていますから、選択肢⑤は流動性知能の説明として正しいですね。
上記には、流動性知能は「非言語性知能検査の結果によく反映される」とありますが、具体的にはどのような検査によって測定されるのか見ていきましょう。
まずその代表は、キャッテル自身が流動性知能を測定するために開発した「CFIT(Cattell Culture Fair Intelligence Test)」です。
具体的な問題例は上記のようなものになっており、図形を把握する問題が示されるのがわかりますね。
また、WISC-Ⅲでは「言語性知能」「動作性知能」という捉え方が採用されていました。
言語性知能は、主に言語性の能力や聴覚-音声処理過程の能力を測定する指標であり、過去の学習経験を得られた判断力や習慣などの結晶性知能との関係が深いとされています。
対して、動作性知能は、動作性能力や視覚-運動処理過程の能力を測定する指標で、また、新しい状況に適応する流動性知能との関係が深いとされています。
WISC-Ⅲにおける動作性知能に類する検査としては「絵画完成・絵画配列・積木模様・組み合わせ・符号」があり、概要は以下の通りです。
- 絵画完成:不完全な欠如部分のある絵画を被験者に提示して、その絵画に欠如している重要な部分を指摘させる。
- 絵画配列:時間的連続性と物語的相関を持つ複数の絵画を正しく並べ替える。複数の絵を見てそこに内在している物語を発見する能力と時間的な前後を正しく認識する能力が要請される流動性知能を測定する為の尺度。
- 積木模様:積木とその積木で作る模様の手本を示して、被験者に積木で模様を出来るだけ早く作らせる。与えられた道具と状況を元にして課題を解決するという高度な流動性知能を測定する
- 組み合わせ:与えられた複数の紙片を利用して、一つの意味ある形態や模様を作り出す
- 符号:記号とセットになっている数字を素早く記憶して、例示された見本と同じように記号に合う数字を書き込んでいく。変化する状況に素早く適応する流動性知能を測定する。
上記の通り、これらの検査は流動性知能を測定することができると言えますが、図形を把握する問題が多いことがわかりますね。
更に、WISC-Ⅳでも流動性知能という視点がなくなったわけではありません。
WISC-IV下位検査のCHC分類では、以下のような8つの新しい臨床クラスター示されています。
- 流動性推理(Gf)
- 視覚処理(Gv)
- 非言語性流動性推理(Gf-nonverbal)
- 言語性流動性推理(Gf-verbal)
- 語い知識(Gc-VL)
- 一般的知識(Gc-KO)
- 長期記憶(Gc-LTM)
- 短期記憶(Gsm-MW)
上記のうち、流動性推理、非言語性流動性推理、言語性流動性推理、などが示されていますね。
流動性推理は「行列推理・絵の概念・算数」などの下位検査で、非言語性流動性推理は「行列推理・絵の概念」などの下位検査で、言語性流動性推理は「類似・語の推理」などの下位検査で見ていくとされています。
ここでも図形の把握の問題が含まれていることがわかります。
以上のように、CFIT、WISC-Ⅲ、WISC-Ⅳの検査内容から、流動性知能を検出する具体的な問題を見ていくと、選択肢①の「図形を把握する問題で測られる」というのは適切な表現であることがわかりますね。
上記より、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は流動性知能の特徴の記述として適切と判断でき、除外することになります。
対して、選択肢③は結晶性知能の特徴を記述していると言えますから不適切と判断でき、こちらを選択することになります。