見たことのある選択肢が3つもあるので解説も簡単だろうと思っていたら、思ったよりも難物でした。
初出の2つの理論に関して、多くの受験生がわからなかったのではないかなと思います。
せめて2択まで絞りたいところだなと思いますね。
問13 コストに対する報酬の比が個人の期待である比較水準を上回る場合に当事者はその関係に満足し、一方、別の他者との関係におけるコストと報酬の比である選択比較水準が比較水準を上回る場合には、その関係に移行すると考える理論に該当するものを1つ選べ。
① バランス理論
② 社会的浸透理論
③ 社会的比較理論
④ 相互依存性理論
⑤ 認知的不協和理論
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解答のポイント
社会的浸透理論および相互依存性理論について把握している。
少なくとも2択まで絞ることができる。
選択肢の解説
① バランス理論
認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の1つで、Heiderが提唱したのがバランス理論です(ちなみに、フェスティンガーの認知的不協和理論も認知的斉合性理論の一つです)。
バランス理論はX-O-P理論とも呼ばれ「対象人物もしくは知覚者(P)‐特定他者(O)‐態度対象(X)」の三者関係の斉一性を考えており、他者存在が態度形成に関与する可能性を指摘しています。
上記で言う「三者関係」とは、P‐O、P‐X、O‐Xの関係を指し、肯定評価(+)と否定評価(-)を表す情緒関係と、所有(所属)を表すユニット関係を想定しています。
図で示すと以下のようになります。
この理論は、人は単純で一貫した意味ある社会関係に動機づけられており、三者関係がゲシュタルト心理学的に斉合した均衡状態を志向すると考えます。
情緒関係での均衡は、特定人物が肯定的関係にある他者と態度対象に対し合意する場合、もしくは否定的関係にある他者と態度対象に対し、合意しない場合に達成され、否定的関係が0か2になります。
不均衡状態は、否定的関係が1または3になることで生じます。
不均衡状態になれば不快感が生じるため、人はこの不快を解消するように動機づけられ、最小努力で均衡が実現するように行動するわけです。
上記は理論的に書いてありますが(試験ではこういう出方をするので、こうした表現にも慣れ、覚えておかねばならない)、単純に言えば以下のようになります。
上記の図にある通り、自分と恋人と煙草の関係で考えていきましょう。
自分と恋人の関係が肯定的(+)であり、その両者が煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であれば、その関係は均衡(バランス)状態であるため、不快感は生じないため、この三者関係を変えようとする力は働きません(上記の「否定的関係が0か2」というのは、-の数の話です)。
逆に、自分と恋人の関係が否定的(-)の時に、互いが煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であると、「嫌いな人と煙草に対する情緒態度が同じ」という気持ちが悪い状態になる、すなわち不均衡(アンバランス)になるので、態度が変えようとする力が働くということですね(煙草が好きなら嫌いになり、嫌いなら好きになって吸い始めるとか)。
他にも、自分と恋人との関係が肯定的(+)で、自分は煙草が嫌いなのに(つまり、P-Xが否定的(-)である)、恋人が煙草を吸っている場合(つまり、O-Xの関係が肯定的(+)である場合)、不均衡状態が生じて気持ち悪くなります。
こういう時に起こるのが「痘痕も靨(好きな人のあばたは、えくぼに見える)」と呼ばれる現象で、単純に言えば、それまで自分が嫌いだった煙草に対して認識が変わって好きになるということです(これが上記の「最小努力で均衡が実現するように行動する」ということの意味です)。
単純に言えば、三者の+と-をすべて掛け合わせて、+になればバランス状態、-になればアンバランス状態なので変えようとする力が働くということです。
以上のように、バランス理論は認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の一つであり、本問で示されているような「コストと報酬の観点から他者との関係や、関係継続の判断を行うこと」に関する理論とは異なることがわかります。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 社会的浸透理論
