公認心理師 2023-2

自殺報道と関連する効果に関する問題です。

報道によって自殺が生じるという話は聞いたことがあると思いますが、今回はそれとは逆の効果に関する内容ですね。

問2 メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐという。この効果として、正しいものを1つ選べ。
① ウェルテル効果
② パパゲーノ効果
③ バンドワゴン効果
④ ピグマリオン効果
⑤ プライミング効果

解答のポイント

各概念、特に自殺報道に関する効果概念について把握している。

選択肢の解説

① ウェルテル効果

ウェルテル効果とは、社会学者Phillipsにより提唱された概念で、マスメディアの報道に影響されて自殺が増える事象を指し、特に若年層が影響を受けやすいとされています。

「ウェルテル」は、ゲーテの「若きウェルテルの悩み(1774年)」に由来し、本作の主人公であるウェルテルは最終的に自殺をするが、これに影響された若者達が彼と同じ方法で自殺した事象を起源とします(これが原因となり、いくつかの国家でこの本は発禁処分となった)。

最近では、2020年下半期に自殺者数が例年より増加した要因について、同年7月から9月にかけて相次いだ俳優の自殺報道(三浦春馬、芦名星、藤木孝、竹内結子)の影響が明らかになっており、特に影響の大きかった三浦と竹内の後追い自殺について厚生労働省がウェルテル効果の観点から綿密にデータの分析を行っています。

最近はこうした著名人の自殺報道は、直後は頻繁になされるもののその後はまったくなされなくなりますが、それはウェルテル効果を鑑みてのものであり、自死した著名人の命日直前にその都度、自殺報道ガイドラインの遵守を促すようになっています。

このようにウェルテル効果は、本問の「メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐ」とは逆の内容に近いと言ってよいでしょう。

メディアの力は良くも悪くも使い方次第ということですね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② パパゲーノ効果

パパゲーノ効果とは、マスメディアが自殺を思い留まり成功した例を挙げることで大衆の自殺を抑制する効果のことを指します(対極的な効果として「ウェルテル効果」がしばしば名前に挙げられる)。

2010年9月、オーストリア・ウィーン医科大学准教授のNiederkrotenthalerが同僚とともに、王立精神医学会の学術誌「英国精神医学ジャーナル」に論文を発表したのが最初だと言われています。

名前の由来はモーツァルト作曲のオペラ魔笛に登場する恋に身を焦がして自殺しようとしたものの、自殺するのをやめて生きることを選んだ鳥刺しの男パパゲーノです。

特に、厳しい環境で自殺念慮を持った個人が、その危機を乗り越える報道内容は、有意な自殺予防効果があるとされています。

つまり、ただ単に自殺報道を行うのではなく、併せて、対応や未来につながるような情報も提供することが重要ということですね。

そのため、最近は自殺報道と併せて相談窓口に関する情報提供も行われています(見たことがある人も多いのではないでしょうか?)。

上記の内容は、本問の「メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐ」と一致していることがわかりますね。

よって、選択肢②が正しいと判断できます。

③ バンドワゴン効果

バンドワゴン効果は、アメリカの経済学者であるLeibensteinにより提唱された概念です。

流行商品など社会全体の消費量が多い商品やサービスに対して、消費者が価値を感じ、同じものを購入することが促進され、満足の度合いが増加する現象を指します(なお、対義表現はアンダードッグ効果になります)。

このように商品の物理特性以外の外部要因が消費に影響することを「消費の外部性」と呼びますが、ライブスタインは他にもスノッブ効果(品数が少ないことが商品の価値を高める)や、ヴェブレン効果(効果であることが主観的効用を高める)を指摘しています。

ちなみに「バンドワゴン」は「パレードの先頭を行く楽隊車」を意味しており、「バンドワゴンに乗る」とは時流に乗る・多勢に与する・勝ち馬に乗るという意味になります。

選挙の投票行動でも「バンドワゴン効果」の存在は指摘されており、事前にマスメディアの選挙予測報道などで優勢とされた候補者に有権者が投票しがちになる現象になります(特定の候補者を支持していない者は、どうせ投票するなら勝ち馬に乗ろうという心理が働くため、この効果が生じやすい)。

