社会的勢力という社会心理学の用語に関する理解が問われています。
単純に知識を問う内容になっていますから、しっかりと覚えておきたいところですね。
問102 社会的勢力は、組織や集団の目標を実現するためのリーダーの影響力の基盤となる。このうち、メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力として、正しいものを1つ選べ。
① 強制勢力
② 準拠勢力
③ 正当勢力
④ 専門勢力
⑤ 報酬勢力
解答のポイント
French&Ravenが示した社会的勢力の6つの型を把握している。
選択肢の解説
集団が個人に与える影響を研究するのは社会心理学の分野であり、本問で示されている「社会的勢力」はこの社会心理学で用いられる概念の一つです。
人や組織がもつ、他者の行動、態度、感情などを、影響者が望むように変化させうる潜在能力のことを「社会的勢力」と呼びます。
他者に影響を及ぼすことができるという可能性(潜在能力)を示す概念であり、他者や他集団に対して、実際に影響を及ぼすことを示す「影響行動」とは区別されます。
この概念は「社会的権力」とも言われるが、このように表現する場合には、多くの被影響者の抵抗を排して、強制的な影響及ぼすことを指すことがあります。
例えば、政治権力、権力闘争などのように使われますね。
いずれにせよ、社会心理学においては、対人影響力の意味として使われることが多い概念です。
AがBに及ぼす社会的勢力は、AがBに影響を及ぼしうる最大の能力から、BのAからの影響に抵抗しうる最大の能力を差し引いたものとして示されます。
French&Ravenは、以下に示すような6つの型を挙げており、本問はこの6つの型の把握を求められています。
こちらを把握しておけば、本問を解くことは容易ですね。
以下の解説ではもう少し詳しく述べていきましょう。
⑤ 報酬勢力
① 強制勢力
この二つはいわゆる「飴と鞭」のことで、賞罰を与えることができる人がもつ影響力を指しています。
勢力者の要求に従わせるためには監視が必要である点が特徴と言えます。
報酬勢力は、AがBに報酬を与えることができる能力に基づいた勢力です。
被影響者がその報酬を望んでいるほど、また、別の個人からのその報酬を獲得できる可能性が低いほど、報酬勢力は大きくなります。
これに対して、強制勢力は、AがBに罰を与えることができる能力に基づいた勢力です。
被影響者が回避したいと望む罰(身体的暴力、精神的苦痛など)をコントロールできることに基づいています。
この「報酬勢力」と「強制勢力」は、Bに依存的行動を起こさせるとされています。
これらの勢力の力は認めつつも、個人的にはこれらの勢力を積極的に使おうとは思いません。
私が中心で行われたある勉強会での話ですが、私の後輩がさらに後輩に対して「もっと自主的に動きなさい」と叱りました(これは強制勢力ですね)。
そもそも「自主的に動け」と命令すること自体に論理矛盾がありますが、それはさておき、これをすることによって「後輩がきちんと自主的に動いているかチェックせねばならない」という役割が、強制勢力の側に生じてしまいます(上記にある「監視が必要」ということですね)。
私はこうした「人を監視する」ということに精神的エネルギーを費やすのが堪らなく嫌なので、報酬勢力も強制勢力もあまり使いたくないというのが正直な気持ちです。
そういう意味で、あまり認知行動療法で行う「宿題」が好きではありません(もちろん、ある特定の事例には効果的であることを知っているので、そういう事例と見立てたなら積極的に用います)。
このように「報酬勢力」も「強制勢力」も、本問が示している「メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力」であるとは言えないことがわかりますね。
以上より、選択肢①および選択肢⑤は誤りと判断できます。
③ 正当勢力
これは、社会的、文化的に規定されている規範を被影響者が内在化していることに基づいた勢力です。
つまり、Aには行動を制御する権限があるというBの信念をもとにしているということです。
例えば、個人が目上の人には従わなければならないという規範を受け入れている場合には、その個人の目上であることによって正当勢力を保持することになります。
このように「正当勢力」は、本問が示している「メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力」であるとは言えないことがわかりますね。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④ 専門勢力
専門的な知識や技能をもっていることに基づいた勢力です。
Aは彼の専門分野では自分よりも多くの知識や技能といった資源をもっているというBの知覚に基づいています。
高度な専門性が制度化されると「権威」になり、ある社会的な地位を占めるようになります。
「専門勢力」は専門的な技術で、次の選択肢で解説する「準拠勢力」は魅力によって、それぞれ追従者を生むという点では共通した勢力と言えます。
私は、専門家が専門家集団の中で生きていくことを是としません。
上記の通り「権威」を生む仕組みが生じやすいことと、「専門という非常に狭い枠組みであるにも関わらず、それが全てのように感じてしまう」という現象が生じやすいためであり、これを神田橋先生は「専門バカ」と呼んでいますね。
ある有名な臨床家が「臨床家は臨床場面以外で活動する場所をもっておいた方が良い」「臨床家としてのアイデンティティを自分の中心にしない方が良い」ということを述べていますが、私もそのように思います。
専門家外の世界と関わるような部分をもっておき、そこにもアイデンティティをもっておくことで、専門家の中でしか生きられないような姿になるのを防いでくれるでしょうし、自身の専門の世界が世の中のごく一部の考え方であることを教えてくれます。
「自分の専門が世界の中心ではない」くらいの謙虚さは持ち合わせておきたいところです。
このように「専門勢力」は、本問が示している「メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力」であるとは言えないことがわかりますね。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
② 準拠勢力
これは被影響者が影響者に同一視しており、影響者が理想像になっていることに基づいた勢力です。
被影響者は常に影響者の行動や態度を参照して、自分の行動や態度を決定します。
簡単に述べると「その人のようになりたいから」という理由で追従者を生む影響力のことを指しますね。
この内容は、本問の説明文の内容(メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力)に合致することがわかります。
以上より、選択肢②が適切と判断できます。
ついでなので、もう一つの勢力である「情報勢力」についても説明しておきましょう。
これは、行使する人ではなく選択肢そのものがもつ情報に依拠するものです。
例えば、薬局で薬剤師から勧められた薬を購入するのは「専門勢力」と解釈できますが、ある薬が効くとわかっているために、誰が勧めようが(あるいは否定しようが)、関係なく自分は買うという場合は、その薬に関する知識をもとにした「情報勢力」に影響を受けたと説明できます。
上記の例からも明らかなように、これらの勢力は互いに関連し、組み合わされて影響が及ぼされます。
これらには細分化された分類が提案されたり、社会的勢力を測定する尺度も考案されるなどもしています。