社会的浸透理論は、Altman&Taylorが提唱した対人関係の発展と衰退の過程に関する理論です。
彼らによると、個人のパーソナリティは、欲求や感情などの中心の層から、言語的行動などの周辺の層にわたり同心円的に構成されているとしています。
二者が関係を進展させることを、両者の相互作用がパーソナリティの周辺の層から中心の層へと浸み込んでいくこと、つまり相互に相手の中心に向かって浸透していく過程として捉えています。
二者の関係の進展は、相互作用過程で生じた報酬とコストによって影響されます。
コストに対する報酬の比率が大きいときに関係は満足するものとなり、この比率が高いと予測されるときには関係が発展します。
逆にこの比率が小さかったり、小さくなると予測されるときには関係が衰退していきます。
関係の進展は自己開示を通してなされていくことになります。
互いに知らない2人が、表面的レベル→親密レベル→秘密レベルと自己開示するレベルを深く(話題の深刻度の程度)すること、また、自己開示する幅(話題の範囲)を広くすることで、2人の関係性は親密になっていくとしています(なお、自己開示とセットで互いのプライバシーを重視することが、長期的に親密な関係を維持するためには重要であると強調している)。
最初は表面的な浅い自己開示から始まり、親密度が増すにつれてより深い自己開示へと変化していくのは、親密度が増すと互いに相手を信頼し、見栄を張ったりする必要がなくなるためであると考えられています。
この理論は理論的な厳密さは必ずしも十分とは言えませんが、実証研究からの知見とはよく整合していると評価されています。
以上のように、社会的浸透理論は対人関係の発展と衰退の過程に関する理論であり、その進展は「コストと報酬」という枠組みに影響されるとしています。
ここまでだと何となく本問の説明に合致しそうな印象も受けますが、社会的浸透理論では他者との関係が深まる(深めていく)ことに関する理論であると読み取れますが、本問の説明は「比較水準や選択比較水準という用語を活用しつつ、関係を継続するか否かを判断している」となります。
少なくとも社会的浸透理論では、他者との関係と比較して捉えていくという視点ではありませんね。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 社会的比較理論
社会的影響に関する考え方に「規範的影響」と「情報的影響」があります。
グループの規範に基づく社会的影響のことを、ドイッチとジェラードは「規範的影響」と呼んでおり、規範とは集団内で適切とされる行動や態度の基準のことを指します。
規範的影響は、基本的に賞罰を背景とした社会的影響であり、賞罰の中身は社会的承認や非難から、物理的報酬や暴力に至るまで様々な内容が考えられます。
こうした規範的影響が賞罰に基づく影響であるのに対し、「情報的影響」は他者の行動の情報化に基づく影響です。
社会的比較理論は、こうした他者の行動の情報化に基づく社会的影響に関する理論の一つです。
社会的比較理論は、フェスティンガーが提唱した自己評価に関する理論です。
人は基本的に、自らの態度や能力を正確に評価したいと動機づけられており、客観的基準による評価が望めない場合、周囲の他者と自分を比較して自己評価するとされています。
その比較対象は、一般的に類似他者が選択されます。
もし自他の、あるいは多くの人々の間で一致が見られるようであれば、人はそうした認識の妥当性について確信を持つようになります。
こうした社会的確認のプロセスは「合意による妥当化」と呼ばれています。
後の研究により、社会的比較は態度や意見だけでなく様々な領域で生じ、意識的にだけではなく非意識的にも生じ、嫉妬などの情動喚起に関わることがわかっています。
従来、社会的比較の基底動機として、正確な自己評価への志向性(自己査定動機)が仮定されていましたが、肯定的自己評価を志向する自己高揚、自らの改善を志向する自己向上の動機も係わることが明らかにされています。
そのため、比較他者の選択が変わることもあります。
具体的には、自分よりも能力が低い他者と下方比較することで自己高揚を実現したり、逆に自分より能力の高い他者と上方比較することで、自己向上につながる情報収集をしたりするとされています。
