主に社会心理学、認知心理学領域の問題です。
ハロー効果、スポットライト効果は過去に出題があり、フレーミング効果もプロスペクト理論と関連があるので過去問が役立つ内容でしたね。
説得という領域からスリーパー効果が出ました。
それぞれ体感しやすい効果だと思うので、しっかりと把握しておきましょう。
問14 自己中心性バイアスに該当する現象として、最も適切なものを1つ選べ。
① ハロー効果
② スリーパー効果
③ 自己関連づけ効果
④ フレーミング効果
⑤ スポットライト効果
解答のポイント
自己中心性という「他者が自分を見ている推論過程に対する推論(メタ推論)」に関する理解があること。
必要な知識・選択肢の解説
ピアジェは、前操作期(2歳~7歳くらい)の子どもの認知的な制約を示す特徴として、自己中心性を指摘しています。
一般に「自己中心的だな」と人に対して使うことはありますが、それは主に利己的という意味で使われていて、心理学領域で「自己中心性」と出てきたらピアジェの概念のことを指しているとまずは考えることが重要です。
ピアジェの自己中心性とは、幼児が自分自身を他者の立場に置いたり、他者の視点に立ったりすることができないという、認知上の限界性を示す言葉として使われています。
本問でテーマに上がっている「自己中心性バイアス」の自己中心性も、ピアジェの定めた自己中心性と似たような意味で用いています。
自己中心性バイアスは、自分の内部で起きている経験、自分の過去の体験、自分の視点から見た空間的位置、それに伴う注意やリソースの配分のあり方・量などのような、自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解をしてしまうことを指します。
このバイアスがかかっていても、当人にはそのことに気づくことができず、他者もまた自分と同じ知覚や理解を行っているだろうと錯覚してしまう点で対人関係上の問題も生じさせる要因になり得ます。
先に述べたとおり、ピアジェの概念は幼児に生じる認知的な制約を指しています。
しかし、大人であっても、自分を基準に他者の心の状態をとらえてしまうような「自己中心性バイアス」が生じる場合があります。
何かの食い違いやトラブルが生じて、そのときに自分と相手の視点にズレがあったり、自分の知識とは違った考えを相手が持っていたということが分かって、早とちりに気づくという経験は誰にでもあることでしょう。
こうしてみると自己中心性バイアスはネガティブなことばかりに思えるかもしれません。
しかし、他者を理解するときに、その端緒となる「取っ掛かり」は常に必要です。
経験が少なく、認知・情動が未発達な幼児が、自己中心性を用いて他者を理解しようとすることは、その「取っ掛かり」と言えます。
同様に大人であっても、理解が難しい状況になったときに、とりあえず手持ちの情報(自分の考えや感情)を前提としてその状況に対応しようとすることは、なにもおかしい点は無いと言えるでしょう。
自己中心性バイアスが問題になるのは、周囲とのずれが生じたときに、そのずれがトラブルにまで発展する前に修正できない状況でしょう。
なお、「他者が自分を見ている推論過程に対する推論」のことを「メタ推論」と呼びます。
これらを踏まえた上で、各選択肢の解説に入っていきましょう。
① ハロー効果
ハロー効果は、光背効果、後光効果などとも呼び、他者がある側面で望ましい(もしくは望ましくない)特徴をもっていると、その評価を当該人物の全体的評価にまで拡大してしまう傾向のことを指します。
認知バイアス現象の一つですね。
ハロー効果という言葉が初めて用いられたのは、ソーンダイクが1920年に書いた論文「A Constant Error in Psychological Ratings」です(ちなみに、ハローとは聖人の頭上に描かれる光輪のことですね)。
例えば、教師が成績が良い生徒と関わるときに、その生徒の人格面にまで肯定的な評価をしてしまったり、逆に成績が悪い生徒と関わるときに、実際以上に素行が悪いと評価してしまう場合などが挙げられます。
「あばたもえくぼ」、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということわざは、この効果を表していますね(あばたもえくぼはバランス理論でも説明されていますが)。
映画のワンシーンで、登場人物が目の前の人物を信頼するかどうか決断を迫られる場面があると思います(デイアフタートゥモローでは極寒の中で外に出るかどうか、という判断を迫られる場面がありましたね。あんな感じ)。
そういう場面って現在ではめったにないと思うのですが、もっと原始的な時代には物事を即断することが生存に有利だったと思われます。
目の前の人を信頼するかどうか、リーダーとして見なせるかどうか、そういう決断が常に自身の生存と直結していたわけですから。
ですから、人には全体ではなく一部分から、その人の人格全体を把握するというパターンが遺伝的に受け継がれているのです(たぶん)。
面接などの人物評価に際しては、評価者はこうした認知の歪みに十分に注意を払うことが重要です。
この効果によって、マイノリティの行動が目立ち、実際よりも過大視される(たいていは否定的特徴)誤った関連づけなどが少なくありません。
このようにハロー効果には、自己中心性バイアスである「自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解」が生じているとは言えません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② スリーパー効果
こちらも社会心理学の用語です。
説得効果が時間の経過とともに増大する現象をスリーパー効果と呼びます。
他者に対して翻意を求めて説得し、その後しばらく時間をおいたほうが説得効果が出やすいという現象です。
特に、信憑性の低い送り手による説得は、説得直後には効果が薄いですが、一定時間経過後の方が効果的な場合があります。
こうした現象は、説得内容についての記憶と情報の送り得に関する記憶とが分離することによって生じる(手がかり分離仮説)とされます。
信憑性の低さは説得効果を抑制するもの(割引手がかり、と呼ばれる)であり、説得直後は情報内容の説得効果が、信憑性の低いことで抑制されている状態です。
