公認心理師 2024-136

事例の現象を説明する理論を選択する問題です。

内容自体はかなりポピュラーなものであると言えますね。

問136 大学生40人が20人ずつAとBの2群に割り当てられ、両群とも実験室で極めて退屈な作業課題に1時間従事した後、別の参加者にその課題が面白かったと伝えるよう指示された。ただし、A群の実験参加に対する謝金は300円であり、B群の謝金は6,000円であった。作業後に、作業がどの程度楽しかったかについて評定を求めたところ、A群の楽しさの平均値はB群の楽しさの平均値よりも有意に高かった。
 この現象を説明する理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① 役割理論
② SVR理論
③ バランス理論
④ 社会的比較理論
⑤ 認知的不協和理論

選択肢の解説

⑤ 認知的不協和理論

本問では以下のような状況になります。

  • 20人ずつA群とB群が、実験室で極めて退屈な作業課題に1時間従事した後、別の参加者にその課題が面白かったと伝えた。
  • A群の実験参加に対する謝金は300円であり、B群の謝金は6,000円であった。
  • 作業後に、作業がどの程度楽しかったかについて評定を求めたところ、A群の楽しさの平均値はB群の楽しさの平均値よりも有意に高かった。

この問題では「なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?」という仕組みを説明する理論の選択を求められています。

それを踏まえて、各理論を見ていきましょう。

人間の持つ複雑な信念体系や行動のバリエーションを考えると、条件づけのような単純なメカニズム以外にも、行動に影響を与える心理的な過程が働いていると考えるのが自然です。

社会心理学では、認知システムには生体のホメオスタシスのように均衡を保つ仕組みを持っているはずだという視点から、人間の行動に影響を与えるメカニズムの一つとして「人間は考えのつじつまの合うことを求める」という原理を見出しており、ここから「認知的斉合性理論」と呼ばれる理論群が生まれました。

この認知的斉合性理論の中には、有名なハイダーのバランス理論が含まれておりますが、同じく認知的斉合性理論の一つとしてフェスティンガーの認知的不協和理論があります。

人は一般に、客観的事実に反する信念や態度を自分がもっていることを意識すると、まるで不協和音を聴くかのような不快感を覚えるとされ、この不快感を低減しようとする動機づけが、さまざまな行動パターンを予測させます。

特に、本心としての態度とは食い違った行動を、何らかの理由でとってしまった場合に、興味深い効果をもたらしますが、これを例証したのが以下のフェスティンガーらの実験になります。

  1. 実験に参加した大学生は、非常に退屈な課題を長時間にわたって続けることを求められる。
  2. 実験の都合上、大学生らは、他の参加者に対して「とてもおもしろくてためになる実験だった」と、心にもない嘘をつく役割を与えられる。
  3. ここで役割演技の謝礼として1ドルを受け取る条件と、20ドルを受け取る条件が設けられる。
  4. 後になって、自分自身が実験をどのくらい楽しんだかを評定してもらったところ、1ドルしかもらわなかった条件の方が、20ドルもらった条件や、統制群(嘘をつくよう求められず、報酬も与えられない群)よりも、「楽しかった」と評価した。

認知的不協和理論によると、この結果を説明するのは「行動の正当化」という過程にあるとされます。

つまり、20ドルという報酬をもらった参加者たちは、本心とは異なる発言をしたことを「お金のため」という理由で正当化できるが、1ドル条件ではそれが困難なため、「そんなに退屈でもなかった」と実験に対する態度を変化させることで、自分の行動との折り合いをつけようとしたと見なされます。

フェスティンガーは不協和が発生しやすい状況として以下を挙げています。

  1. 決定後
  2. 強制的承諾
  3. 情報への偶発的・無意識的接触
  4. 社会的不一致
  5. 現実と信念・感情との食い違い

そして、こうした状況において不協和の低減法については、理論的には以下のように述べています。

  1. 不協和な関係にある認知要素の一方を変化し相互に協和的関係にすること
  2. 不協和な認知要素の過小評価と協和的な認知要素の過大評価
  3. 新しい協和的認知要素の追加
  4. 新たな不協和の発生や既存の不協和の増加をもたらす状況や情報を積極的に回避。