以上のように、社会的比較理論とは情報的影響による自己評価に関する理論の一つと言え、本問で示されているような「コストと報酬の観点から他者との関係や、関係継続の判断を行うこと」に関わる理論ではないことがわかります。
「他者との比較」というニュアンスが入っている分、やや迷いやすいかもしれないと感じますが、本問の内容を読めば「他者との比較」よりも「コストと報酬」に関する理論であることが読み取れますからね。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 相互依存性理論
社会心理学において、他者との社会的関係は、その土台にある心理過程に着目すると「交換関係」と「共同的関係」とに区別できます。
交換関係とは、何らかの資源や利益をやり取りしあっていると考えられるもので、関係の基本ルールは「交換が公平に行われること」「返報性が確保されること」などであり、ビジネス上の付き合いなどは、その典型例と言えます。
共同的関係において重視されるルールは「信頼」「相互扶助」「必要に応じた資源の分配」などであり、当事者たちにとっては自己と他者との区別よりも相手との同一視と連帯感、関係への所属と安心感こそが関心事となり、典型としては家族や親族、伝統的な共同体などが挙げられます。
本選択肢は「交換関係」に関する理論であり、以下では交換関係の原理について述べていくことにしましょう。
まずは「満足の基準」に関してです。
交換関係では、自身が投入する資源の量や損失を上回るだけの利益を得ることが求められます。
ただし、関係から得られる満足は、利益と損失の差を取った絶対量だけで決まるわけではなく、小さな見返りでも幸せを感じることはあり得るし、大きな富が手に入ったからといって常に満足というわけでもありません。
Thibaut&Kelley(1959)は、満足の重要な基準とは、その関係から自分がどれだけの利益を得るに値すると考えているかであるとして、これを「比較水準」と呼びました(これが本問に出てくる「比較水準」になります)。
利益から損失を差し引いた「成果」が、比較水準を上回るほど、人は満足を感じるということになります。
続いて「相互依存性」に関して述べていきます。
人が得る利益を最大化しようとして何らかの選択をするとき、それが自分だけでなく他者の利益や損失をも左右するのであれば、後者は前者に対して「依存」の関係にあると表現されます。
自身と他者の損得が相互に影響し合う場合は「相互依存」の関係であり、Thibaut&Kelleyは二者間の相互依存関係を、客観的な利得の構造として抽象化できることを示しました(これが相互依存性理論)。
すなわち、相互依存性理論は、個人間の利得についての相互依存性のパターンを分析し、人々が主観的に利得構造をどのように変換しているかを考察している理論になります。
参考までに、以下が利得行列による分析です。
社会的交換における相互依存関係の分析には、図のような2×2の利得行列を用いたゲーム理論の考え方が用いられます。
XおよびYをゲームのプレーヤーに見立て、各人が2つの選択肢を持っているとします。
4つの各セルで、斜線の右上はXの得点、左下はYの得点を表します。
こうしたゲームのアナロジーで対人関係を考えると、得点は「満足」を意味することになるわけです。
Aのような利得構造をもった状況の下では、XがX1を選べば、YがY1かY2のいずれを選んでもプラスの結果が得られるが、XがX2を選択するとYが何を選ぼうが結果は0になりますね。
つまり、XがYの満足を完全に決定できる関係を表しており、これがThibaut&Kelleyによると「運命統制」と呼ばれる状況になります。
特にこの図の場合は、YもXに対して運命統制を持っているので「相互運命統制」と呼ばれます。
続いて、以下の図の状況で考えてみましょう。
こちらではXがX1を選ぶと、Yは利益を求めてY1を選ばざるを得ないし、X2ならY2に向かうしかなく、これはXがYに対して「行動統制」を持っている場合になります。
ここでもXとYは「相互行動統制」の関係にあります。
実際の社会では、行動統制と運命統制の組み合わせという場合も多く、よく知られているのが「囚人のジレンマゲーム」になります。
2人の共犯者XとYが取り調べて黙秘を続けています。
このままだと(X1:Y1)にしかできないと見た取調官は、Xに「Yが黙秘している間に自白して(X2:Y1)に協力しないか。Yだけを起訴して、おそらく懲役20年くらいの刑にできるが、お前の方は放免にしてやるぞ」と取引を持ち掛けます。
