青年期の特徴として、不適切なものを1つ選ぶ問題です。
問111 青年期の特徴として、不適切なものを1つ選べ。
① 心理的離乳
② 直観的思考
③ モラトリアム
④ 2次性徴の発現
⑤ 発育のスパート
近年、青年期という表現を使うことが減りましたね。
青年期に関する理論はいろいろありますが、「社会から離れた私」であると同時に「古い考えと新しい考えをつなぐ存在である私」という存在であるというのが私個人の見解です(もちろん、こういう主張をしている人も多くいますね)。
青年期という表現が使われなくなるに従い、「青春」という言葉も使われなくなっていくでしょう。
青年期の理論は多く見受けられますが、クロスオーバーしている面もかなりあるので、共通点を意識しつつ、共通点の背景にあるニュアンスの違いも汲み取れると良いでしょう。
解答のポイント
青年期に関連する概念を把握しておくこと。
選択肢の解説
① 心理的離乳
④ 2次性徴の発現
⑤ 発育のスパート
心理的離乳は青年期前期頃に生じる、親からの心理的自立の試み、あるいは情緒的自律性の獲得を指しています。
アメリカの心理学者ホリングワースが使用した心理学用語で、その後、青年期の心理を表す言葉の一つとして定着しました。
ホリングワースが心理的離乳という単語を初めて使用したのは、1928年に出版された「青年期」という書籍です。
この書籍の中で、ホリングワースは、青年期を「子どもが家族の監督から離れて自立しようとする心理的離乳の時期」だと表現しています。
心理的離乳の現われ方としては、親への反抗、親との葛藤をともない、一時的にその関係性および成年の生活全般を不安定なものにしますが、それを通して青年は親との間に最適な心理的距離を見出し、親とは異なる独自の価値感、信念、理想などを確立します。
こうした心理的離乳による自律性の獲得は、多くの場合、同じ苦悩を共有する友人との相互依存関係を通して、しばしば無自覚の不安に対処し、漸次的に具現化されると言われています。
同年代の友人の大切さは、さまざまな理論家が指摘していますね。
また、心理的離乳が起こる時期に見られる生理的・身体的成熟が「第二次性徴」と呼ばれるものです。
「第二次性徴」とは、いわゆる思春期になってから現れる、性器以外のからだの各部分に見られる男女の特徴のことをいいます。
男子は、性器の大きさや体毛の変化、声変わり、筋肉や骨格の発達、 精通などが起こります。
女子は、乳房の発達、丸みをおびたからだつきへの変化、初経などが起こります。
こうした思春期には身長がぐっと伸びることがあることは多くの人が知っていると思います。
思春期の急激な身長の伸びは「成長(発育)スパート」と呼ばれています。
成長スパートの開始年齢は、個人差がありますが女子では11歳、男子は13歳頃にピークになります。
この時期は身長が8~9cmも伸び、子どもから大人へと体が大きく成長します。
この時期の過ごし方として、バランスよく栄養を取ること、適度に運動すること、なるべく早く寝ることなどが挙げられています。
スポーツ選手が過度に鍛えすぎて、この時期の重要な成長を阻害するということがスポーツ心理学の世界ではかなり前から言われていることですね。
ちなみに、「思春期」「青年期」という表現の違いをしっかりと押さえておきましょう。
「青年期」とは「思春期の発来に始まり、彼らが心理・社会的な自立をとげて大人の仲間入りをするまでの期間である。思春期は青年期の一部であるが、青年期の前半の部分に位置することになり、身体的な変化が大きな役割を演じる。その始まりは、女子でいえば初潮、男子でいえば精通の体験による時期である」とされており、その特徴は社会的、心理的成熟による発達段階の区分ということになります。
これに対して「思春期」とは、小学生高学年の頃から現れる第二次性徴の現れにともなう身体的、生理的な変化からの区分になります。
すなわち、「青年期」は心理・社会的な概念であり、「思春期」は身体・生理的な概念であることがわかります。
また、上記からもわかるとおり、思春期・青年期はほぼ同じ年齢区分を指していると見てよいです。
以上より、選択肢①および選択肢④、選択肢⑤は青年期の特徴として適切と言えるので、除外する必要があります。
② 直観的思考
ピアジェは「経験の積み重ねで同化-調節を繰り返し、より複雑で高度なシェマを作り上げ、より環境に合理的に適応していくことが知性の発達である」という発達観を持っていました。
こうしたピアジェの人間観は「主知主義」(精神の本質を「知性」におき、合理性・論理性が精神の本質とする、という考え)と言われています。
ピアジェの精神発達論は、知性のはたらきがより高い合理性を備えたものへとステップアップする道筋として描かれています。
人間の知性は、環境から与えられた体験を取り入れて(同化して)、それによって外界や体験への自分なりの「捉え方」を作っていくということです。
この「捉え方」のことを「シェマ」とピアジェは名付けました。
ピアジェは子どもが主体的にシェマを捉えなおし、発達していくと考えていました。
ピアジェは自身の子どもの観察から、こうした能動性・主体性が乳児期から発揮されているという事実をつかんでいたとされています。
この中で「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」という段階を示しました。
このうち「前操作期」は2~7歳の時期を指しており、ここでは4歳前後に発達的変化がありそれを境に2つの下位段階が設定されています。
その2つが「前概念的思考段階」と「直観的思考段階」です。
前概念的試行段階とは、象徴的試行段階とも呼ばれ、運動感覚的なシェマが内面化され始めてイメージが発生し、それに基づく象徴的行動が開始される時期です。
特徴として「見立てて遊ぶ」象徴的遊びが盛んになることが挙げられます。
この時期の子どもの「言葉」や「意味」を支えているものは、子どもの個々のイメージを中心とした「前概念」というべきものです(ちゃんと概念的に意味が分かっているわけではない)。
大体、1歳半~4歳ごろまでと言われています。
対して、直感的思考段階とは、概念が進み、事物を分類したり、関連づけたりすることが進歩してくる段階を指します。
分類や状況の理解の仕方が、そのとき、そのときの知覚的に目立った特徴に左右され、一貫した論理操作は見られないとされています。
すなわち、見かけに関わらず対象の本質が保存されているという、保存の概念にまだ到達できていない段階と言えますね。 大体、4歳頃~7、8歳ころまでと言われています。
ピアジェについては公認心理師2018-89も参照にしておきましょう。
以上より、選択肢②が青年期の特徴として不適切なので、こちらを選択することが求められます。
③ モラトリアム
モラトリアムはもともと経済学用語で、災害や恐慌などの非常時に、債務の支払いを猶予することやその猶予期間を指します。
エリック・エリクソンは、この言葉を青年期の特質を示すために用い、青年期を心理社会的モラトリアムと表現しました。
身体的な成長と心理的な成長は、産業化・情報化が進むにつれて齟齬が出るようになってきており、単に身体面の成長をもって社会生活を営めるとは言えなくなっています。
こうした社会的な能力が十分でない青年に対して、社会的な責任や義務がある程度猶予されるということを指しています。
モラトリアムにある青年期の心理について小此木先生は以下のようにまとめています。
- 半人前意識と自立への渇望
- 真剣かつ深刻な自己探求
- 局外者意識と歴史的・時間的展望
- 禁欲主義とフラストレーション
しかし、現在では青年期という表現自体が使われなくなっている印象があり、徐々に時代によってその特徴も変わってきていると思われます。
その辺の指摘については、近年の研究をご覧ください。
以上より、選択肢③は青年期の特徴として適切と言えるので、除外する必要があります。