公認心理師 2024-96

特定の概念を選択する問題です。

全部過去問で出題のある内容でしたし、内容としても比較的解きやすいものでしたね。

問96 特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念として、最も適切なものを1つ選べ。
① ハロー効果
② ステレオタイプ
③ 内集団バイアス
④ 社会的スティグマ
⑤ ヒューリスティックス

選択肢の解説

① ハロー効果

ハロー効果は、光背効果、後光効果などとも呼び、他者がある側面で望ましい(もしくは望ましくない)特徴をもっていると、その評価を当該人物の全体的評価にまで拡大してしまう傾向のことを指します。

認知バイアス現象の一つですね。

ハロー効果という言葉が初めて用いられたのは、ソーンダイクが1920年に書いた論文「A Constant Error in Psychological Ratings」です(ちなみに、ハローとは聖人の頭上に描かれる光輪のことですね)。

例えば、教師が成績が良い生徒と関わるときに、その生徒の人格面にまで肯定的な評価をしてしまったり、逆に成績が悪い生徒と関わるときに、実際以上に素行が悪いと評価してしまう場合などが挙げられます。

「あばたもえくぼ」、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということわざは、この効果を表していますね(あばたもえくぼはバランス理論でも説明されていますが)。

映画のワンシーンで、登場人物が目の前の人物を信頼するかどうか決断を迫られる場面があると思います。

そういう場面って現在ではめったにないと思うのですが、もっと原始的な時代には物事を即断することが生存に有利だったと思われます。

目の前の人を信頼するかどうか、リーダーとして見なせるかどうか、そういう決断が常に自身の生存と直結していたわけですから。

ですから、人には全体ではなく一部分から、その人の人格全体を把握するというパターンが遺伝的に受け継がれているのです(たぶん)。

面接における人物評価に際しては、評価者はこうした認知の歪みに十分に注意を払うことが重要です。

この効果によって、マイノリティの行動が目立ち、実際よりも過大視される(たいていは否定的特徴)誤った関連づけなどが少なくありません。

こうしたハロー効果の説明は、本問の「特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念」と合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② ステレオタイプ

ステレオタイプとは、人々が特定の属性または社会集団の成員に結び付けている特徴であり、その集団の成員に関する情報の利用に大きく影響する認知的スキーマのことを指します。

その働きとしては、ステレオタイプに基づいた予期の形成、ステレオタイプに合致した情報への注目ならびに記憶の促進などがあります。

いずれもステレオタイプ的な印象形成を促し、ステレオタイプの維持に寄与します。

そのもとになるのは対象人物に接したときに生じるステレオタイプの活性化ですが、自動的に生じるため、これを避けるのは難しいとされています。

Fiskeらのステレオタイプ内容モデルによれば、ステレオタイプは能力次元と人柄次元の二次元で分類することができ、多くの外集団に対するステレオタイプは「有能だが冷たい」あるいは「温かいが無能」といった相補的特徴を有しています。

このような両面価値的なステレオタイプは、一面的に否定的な内容ではないため、利用されやすいと考えられています。

こうしたステレオタイプの説明は、本問の「特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念」と合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 内集団バイアス

まずバイアスに関する基本的理解として、これを単なる思い込みと見なしてはいけません。

脳で多くの情報を処理すると負担がかかるので、認知的バイアスを複数持つことでその処理を簡便にし、脳への負担を減らしているというのが本質だと思われます。

このように「脳の負担を減らすための処理」というのは、実は他の領域でも見られる現象です。

例えば、統合失調症の幻聴ですが、脳には「無意味な音を無意味なものとして処理するよりも、有意味なものとして処理した方が負担が少ない」という特徴があるので、無意味な音を自分の内にある認識をもとに処理することで有意味な音が聞こえる、という側面があると考えられます。

もちろん、これで幻聴のすべてを説明できるわけではありませんが、強い恐怖状態にあると何気ない音が足音や人の声に聞こえることは経験している人も多いのではないでしょうか(小さい子どもが、初めて自分の部屋で一人で寝るときに、こういう現象が生じることもある)。

また、外界の出来事について「理由がないままでいるよりも、どんな理由でもあった方が処理が楽」という特徴もあり、これは被虐待児が殴られる理由を「自分が悪いから」と帰納している現象を説明するものです。

こうした現象のため、被虐待児の根っこには「自分が悪い」という強い信念がはびこるようになり、それだけでなく他者が受けている暴力(例えば、自分の弟が同じく身体的虐待を受けるという状況)についても「殴られる方が悪い」と無自覚に処理する等の状態がありますね(なお、これは「殴られている方を批判する」という形ではなく、「攻撃者への無批判」という形で顕在化することの方が多い)。

さて、本選択肢の内容に関してですが、自分が所属する集団(内集団)のメンバーの方が、それ以外の集団(外集団)のメンバーに比べて人格や能力が優れていると認知し、優遇する現象を「内集団バイアス」あるいは「内集団びいき」と言います。