これらが理論的に言った不協和の低減法になりますが、具体的な低減法に関しては以下が指摘されています。

  1. 認知の再体制化・態度変化
  2. 行動の変化
  3. 環境の変化
  4. 知覚と認知の歪曲
  5. 人物・状況・情報への選択的接触

こうした方法が具体的にどのようなやり方を指すのかに関しては「公認心理師 2021-111」を参照にされるとわかりやすいだろうと思います。

上記からもわかる通り、本問の状況はフェスティンガーが行った認知的不協和理論を証明する有名な実験そのものになります。

また、そこで示された結果(なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?)も同様に、認知的不協和理論で説明可能であると言えますね。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① 役割理論

役割理論とは、個人と社会の関係を、役割という概念を用いて説明しようとする様々な理論のことを指します。

個人は社会の中で、周囲の人との関係において様々な役割を与えられ、その役割に即した行動が期待され、そういった社会からの期待や要求が個人の内面に影響を与えていきます。

また、個々人がそれぞれの地位で、自分の役割を果たすことで社会が成り立っています。

社会から求められる役割がいかに個人に内面化され、遂行されていくかという、個人に焦点を当てた理論を最初に唱えたのはMeadであり、彼は他者との相互作用の中で、役割が内面化され、自我が形成される過程を理論化しました。

役割期待を受け入れそのように行動することを役割取得と呼び、例えば、老人が老人であるという役割期待を受け入れることで老人が出来上がります(つまり老人は社会的に作られる)。

ミードは一般化された他者が期待する役割期待を役割取得した存在を「客我(me)」、そんな「me」に同調したり批判したりする自我を「 主我(I)」と呼んでいます。

社会を構成するさまざまな地位と役割がどのように結びついているかという、社会構造全体に焦点を当てた理論を提起したのはLintonであり、彼は役割を人というよりも社会的地位と結びついたものであると考えました。

以上のように、役割理論とは「個人と社会の関係を、役割という概念を用いて説明しようとする様々な理論」を指し、本問で求められているような「なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?」を説明する理論とは異なることがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② SVR理論

SVR理論は人と人との関係の発展に関する理論として、Murnsteinが提案したものであり、関係を以下の3段階に分けて、関係を一方的なものから相互的なものに変化することを示しています。

  • S段階:相手から受ける刺激(stimulus)に魅力を感じる段階
  • V段階:相手と価値(value)を共有する段階
  • R段階:互いの役割(role)を補い合う段階

最初の印象で重要なのは、相手から受ける刺激(Stimulus)であり、これは表面的な魅力ということです。

例えば、外見(見た目、清潔感のある服装や髪形)、行動(しっかりと挨拶ができる、受け答えがしっかりしている)、社会的評価(出身地、学校、経歴、社会的地位、家庭環境)などのことを指します。

初対面をクリアすると、次に重要になるのは価値観になり、すなわち「好き―嫌い」「良い―悪い」「賛成―反対」などの判断が類似していることです。

入社試験を例にとると、経営理念や社風に共感している(好き)、製品やサービスを愛用している(良いと思っている)、その会社の特徴や制度を好意的にとらえている(賛成している)などのことを指しますね。

最後に決め手になるのは役割分担であり、相手ができないこと、苦手なことを補うために、役割分担ができるかが重要視されます(この補い合う関係を相補性といいます)。

最初は似ているという「類似性」が重視され、最後は自分にないものを持っている「相補性」が決め手になるということですね。

人材を募集する際は、不足を補うために人材採用を行っていますが、その不足が何なのかを理解することも大切です(欠員が出たため補充のために募集している、事業が拡大しているため人員を増やすために募集をしている、体制を強化するために新しい役割ができる人材を募集している等)。

以上のように、SVR理論は「関係を以下の3段階に分けて、関係を一方的なものから相互的なものに変化することを示す理論」であり、本問で求められているような「なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?」を説明する理論とは異なることがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ バランス理論

認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の1つで、Heiderが提唱したのがバランス理論です(ちなみに、フェスティンガーの認知的不協和理論も認知的斉合性理論の一つです)。

バランス理論はX-O-P理論とも呼ばれ「対象人物もしくは知覚者(P)‐特定他者(O)‐態度対象(X)」の三者関係の斉一性を考えており、他者存在が態度形成に関与する可能性を指摘しています。