もちろん、Yも同じ取引を持ち掛けているので、2人が揃って抜け駆けを狙って自白をすれば、2人とも10年の刑を受けることになります(X2:Y2)。
ここで2人にとって最も賢明な選択は、相棒を信頼して両方が黙秘を続けること(X1:Y1)を選択することですが、多くの人がこの状況になると目先の個人的利益を求めて、2人揃って大きな損失を招いてしまいます(X2:Y2)。
つまり、各人が目先の利益を追求したため、結果的に全体にとって損失につながるという「社会的ジレンマ状況」になるわけです(ゴミ分別を守らない人がいるから、ゴミ袋を購入したり、それをチェックする人の経費が嵩むわけです)。
こうした利得構造に対する選択反応を記述するという方法を通して、一定の関係の中で起こる行動を記述し、それに対する理論的考察を深めることが可能になったわけです。
こうした社会的交換および囚人のジレンマからインスピレーションを得て、相互依存の枠組みの開発に役立つ重要な定義と概念を提供したのがThibaut&Kelleyであり、その理論が相互依存性理論になります。
この理論における変革は、個人が自分の行動と他の人の行動の両方から生じる可能性のある結果を検討し、これらの結果を可能な行動および行動の過程(コストと報酬)と比較検討する心理的プロセスとされます。
相互依存理論では、理想的な関係は高レベルの報酬と低レベルのコストで特徴付けられると規定しており、報酬は「楽しく満足のいく交換されたリソース」であり、コストは「損失または罰をもたらす交換されたリソース」とされます。
この理論で議論されている「報酬とコスト」には以下の4種類が設定されています。
- 感情的な報酬とコスト:関係で経験されるポジティブな感情とネガティブな感情を指す。これらの種類の報酬とコストは、密接な関係に特に関係があるとされる。
- 社会的報酬とコスト:人の社会的外見と社会的環境で相互作用する能力に関連するもの。社会的報酬は、人の社会的外見の肯定的な側面と、人が従事しなければならない楽しい社会的状況を扱う。一方、社会的コストは、人の社会的外見の否定的な側面と、人が参加しなければならない面白くない社会的状況に関連するもの。
- 道具的な報酬とコスト:関係における活動やタスクを扱う。道具的報酬は「パートナーがすべての洗濯物を仕上げる」などのタスクを処理するのに熟練しているときに得られるもの。道具的コストは、パートナーが不必要な仕事を引き起こしたり、家事を何もしていないなど、他の人の仕事の進行を妨げたりしたときに発生する。
- 機会の報酬とコスト:関係で生じる機会に関連付けられているもの。機会報酬は、他者との関係で受け取ることができる利益を指す。機会コストは、その関係のために何かを諦めねばならない時などに発生する。
このような観点から、相互作用から得られる成果を報酬とコストの差によって捉えていくわけですね。
成果の相互依存性は相手の成果に影響を及ぼす能力が相互に高いほど大きくなり、相互作用を継続するか否かは成果を一定の基準と比較することによって決定されます。
まず、成果が満足できるものかどうかが個人に固有の基準である比較水準(人が他者との相互作用する際、その関係がどのくらい魅力的で満足のいくものかを決定する標準となるもの)に照らして判断され、基準を上回れば満足が得られるので相互作用を継続しようとしますが、基準を下回り不満であっても、それに代わる関係に移行したときに期待される成果が現在の水準を上回らなければ関係は継続されます。
この際の、代替関係の評価基準を「選択的比較水準」と呼び、これが比較水準を上回れば、別の他者との関係に移行するということになるわけですね。
ここまでをまとめると…
- Thibaut&Kelleyは社会的交換および囚人のジレンマからインスピレーションを得て、「相互依存性理論」という相互依存の枠組みの開発に役立つ重要な定義と概念を提供した。
- 相互依存関係の分析には2×2の利得行列を用いたゲーム理論の考え方が用いられる。
- 相互依存理論において、個人が自分の行動と他の人の行動の両方から生じる可能性のある結果を検討し、これらの結果を可能な行動および行動の過程(コストと報酬)と比較検討する心理的プロセスを通して、変革が生じることになる。
- 大枠の捉え方として、他者との関係における報酬に満足できるかどうかは、比較水準という「他者との関係がどれくらい魅力的で満足のいくものかを決定する個人的な基準」によって判断される。
