問13は社会心理学の概念に関する設問です。
もっと踏み込んだ問題が2018追加-85にて出題されています。
こちらを踏まえた概念解説も作成してありますのでご参照ください。
問13 多くの人がいると、一人のときにするはずの行動が生じなくなる傾向に関連する概念として、正しいものを1つ選べ。
①社会的促進
②集合的無知
③集団極性化
④情報的影響
⑤傍観者効果
この問題はけっこう難しかったです。
なぜなら3つの概念の関係性を明確に把握しておかないと正確に解けないためです。
ある種の引っかけ問題のような感じです。
その難しいポイントも含め解説していきましょう。
ちなみに問題文が示している概念が「社会的抑制」であるとわかることは、本問を解く上での前提となっていますね。
解答のポイント
そもそも問題文が示す概念が「社会的抑制」であることがわかる。
社会的抑制-傍観者効果-集合的無知の概念の連なりを理解している。
選択肢の解説
①社会的促進
Triplett(1898)は、自転車のレースや釣竿のリール巻きの作業を、1人でするよりも他者と一緒に課題遂行する方が成績が良くなることを示しました(これは社会心理学の中の最古の実験的研究とされています)。
これが「社会的促進」と呼ばれる現象です。
すなわち集団での方が個人で行うよりも優れた成績を収めるという現象を指しており、この内容は問題文のそれとは逆のことを示していることがわかりますね。
その後の研究で、他者存在が成績を下げることもあるとわかってきました。
これを「社会的抑制(手抜き)」と呼び、こちらが問題文の概念と見なすことができます。
特に、容易な課題の遂行は他者の存在によって促進されるが、難しい課題では成績が低下することが示されています。
以上より、選択肢①は誤りであると判断できます。
②集合的無知
⑤傍観者効果
すでに述べたように、問題文が示しているのは「社会的抑制」という概念です。
集団状況のため、本来なら発揮できるはずの個人の能力が生かされなくなることもあります。
綱引きで綱を引っ張る1人当たりの力の強さは、人数が増えるにつれて反比例して減少していくとされています。
その他にも、一緒に叫ぶ、拍手する際の大きさも同様とされていますね。
こういう1人の時よりも集団状況の方が課題遂行が低下することを「社会的手抜き」もしくは「社会的抑制」と呼びます。
つまりは問題文にある「一人のときにするはずの行動が生じなくなる傾向」=「社会的抑制」となるわけですが、本問で求められているのは社会的抑制に「関連する概念」を選択することです。
実はここが引っかけのポイントになっています。
社会的手抜きは他者存在によって課題遂行や行動が抑制されることでしたが、これが援助行動においても生じることが示されています。
1964年、キティ・ジェノヴィーズという若い女性が自身のアパートの外で襲われ、30分以上の抵抗虚しくついに殺害されました。
少なくとも38人の隣人が助けを求める彼女の叫びを聞いたが、誰も助けることはありませんでした。
アメリカ国民はこの事件に震え上がり、社会心理学者たちは、後に「傍観者効果」と呼ばれる原因を調べ始めました。
ラタネは、困っている人の周囲に多くの人が存在しているのに、誰も助けようとしない現象を「傍観者効果」と名付け、多くの人が存在しているから援助行動が抑制されることを明らかにしました。
- 責任の分散:自分がしなくても誰かが行動するだろう
- 集合的無知(多元的無知):周囲の人が何もしていないのだから、援助や介入に緊急性を要しないだろうという誤った判断をする
- 評価懸念:行動を起こして失敗した際の、他者のネガティブな評価に対する不安から、援助行動が抑制される
つまり、これらの連なりを簡素化して示すと以下の通りになります。
- 問題文の「一人のときにするはずの行動が生じなくなる傾向」=「社会的抑制」となる。
- この社会的抑制と「関連する概念」は「傍観者効果」である(つまりはここが問題で求められているところ)。
- そして傍観者効果という現象が生起する理由のひとつとして「集合的無知」がある。
③集団極性化
成員を集団に引き付けて留まらせるよう働く力を「集団凝集性」と呼びます。
単に、集団としてのまとまりの良さ、と説明される場合もありますね。
集団凝集性の高い集団の特徴としては、成員が目標に向かって互いに協力し、結果として集団の課題遂行にプラスに働くとされています。
一方で、過度に凝集性が高くなることによって、成員は結束を乱すまいと発言を控えるようになり、それが有効な問題解決を妨げることがわかっています。
例えば、全員一致のルールを採用し決定に費やした努力が大きいほど、その決定の誤りを正そうとしないことが示されております(いわゆる「コストを要した決定への固執」)。
また、集団で意思決定すると単独の場合に比べ、決定内容がよりリスクが高いものになったり(リスキーシフト)、逆により安全志向に傾く(コーシャスシフト)ことが知られています。
この傾向は集団討議を経ると、当初の意見が一層強められることを表しており、「集団極性化」と呼ばれています。
集団極性化については以下の3通りの説明がなされています。
- 集団討議では多数派の意見がより多く聞かれることになり、結局、当初の立場を互いに支持・補強しあう。
- 他の成因に好ましい自己像(力強く自信があるイメージとか)を提示したいがために、各人が他者と比較してあえて人よりも極端でつよい意見を表明する。
- 集団討議を通じて集団への同一視が生じ、各人が自らの社会的アイデンティティを維持するために、そこでの代表的意見に同調する。
いずれにしても集団で討議したとしても、必ずしも妥当で公正な結論が得られるわけではないということが窺えますね。
以上より、選択肢③は誤りであると判断できます。
④情報的影響
集団に所属すると、ときには自分自身の意見や信念を曲げて、多数派に従ってしまうことがありますが、これは集団への同調と呼ばれる現象です。
これを実証した有名な研究がAsch(1951)の線分の長さを問う実験です。
(あっし(Asch:アッシュ)も「これで」と同調行動、と覚えましょう)
こちらですね(これ以上わかりやすい絵があるかってくらいわかりやすいですね)。
多くの人が正答以外を指差している場合、間違った方を選んでしまうという研究です(全体の32%くらい。絵では35%となっていますけど)。
同調が生じる状況要因としては、集団凝集性が高い、集団が大きい(5~6人以上は大差がないとされているが)、集団内での地位が低い、などによって同調が増大するとされています。
また、多数者側が全員一致していることが重要で、1人でも正解を表明する成員がいると同調は激減します。
更に、個人的要因も絡んできて、自尊心が低かったり親和欲求が強い人は同調を生じさせやすいとしています。
集団のどのような特性が同調を引き起こすかを示した知見もあります。
Deutsch&Gerard(1955)は、同調の原因として情報的影響と規範的影響の2つを提唱しています。
情報的影響とは「多くの人の判断や行動は、正解に近い」という信念に基づいています。
一方、規範的影響とは、他の成員と異なる行動を取って周囲から拒絶されたり、集団の和を乱すことを避け、むしろ承認や賞賛、集団の一致を得ようとする動機から来るものです。
先述した、全員一致が崩れると同調が激減するのは、主に情報的影響が低下するためであると説明されています。
また、自尊感情が低い人は、自分よりも他者の判断が正しいと考える信念(つまり情報的影響の増大)が生じると思われます。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。