上記で言う「三者関係」とは、P‐O、P‐X、O‐Xの関係を指し、肯定評価(+)と否定評価(-)を表す情緒関係と、所有(所属)を表すユニット関係を想定しています。

図で示すと以下のようになります。

この理論は、人は単純で一貫した意味ある社会関係に動機づけられており、三者関係がゲシュタルト心理学的に斉合した均衡状態を志向すると考えます。

情緒関係での均衡は、特定人物が肯定的関係にある他者と態度対象に対し合意する場合、もしくは否定的関係にある他者と態度対象に対し、合意しない場合に達成され、否定的関係が0か2になります。

不均衡状態は、否定的関係が1または3になることで生じます。

不均衡状態になれば不快感が生じるため、人はこの不快を解消するように動機づけられ、最小努力で均衡が実現するように行動するわけです。

上記は理論的に書いてありますが(試験ではこういう出方をするので、こうした表現にも慣れ、覚えておかねばならない)、単純に言えば以下のようになります。

上記の図にある通り、自分と恋人と煙草の関係で考えていきましょう。

自分と恋人の関係が肯定的(+)であり、その両者が煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であれば、その関係は均衡(バランス)状態であるため、不快感は生じないため、この三者関係を変えようとする力は働きません(上記の「否定的関係が0か2」というのは、-の数の話です)。

逆に、自分と恋人の関係が否定的(-)の時に、互いが煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であると、「嫌いな人と煙草に対する情緒態度が同じ」という気持ちが悪い状態になる、すなわち不均衡(アンバランス)になるので、態度が変えようとする力が働くということですね(煙草が好きなら嫌いになり、嫌いなら好きになって吸い始めるとか)。

他にも、自分と恋人との関係が肯定的(+)で、自分は煙草が嫌いなのに(つまり、P-Xが否定的(-)である)、恋人が煙草を吸っている場合(つまり、O-Xの関係が肯定的(+)である場合)、不均衡状態が生じて気持ち悪くなります。

こういう時に起こるのが「痘痕も靨(好きな人のあばたは、えくぼに見える)」と呼ばれる現象で、単純に言えば、それまで自分が嫌いだった煙草に対して認識が変わって好きになるということです(これが上記の「最小努力で均衡が実現するように行動する」ということの意味です)。

単純に言えば、三者の+と-をすべて掛け合わせて、+になればバランス状態、-になればアンバランス状態なので変えようとする力が働くということです。

以上のように、バランス理論は認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の一つであり、本問で求められているような「なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?」を説明する理論とは異なることがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 社会的比較理論

社会的影響に関する考え方に「規範的影響」と「情報的影響」があります。

グループの規範に基づく社会的影響のことを、ドイッチとジェラードは「規範的影響」と呼んでおり、規範とは集団内で適切とされる行動や態度の基準のことを指します。

規範的影響は、基本的に賞罰を背景とした社会的影響であり、賞罰の中身は社会的承認や非難から、物理的報酬や暴力に至るまで様々な内容が考えられます。

こうした規範的影響が賞罰に基づく影響であるのに対し、「情報的影響」は他者の行動の情報化に基づく影響です。

社会的比較理論は、こうした他者の行動の情報化に基づく社会的影響に関する理論の一つです。

社会的比較理論は、フェスティンガーが提唱した自己評価に関する理論です。

人は基本的に、自らの態度や能力を正確に評価したいと動機づけられており、客観的基準による評価が望めない場合、周囲の他者と自分を比較して自己評価するとされています。

その比較対象は、一般的に類似他者が選択されます。

もし自他の、あるいは多くの人々の間で一致が見られるようであれば、人はそうした認識の妥当性について確信を持つようになります。

こうした社会的確認のプロセスは「合意による妥当化」と呼ばれています。

後の研究により、社会的比較は態度や意見だけでなく様々な領域で生じ、意識的にだけではなく非意識的にも生じ、嫉妬などの情動喚起に関わることがわかっています。

従来、社会的比較の基底動機として、正確な自己評価への志向性(自己査定動機)が仮定されていましたが、肯定的自己評価を志向する自己高揚、自らの改善を志向する自己向上の動機も係わることが明らかにされています。

そのため、比較他者の選択が変わることもあります。

具体的には、自分よりも能力が低い他者と下方比較することで自己高揚を実現したり、逆に自分より能力の高い他者と上方比較することで、自己向上につながる情報収集をしたりするとされています。

以上のように、社会的比較理論とは情報的影響による自己評価に関する理論の一つと言え、本問で求められているような「なぜ謝金の低い群の方が、「楽しかった」という評定が高いのか?」を説明する理論ではないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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