- 比較水準の基準を上回れば、他者との相互作用を継続していこうとする。ただし、基準を下回っていても、他の他者との報酬の予測が現在を下回るようであれば、やはり関係は継続される。
- なお、この「他の他者との報酬の予測」という代替関係の評価基準を「選択的比較水準」と呼び、これが比較水準(現在の他者との相互作用によって得られるもの)を上回れば、別の他者との関係に移行していくことになる。
…ということになります。
本当はこの理論、もっと複雑なのですが、本問の解説に必要そうなところを重点的に述べていきました。
以上を踏まえると、本問の説明は相互依存性理論について述べていると見なすことができますね。
よって、選択肢④が適切と判断できます。
⑤ 認知的不協和理論
人間の持つ複雑な信念体系や行動のバリエーションを考えると、条件づけのような単純なメカニズム以外にも、行動に影響を与える心理的な過程が働いていると考えるのが自然です。
社会心理学では、認知システムには生体のホメオスタシスのように均衡を保つ仕組みを持っているはずだという視点から、人間の行動に影響を与えるメカニズムの一つとして「人間は考えのつじつまの合うことを求める」という原理を見出しており、ここから「認知的斉合性理論」と呼ばれる理論群が生まれました。
この認知的斉合性理論の中には、有名なハイダーのバランス理論が含まれておりますが、同じく認知的斉合性理論の一つとしてフェスティンガーの認知的不協和理論があります。
人は一般に、客観的事実に反する信念や態度を自分がもっていることを意識すると、まるで不協和音を聴くかのような不快感を覚えるとされ、この不快感を低減しようとする動機づけが、さまざまな行動パターンを予測させます。
特に、本心としての態度とは食い違った行動を、何らかの理由でとってしまった場合に、興味深い効果をもたらしますが、これを例証したのが以下のフェスティンガーらの実験になります。
- 実験に参加した大学生は、非常に退屈な課題を長時間にわたって続けることを求められる。
- 実験の都合上、大学生らは、他の参加者に対して「とてもおもしろくてためになる実験だった」と、心にもない嘘をつく役割を与えられる。
- ここで役割演技の謝礼として1ドルを受け取る条件と、20ドルを受け取る条件が設けられる。
- 後になって、自分自身が実験をどのくらい楽しんだかを評定してもらったところ、1ドルしかもらわなかった条件の方が、20ドルもらった条件や、統制群(嘘をつくよう求められず、報酬も与えられない群)よりも、「楽しかった」と評価した。
認知的不協和理論によると、この結果を説明するのは「行動の正当化」という過程にあるとされます。
つまり、20ドルという報酬をもらった参加者たちは、本心とは異なる発言をしたことを「お金のため」という理由で正当化できるが、1ドル条件ではそれが困難なため、「そんなに退屈でもなかった」と実験に対する態度を変化させることで、自分の行動との折り合いをつけようとしたと見なされます。
フェスティンガーは不協和が発生しやすい状況として以下を挙げています。
- 決定後
- 強制的承諾
- 情報への偶発的・無意識的接触
- 社会的不一致
- 現実と信念・感情との食い違い
そして、こうした状況において不協和の低減法については、理論的には以下のように述べています。
- 不協和な関係にある認知要素の一方を変化し相互に協和的関係にすること
- 不協和な認知要素の過小評価と協和的な認知要素の過大評価
- 新しい協和的認知要素の追加
- 新たな不協和の発生や既存の不協和の増加をもたらす状況や情報を積極的に回避。
これらが理論的に言った不協和の低減法になりますが、具体的な低減法に関しては以下が指摘されています。
- 認知の再体制化・態度変化
- 行動の変化
- 環境の変化
- 知覚と認知の歪曲
- 人物・状況・情報への選択的接触
こうした方法が具体的にどのようなやり方を指すのかに関しては「公認心理師 2021-111」を参照にされるとわかりやすいだろうと思います。
以上のように、認知的不協和理論は認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の一つであり、本問で示されているような「コストと報酬の観点から他者との関係や、関係継続の判断を行うこと」に関する理論とは異なることがわかります。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。