これが時間経過とともに、送り手に関する記憶が薄れて(割引手がかりが消失・分離)、説得内容自体の効果が出るようになります。
逆に、信憑性が高い送り手の説得は、時間とともに効果が減少します。
これも同じ原理で、説得内容+送り手の信憑性=説得効果と考えれば、送り手の信憑性が高いと説得直後の説得効果が高くなります。
しかし、時間とともに送り手の記憶が薄れてくると、説得効果が減ってくるということですね。
いずれにせよ、何か説得されたときには、ちょっと時間をおいて返事するのが得策である場合も多いことを窺わせる現象であると言えますね。
このように、スリーパー効果には、自己中心性バイアスである「自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解」が生じているとは言えません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 自己関連づけ効果
自己関連づけ効果(self-reference effect)とは、記銘時に自己に関連した処理を行うと、意味的な処理や他者に関連した処理を行ったときと比較して記憶保持に優れる現象を指します。
認知心理学の用語であり、自己参照効果とも呼ばれています。
自己関連づけ効果の生起メカニズムとしては、スキーマ(過去経験から得られたある種の対象や出来事に関する知識の集合)を用いたものが有力とされています。
学習の際、高度に構造化された自己に関するスキーマとの関連で記銘処理が行われ、強く精緻な記憶痕跡が生じた結果、自己関連づけ処理を行った記銘内容の記憶保持が促進されると考えられています。
自己にあてはまると判断した語の方が、そうでない語よりも記銘成績が良いことなどが、自己関連づけ処理を行っている間にスキーマを参照にしている根拠と見なされています。
このように、自己関連づけ効果には、自己中心性バイアスである「自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解」が生じているとは言えません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ フレーミング効果
フレーミング効果とは、意思決定を行う際の心理的枠組み(=フレーム)が異なることで、意思決定の結果に影響を与える現象を指しています。
カーネマン&トヴァースキーの実験で示されています。
ある病気に罹って医師から手術を勧められるときに…
- これまでに手術した100人のうち、95人が5年後も生存している。
- これまでに手術した100人のうち、5人が5年未満に死亡している。
実験では、多くの人が前者を選ぶことが明らかにされています。
このように数理的には等価の問題であっても「生存率が95%」と「死亡率が5%」では、心理的には異なる問題となって、意思決定が違うものになってきます。
ちなみにカーネマン&トヴァースキーは、プロスペクト理論(不確実性下における意思決定モデルの1つであり、個人の選択によって得られる利益や損益とそれが生じる確率を踏まえて個人がどのような選択をするかを記述し説明するためのモデル)でも知られていますね。
カーネマンは、この理論によって2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
このように、フレーミング効果には、自己中心性バイアスである「自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解」が生じているとは言えません。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ スポットライト効果
スポットライト効果とは、自分の装いや振る舞いが、実際よりも周囲の注目を集めていると推測することを指します。
つまりは、「他者による自分に対する推論」の推論では、自己中心的な推論をしてしまいがちであるということですね。
例えば、行為者が自分の行為に気づいた人を見積もるとき、潜在的な観察者の中で実際にその行為に気づいた人数よりも多くの人数を見積もる現象を指します。
人前で失敗したときに「みんなに見られた」と思いがちですけど、そうでもないということですね。
「人は自分が思っているほど、他人のことを気にしてないよ」という言葉の背景にある理論とも言えます。
先日、他機関を交えての会議でチャック全開で見立てを述べましたが、後からチャック全開に気がついたときに「スポットライト効果(自分が思うほど、人は自分のチャックなど見ていない)だから大丈夫」と自分を慰めました。
Gilovichらの実験では、行為者役の実験参加者に、ある芸能人がプリントされた格好悪いTシャツを着るように求めました。
その行為者は、観察者役の実験参加者が5人いる部屋に連れて行かれ、観察者の前に着席し、すぐに退席します。
その後、行為者に「ターゲット役が着ていたTシャツの人物を部屋の中の何人が正確に言えるか」を推測させました。
その結果、観察者の中でも実際に正確に言えた人数よりも、行為者は多くの人数を推測していました。
つまりは実際よりも多く見積もっていたということですね。
この効果はさまざまな場面で生じることが明らかにされています。
不登校児の中には、遅刻や早退を過度に嫌がる人がありますが、その背景に「遅刻や早退をする人を自分はネガティブに思う。だから自分がそれをすればネガティブに思われる」という無自覚の感覚があるのかもしれません。
もちろん、これは当人たちの自己認識やそれまで受けてきた養育・教育も絡んでくる事項ではありますが。
このようにスポットライト効果は「自分がこう思う」ということを基準として、周囲からどう見られているか、どう判断されているかを認識し、結果として自分の判断と周囲のそれとが乖離する現象であると言えますね。
このことは、自己中心性バイアスである「自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解」が生じていると言えます。
「自分がこう思う」ということは「自分しか持ち得ない情報」ですからね。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。