さて、本問の「メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐ」という内容とバンドワゴン効果では、一致する点が見受けられません。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ ピグマリオン効果

人は他人に対するいろいろな期待を持っていますが、それを意識するか否かに関わらず、この期待が成就されるように機能することをピグマリオン効果と呼ばれています(ちなみにピグマリオンという名前は、ギリシャ神話から取ったものです)。

Rosenthalらは、教師が児童・生徒に対してもっているいろいろな期待が、彼らの学習成績を左右することを実証しました。

1964年春に教育現場での実験として、サンフランシスコの小学校においてハーバード式突発性学習能力予測テストと名づけた普通の知能テストを行い、学級担任には、今後数ヶ月の間に成績が伸びてくる学習者を割り出すための検査であると説明しました。

しかし、実際のところ検査には何の意味もなく、実験施行者は、検査の結果と関係なく無作為に選ばれた児童の名簿を学級担任に見せて、この名簿に記載されている児童が、今後数ヶ月の間に成績が伸びる児童だと伝えました。

その後、学級担任は、児童の成績が向上するという期待を込めて、その児童らを見ていたが、確かに成績が向上していったとされています。

報告論文の主張では成績が向上した原因としては、学級担任が児童らに対して期待のこもった眼差しを向けたこと、児童らも期待されていることを意識するため成績が向上していったと主張されています。

Brophy&Goodのより客観的で綿密な教室観察と調査の結果、教師が高い期待を持つと、学力が高まることにつながる行動(例:正答への賞賛、つまづきに対する支援)が見られたとされています。

なお、教師が期待しないことによって学習者の成績が下がることはゴーレム効果と呼ばれています。

このように学習者に対して教師が持つ期待が、当該学習者の能力の向上につながるという現象を「ピグマリオン効果」と呼ぶわけですね(その特徴から「教師期待効果」とも呼ぶ)。

これは「メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐ」という本問で問われている内容とは一致しないことがわかります。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ プライミング効果

プライミング効果とは、先行する刺激(プライム刺激)の処理によって、後続刺激(ターゲット刺激)の処理が促進または抑制される効果と定義されます。

典型的には促進効果が見られるが、抑制的な負のプライミングが見られることもあります。

難しく書いてありますが、要は10回ゲーム(「ひじ」を10回言わせて「ひざ」を指差して、これは何?と問うやつ)が成立するための仕組みといえばわかりやすいでしょうか。

プライミング効果には直接と間接がありますが、直接プライミング効果を見るのに最もポピュラーなのが単語完成課題です。

例えば、「かたおもい」というプライム刺激が呈示された後に、「〇た〇もい」「に〇に〇ん」のような単語の断片を呈示し、「何でもよいので最初に浮かんだ単語で完成するように」と求めると、最初に提示されなかった項目(新項目)に比べ、提示されていた項目(旧項目)の方が出現率が高くなります。

この新項目と旧項目の完成率の差がプライミング効果として評価されます。

典型的には、最初に単語を呈示する際には後に記憶テストがあることは予告せず、単語完成課題遂行時には「旧項目を思い出すように」とは求めません。

すなわち、実験参加者が学習した単語を思い出そうとしなくても直接プライミング効果は認められ、それが潜在記憶の存在の根拠の一つになっています。

この単語完成のように、先行刺激と後続刺激の知覚的属性の一致度が重要となる場合は知覚的プライミング、一方、先行刺激と後続刺激の概念的関連性が重要な場合は概念的プライミングと呼ばれます。

先行刺激と後続刺激が同一と見なせない場合には、間接プライミングもしくは意味的プライミングと呼ばれ、主に意味記憶の構造を検討する場合に用いられます。

例えば、後続刺激「DOCTOR」が単語か非単語かの語彙判断に必要な反応時間は、意味的に関連の無い「BREAD」を先行刺激として提示した場合より、意味的関連のある「NURSE」を呈示した場合の方が短いという結果が出ています。

これは先行刺激の提示による活性化が意味記憶ネットワークのリンクにより後続刺激にまで伝播するためと解釈されています。

以上、プライミング効果に関する概要を述べましたが、こうした説明は本問の「メディアによる、自殺を思いとどまった事例に関する報道や援助資源に関する情報提供は、自殺の保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐ」には該当しないことがわかりますね。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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