問114は採用面接場面の面接者心理に関する問題です。
確信をもって解くには「面接者の陥りやすい心理」というところを認識しつつ解くことです。
もっと言えば、「採用面接場面で生じ得る心理現象」ではなく「採用面接場面で面接者が陥りやすい心理」を選択するということですね。
問114 採用面接において面接者が陥りやすい心理として、誤っているものを1つ選べ。
①対比効果
②寛大化傾向
③ハロー効果
④ステレオタイプ
⑤ブーメラン効果
これらの効果は互いに関連し合っていることも多いですね。
もちろん各概念の定義は把握しつつも、あまり厳密に考え過ぎず、互いの概念をグラデーションとして見ておくことが大切です。
個人的には選択肢⑤の解釈が引っかけになっていると感じております。
引っかかった人もいるのでは。
解答のポイント
各概念について理解している。
問題で示されている条件(面接者の陥りやすい心理)をしっかりと把握しておく。
選択肢の解説
①対比効果
対比効果については、2018追加-10の選択肢①で出題がありますね。
そこでの内容を引用しつつ。
人の記憶や知識は等しく利用できるわけではなく、ある特定の知識が活性化するかどうかを決定する要因はいくつかあります。
そのうちの一つが「文脈(依存)効果」です。
例えば、動物園と聞くと、動物園に関する知識が活性化します。
そこで「赤ちゃんがポケットから顔を出していた」という言葉を聞くと、すぐにカンガルーのことだと思い浮かべることが可能ですが、事前に動物園と聞いていないと何のことやらという感じになりますね。
このように状況(文脈)に依存して引き出される解釈が変化することを指します。
こうした「文脈効果」を前提として、特定の知識を活性化させる方法の一つが「プライミング」という手法です。
ある特定の刺激、例えば「冷たい」という形容詞は、その後の人物評価にネガティブな影響を与えるとされています。
この際の刺激を「プライム刺激」と呼び、プライム刺激によって活性化した知識や概念などが、後続の情報処理に影響を与えることを「プライミング効果」と呼びます。
「プライミング効果」において、プライム刺激と同じ方向へ情報処理が影響されることを「同化」と呼び、逆方向に影響されることを「対比(効果)」と呼びます。
対人知覚領域での対比効果は「空間的または時間的に接近して二つの刺激が与えられた結果、同一感覚様式において受ける二つの刺激間の違いに生じる強化作用」と定義できます。
印象形成では、いわゆる「ギャップ萌え」が対比効果の一つです(「ゲイン・ロス効果」と呼びます)。
この「ゲイン・ロス効果」と「対比効果」は微妙な違いがあり、対比効果では個人内でのギャップによる印象形成だけではなく、人をまたいでの効果も見られます。
例えば、それほど魅力的ではない人と出会った後に、普通の人を見ると魅力的に見えるなどです。
採用面接の場合、あまりぱっとしない学生を見た後に、一般的な学生の面接をすれば実際よりも魅力的に見える可能性が高いですよね。
以上より、選択肢①は正しいと判断でき、除外することが求められます。
②寛大化傾向
人が他者を認知・評価する際に生じやすい歪みの一つです。
他者の望ましい側面はより強調され、望ましくない側面は控えめに(つまり寛大に)評価されやすいという現象を指します。
結果として、他者に対する評価は、実際よりも好意的なものになる傾向があります。
こうした効果が生ずるのは、人の粗探しをするのは悪で、長所を積極的に認めるべきだとする文化的規範が強く影響しているためと考えられています。
不登校児の親にも「頑張って褒めようとしすぎる」という状態に陥っている人を散見します。
実は、こういった対応は効果的ではないのですけど。
さて、本問の本問の「採用面接における面接者」という枠組みで考えていきましょう。
例えば、採用面接の中で、職務と関連しない話で盛り上がると甘い評価をつけてしまう傾向があります。
職務と関連しない話題で好印象だっただけなのに、それが職務能力が高いと考えてしまうということですね。
要は「評価が甘くなる」という現象の説明として使われる概念ですね。
以上より、選択肢②は正しいと判断でき、除外することが求められます。
③ハロー効果
こちらは2018-13の選択肢⑤で出題がありましたね。
Halo効果は、光背効果、後光効果とも呼ばれます。
他者がある側面で望ましい(あるいは望ましくない)特徴を持っていると、その評価を当該人物に対する全体的評価に広げてしまう傾向を指します。
