こちらは原因帰属に関する問題です。
以前にも記事にしました、ワイナーの原因帰属理論を元にした問題です。
選択肢③と選択肢④のいずれが適切かの根拠を見つけられずにおりましたが、コメントにて適切な情報をいただきました。
それをもとに修正させていただきました。
解答のポイント
Rotter&Weinerの原因帰属理論を理解していること。
行動コストと効力予期の視点を持って解くことができる。
原因帰属理論の概説
上記のリンクにほぼ書いてありますが、概要を記します。
この理論では、原因帰属のスタイルを「統制」と「安定性」で分類します。
統制は以下の2つに分かれます。
- 内的統制:その人の内部の要因。性格、気質、能力など。
- 外的統制:外部要因。環境によるものなど。
- 安定:変わりにくい要因のことを指す。知能や課題の困難さなど。
- 不安定:変わりやすい要因のことを指す。努力や運など。
これらを組み合わせると以下のような表になります。
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安定
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不安定
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内的統制
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先天的な能力が原因
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努力が原因
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外的統制
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課題の困難度が原因
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運が原因
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ワイナーは1979年に、これらに「統制可能-統制不可能」という因子を加えた理論を示しました。
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内的統制
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外的統制
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安定
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不安定
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安定
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不安定
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統制
不可能
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能力
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気分
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課題の困難さ
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運
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統制
可能
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不断の努力
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一次的な努力
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教師の偏見
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他者からの日常的でない援助
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ここで示されている「統制可能-統制不可能」は、自分にとってコントロール可能か否かという次元です。
ワイナーは、どのような原因帰属を行うかによって、後の行動に対する成功の期待や感情が決まり、次の行動が決定されると考えました。
帰属先によって達成動機の高低が変わってくるとされています。
- 達成動機が高い人:
成功の原因を能力や努力に帰属させ、失敗の原因を運や努力不足に帰属させる傾向が強いといわれています。
自尊心が満たされ、努力すれば成功できるという成功期待も高い状態です。 - 達成動機が低い人:
成功の原因を課題の難易や運に帰属させ、失敗の原因を能力に帰属させる傾向が強いといわれています。
失敗の原因を能力に帰属させると「何をしてもムダだ」というあきらめの気持ちが強くなり、達成動機が低下します。
選択肢の解説
本設問で示されている状況は、すべて「試験の点数が悪かった」という場合です。
よって、状況が悪いときにどこに帰属させているかがポイントになります。
その上で「効果的な学習者の解釈」すなわち、達成動機が高く、次の課題にも積極的に取り組めるような原因帰属をしている選択肢を選ぶことが求められています。
『①試験の点数が悪かったのは苦手な科目があるからだ』
こちらの内容は、明らかに「苦手な教科」の存在(=それが苦手な自らの能力)という内的・安定・統制不可能な原因帰属です。
すなわち、自らに備わっている特性は変えようがなく、学習者本人にはコントロールできない要因に帰属しているため、次への意欲・期待が高まることはないと判断できます。
よって、選択肢①の内容は不適切と言えます。
『②試験の点数が悪かったのは問題が難しかったからだ』
こちらは、「課題の困難さ」という外的・安定・統制不可能な原因帰属です。
すなわち、課題の困難さは学習者が変えることはできず、当然コントロールもできないため、次への意欲・期待が高まることはないと判断できます。
よって、選択肢②の内容は不適切と言えます。
『③試験の点数が悪かったのは努力が足りなかったからだ』
この内容は、内的・不安定・統制可能な原因帰属になります。
よって、達成動機が高い人の傾向(失敗を努力不足と捉える)があり、次はもっと頑張って勉強すれば、良い点数が採れるだろうと期待が持てます。
しかし、「統制可能-統制不可能」という分類で言うと、努力が「不断の努力」と「一時的な努力」のいずれかであるという限定は本設問ではなされていません。
よって、選択肢③は効果的な学習者の解釈として適切と言えなくもありませんが、選択肢④と比べてどうでしょうか。
『④試験の点数が悪かったのは学習方法に問題があったからだ』
こちらについては選択肢③同様、内的(自分の勉強方法だから、外的な要因ではない)、不安定(勉強方法は不変のものでない)、統制可能(勉強方法は変えようと思えば変えられる)と捉えることが可能です。
そうなると、選択肢④も達成動機が高い人の原因帰属と考えられます。
選択肢③と④のいずれの方が効果的な学習者と定めることができるかが重要です。
コメントで紹介いただいた「やる気はどこから来るのか」(奈須正裕,2002)にこの点が示されておりました。
これによると、以下の2点が重要となります。
1点目は「行動コスト」という考え方です。
得られる価値の高さに照らして、支払う労力や心理的負担が大きすぎる場合、行動しない可能性が高いということです。
今回の結果で言うと、選択肢③の努力という帰属は、それをずっとし続けることが求められるという意味で大きな労力を求められます。
それに対して、選択肢④でしたら方法論の見直しということですから、努力量については据え置きで大丈夫といえます。
2点目は「効力期待」です。
こちらはバンデューラの示した概念で、以前詳しく述べております(公認心理師試験の問22でも同様の記述をしてあります)。
バンデューラによると、自己効力(感)は、期待であり、予期であるが、従来の学習理論で言われていた結果の予期(トールマン)ではなく、反応に対する予期(「できる」という予期)であるとして、自己効力感の特色を強調しました。
すなわち、失敗を努力に帰属すると随伴性期待(やれば成功する)は高いかもしれませんが、そこで要求される「毎日のコツコツ」を当人がやれそうと思うかどうか(効力予期)が重要と言えます。
選択肢③の「努力」とするよりも選択肢④の「勉強方法」と帰属する方が、ワイナーの「一時的な努力」に該当すると言え、こちらの方が効力予期が高くなると考えられます。
以上の点から、選択肢④がより効果的な学習者の解釈と捉えることが可能であり、こちらが最も適切な選択肢と言えます。