異文化適応など

異文化適応についてです。
Uカーブ仮説、Wカーブ仮説は臨床心理士資格試験で出題されたことがあるので、書いておきました。

異文化適応

ある文化的環境で成長した個人が、何らかの理由、例えば移民、亡命、留学など、により別の文化的環境で生活するようになると、移動先の新しい文化に適応しようとすることが知られています。
異文化間心理学では、異なる文化が出会うことにより生じる文化の変化を文化変容(Acculturation)、文化変容を経験した個人が心理面や行動面において変化することを異文化適応(psychological acculturationもしくはadaptation)と呼んでいます。

Berryは「本人の文化」と「本人のアイデンティティの発達」を重視する立場から、異文化適応の態度を4つに分けました。

  1. 同化:異文化に馴染むが、自分の元来の文化は保たれない。以前の文化を捨て新しい文化に適応していく方略。
  2. 離脱:自文化に閉じこもる。これまでの文化を維持し新しい文化との接触を積極的に回避する方略。
  3. 統合:異文化と自文化のバランスが取れている。以前の文化を維持しつつ新しい文化も取り入れていく。
  4. 境界化(周辺化):葛藤の段階に戻ってしまった。これまでの文化とも新しい文化とも距離を置くというもの。
表にすると以下の通りです。
以上のような異文化適応に対する考え方は、移動した個人がいかに新しい文化環境に適応していくかという視点に立つものです。

カルチャーショック

「カルチャー・ショック」という言葉を広く普及させたのは文化人類学者のOberg(1960)です。
個人が無意識のうちに獲得してきた生活上の礼儀作法や習慣、規範等が異文化社会において通用しないことから生じる不安感がカルチャー・ショックを引き起こします。
個人差があることを指摘した上で、一般的な傾向としてその過程には4つの段階があるとしています。
  1. 新しい文化に魅了される「蜜月期」
  2. 様々な現実的問題に直面する「敵対・攻撃期」
  3. 新しい環境に適応し始める「回復期」
  4. 現地社会の習慣・文化を受け入れ順応する「適応期」
一般に「ショック」と言うとネガティブなイメージがありますが、カルチャーショックは肯定的な側面も指摘されています。
カルチャー・ショックの肯定的側面を積極的に取り上げたのはAdler(1975)です。
実は文化的学習や自己啓発・自己成長の重要な側面となり得ることを指摘し、異文化適応の過程で生じる摩擦やストレスには真の成長・発展への可能性が秘められていると主張しました。
Ting-Toomey & Chung(2012)もまた、カルチャー・ショックをうまく乗り越えることができれば幸福感や自信の向上、曖昧さへの耐性の強化、社交能力や柔軟性の獲得、自己や自己を取り巻く他者・環境に対する楽観的視点の獲得といった肯定的な効果や、個人の思考・経験の限界を押し広げると指摘しています。

異文化適応:Uカーブ仮説とWカーブ仮説

こうしたカルチャーショックの過程を示した理論があります。
Lysgaard(1955)は、学術目的で一定期間米国に滞在したノルウェー人200人を帰国後にインタビューした結果、彼ら・彼女らの米国社会への適応段階が、時間とともにU形曲線を描くと結論付けました。
これを受けてGullahorn & Gullahorn(1963)は、異文化への適応過程が異文化圏滞在中にU型曲線を描くことを自身の研究でも検証した上で、適応に伴う孤立感・没価値状況・拒否反応が現地滞在期間中だけではなく自国へ帰国した後も継続する点を指摘し、U型曲線に代わるものとしてW型曲線を提唱しました。

プロセスとしての異文化適応:Uカーブ仮説

この理論では、以下の段階を想定しています。
  • ステージ1:新しい文化に陶酔(ハネムーン・ステージ)
    見るもの、聞くものがすべて新鮮で、新しい文化に来たという興奮と期待感でいっぱい。
    建物、教室などの「見える文化」が中心で、価値観や生活信条などの「見えない文化」にまでは気づいてはいない。
  • ステージ2:異文化に直面(カルチャーショック)
    「見えない文化」に直面する。
    抱いていた期待が失望へ、興奮が落胆へと変わる。
  • ステージ3:適応を開始(適応開始期)
    今までわからなかった「見えない文化」が見えるようになり、その文化での暮らし方やふるまい方にも慣れてくる。
    文化の違いからくる孤独感や焦燥感も軽くなり、現地の人との交流がうまくいき始める。うまくいくと自信になる。
  • ステージ4:異文化へ適応(適応期)
    文化の違いを理解し、その違いを受け入れる。
    新しい文化での様々な経験から視野の広い見方や考え方ができる。本当の意味での異文化適応が始まる。
こうしたUカーブ仮説に対し(加えて?)、帰国後の変容も組み込んだのがWカーブ仮説です。

プロセスとしての異文化適応:Wカーブ仮説

Wカーブ仮説はさまざまな修正が加えられ、7段階もしくは8段階の仮説として示されており、代表的なのは以下の通りです。
  1. Honeymoon Stage(蜜月期):新しい環境の全てが新鮮で面白く感じる。
  2. Hostility Stage(闘争期):いわゆる「カルチャー・ショック」の最も深刻な時期。
  3. Humorous Stage(ユーモラス期):自他の文化を客観的に見ることができ、どの文化にもプラス面とマイナス面があることに気づく時期。
  4. In-Sync Adjustment Stage(同期適応期):現地社会にうまく溶け込み、言語も不自由なく操れ、居心地良く感じる時期。
  5. Ambivalence Stage(アンビバレントな時期):帰国が近づき、安堵感と名残惜しさなどの相反する感情が混在する時期。
  6. Reentry Culture Shock Stage(再入国カルチャー・ショック期):帰国後予想外の衝撃に直面する時期。
  7. Resocialization Stage(再社会化期):帰国後の「再社会化」期。
図にすると以下の通りです。

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