例えば、教師が生徒を見る場合、成績の良い生徒は性格面や行動面でも肯定的に評価されがちであるのに対して、成績の悪い生徒は全ての面で問題があるかのように見なされやすいという説明がなされています。
面接などの人物評価に際しては、評価者はこうした認知の歪みに十分に注意を払うことが重要です。
この効果によって、マイノリティの行動が目立ち、実際よりも過大視される(たいていは否定的特徴)誤った関連づけなどが少なくありません。
ハロー効果という言葉が初めて用いられたのは、ソーンダイクが1920年に書いた論文「A Constant Error in Psychological Ratings」です。
ちなみに、ハローとは聖人の頭上に描かれる光輪のことですね。
④ステレオタイプ
過去に直接の出題はありませんが、2018追加-10の選択肢④で若干触れている内容ですね。
ステレオタイプはジャーナリストのLippmannが使用・流布した用語です。
集団の成員全般に対して十把一絡げ的な認知を割り当てることを指します。
主に集団を対象にするが、個人が対象になることもあります。
類似概念の「偏見」は、集団とその成因に対する否定的な認知及び感情の集合体を指しますが、「ステレオタイプ」は集団やその成因に対する過度に一般化された否定的・肯定的な認知を指します。
ステレオタイプを持つことは心理経済的に効果的です。
集団認知において、無数の要因から特徴を考え出すよりも、はじめは集団成員が同じ態度、価値感、知覚行動様式、社会経済的地位などを共有していると仮定してから、個々人を認知する方が心理的に楽ということです。
また、集団のように予測がつかないものに対して、情報的統制感をもつために単純なステレオタイプを持てば、その集団に対して主観的な予測が成り立ち、安心感を得ることができます。
ただし、ステレオタイプ以外の言動が無視されたり、例外視されることでステレオタイプの認識から変更されないという問題も考えられます。
さて、本問の「採用面接における面接者」という枠組みで考えていくと、当然「この大学から来る学生はろくなもんじゃない」「富山県出身者は閉鎖的だから採用しない(本当にあった話ですよ)」などのステレオタイプが生じることも考えられますね。
こうした、特に否定的なステレオタイプを向けられる人はたまったものではありませんが、ステレオタイプを解消することは一般に困難です。
そもそもステレオタイプは、その認知者が気づかないほど自動的・無意識的に生起するので、修正の機会はそれほど多くありません。
また、先述のようにステレオタイプ外の言動を例外として扱ってしまうという心理も生じやすく、既存のステレオタイプが維持されることになります。
以上より、選択肢④は正しいと判断でき、除外することが求められます。
⑤ブーメラン効果
ブーメラン効果とは、一般に、物事の結果がブーメランの飛行軌道のようにその行為をした者自身に返ってきて、主に負の効果をもたらす現象のことを指します。
本来ならばブーメランが手元に戻ってくることは良いことなのですが、ブーメラン効果においては投げた自分が受け損なったブーメランで打撃を受けてしまうという連想から来ているようです。
ただし心理学、特に社会心理学におけるブーメラン効果は、主に説得場面での現象を指します。
これは、説得者がコミュニケーションによってほかの人物を説得しようとするとき、説得をすることによって、説得される側が説得者の説得意図とは逆の方向に意見を変えてしまう現象の意味に用いられています。
子どもが勉強しようと思ったときに、親から「勉強しなさい」と言われるとやる気がなくなる、アレのことが例として出されることも多いですね(心理的リアクタンスでも説明されていますが)。
本問のような採用面接場面で面接者が「受験者を説得しよう」ということは、基本的には無いでしょうから、ブーメラン効果が生じると捉えるのは不適切です。
ただ、現在の就職は圧倒的に学生有利です(人が少ないですからね)。
このことを考えると「ぜひ当社に入ってほしい」といった感じの「説得」を行うような時代が来たら(今も一部では来ているのだろうか?)、このブーメラン効果は採用面接場面でも生じるかもしれないですね。
しかし、その場合であってもブーメラン効果が生じるのは「受験者」の方であり、「面接官」に生じるのではありませんね。
意外とこの辺に引っかかってしまう人がいた問題かもしれません。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断でき、こちらを選択することが求められます。