一般に人には自己評価高揚の動機づけがあり、自己と強く同一視する内集団が存在する状況では、集団間社会的比較に基づく内集団評価の高揚が起こるためとされています。

こうした正の社会的アイデンティティの希求という過程によって、集団間社会的比較過程が集団間の差別や内集団バイアスを引き起こし、集団間の偏見・葛藤へと至ると説明されています。

こうした内集団バイアスの説明は、本問の「特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念」と合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 社会的スティグマ

スティグマとは「ある特性が恥ずべき特性だということをもとに、個人が社会の一員として受けるべき尊敬が否定され、その社会から受け入れられない状態」のことを指し、Public stigma(社会的スティグマ)とSelf stigma(自己(セルフ)スティグマ)に分類できます。

このうちセルフスティグマとは、例えば、精神疾患を持つ人が、他の人から差別・偏⾒を受けていると感じたり経験したりすることで、差別を受ける予測が立ち、それが内在化されてしまったものを指します(差別体験→病気だから周りから避けられる、と思う→外出しない)。

差別されるのではないかという不安や恐れとしてスティグマは内面化され、セルフスティグマになっていくというわけですね。

セルフスティグマは、自尊感情、治療道守、回復、QOLなどに影響を及ぼしていると指摘されています。

こうしたセルフスティグマを軽減していくことが、本人の心理的健康や社会参加にとって重要になります。

スティグマを軽減していこうとする活動をアンチスティグマ活動と言いますが、その中でも特に、当事者自身やその家族が体験を語ることは周囲のスティグマやセルフスティグマ解消に効果があることが明らかにされています。

社会的スティグマとは、一般と異なるとされることから差別や偏見の対象として使われる属性、及びにそれに伴う負のイメージのことを指します。

社会的スティグマは特定の文化、人種、ジェンダー、知能、健康、障害、社会階級、また生活様式などと関連することが多いです。

この「社会的スティグマ」は、社会参加を困難にするばかりでなく、当事者及び当事者家族に「セルフスティグマ」を生じさせ、発病後あるいは再発後の精神科受診を遅らせ症状を悪化させる原因になります。

従って、社会的スティグマ及びセルフスティグマの両者を低減することができれば、受診行動なども容易になり、その結果医療による治療効果もさらにあがることが期待できます。

こうした社会的スティグマに関する内容は、本問の「特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念」と合致することがわかります。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ ヒューリスティックス

人間の「思考」とは、記憶情報を操作し、新しい心的表象を形成する過程(断片的な知識を組み合わせて、意味をもったまとまりを形成する過程)ですが、思考の代表的な機能に「問題解決」があります。

人間が問題解決のために用いる方略は「アルゴリズム」と「ヒューリスティックス」に大別できます。

アルゴリズムとは、問題解決のための一連の規則的な手続きのことであり、正しく適用されれば必ず正解に到達することができる方略で、具体的には平方根を求めるための手続きがそれです。

しかし、「お金持ちになるためにはどうすればよいか?」のような不良定義問題にはアルゴリズムは存在せず、また、良定義問題であっても解決までが複雑な問題には、人間には現実にはアルゴリズムを実行できません。

アルゴリズムは、人間の熟慮的かつ規範的な思考に相当しますが、このような思考は十分な認知容量を使用することによって可能になります。

これに対してヒューリスティックスとは、必ず正解に到達できるという保証はないが、合理的なヒューリスティックスであれば、通常はアルゴリズムを用いるよりも迅速に正解に到達することができます。

また、アルゴリズムと比較して、認知容量を節約できるというのがヒューリスティックスの特徴とも言えます。

Tversky&Kahnemanは、不確実状況下で行う判断には、以下の3種類のヒューリスティックスがあると指摘しています。

  1. 代表性ヒューリスティックス:ある対象AがBという集合に属する確率を判断する時に、Aがどの程度Bを代表するものと似ているかどうかを手掛かりとする方略。ある人(A)は、風貌や振る舞いがあなたの芸術家ステレオタイプにぴったりなので、芸術家(B)に違いないと判断する。
  2. 利用可能性ヒューリスティックス:ある集合の大きさやある事象の頻度や確率がどの程度であるかを判断する時に、想起できる(=利用可能性が高い)集合の事例数や事象の回数を手掛かりにする方略。例えば、飛行機事故は大きくされるので利用可能性が高くなり、その頻度が列車事故よりも高いといった誤った判断が導かれる。
  3. 係留と調整のヒューリスティックス:基準となる係留点を定めて、そこから調整を行うことによって最終的な推測値を求める方法。ある人の貯蓄額を判断するのに、自分の預金残高を基準にして行う。

このような方法を用いて、私たちは努力して頭を絞って合理的に考えるだけでなく(つまり、アルゴリズムを使うだけではなく)、認知資源を節約するために心理的ショートカットを行い、複雑な過程をより扱いやすい単純なものへと変換している(つまり、ヒューリスティックスを用いている)わけです。

こうしたヒューリスティックスの説明は、本問の「特定の集団や人々に対して、他者や他集団から付与された、拭い難いほどの否定的な価値付けを表す概念」と合致しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です