家族システム論について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
家族療法に関する基本的概念について問われています。
ベイトソン、MRIグループ、構造学派、ミラノ派、多世代派などの第1世代の家族療法の潮流について理解しておくことが大切です。
フォン・ベルタランフィの一般システム理論についても、大枠で良いので理解しておくと解きやすいかもしれません。
家族への関わり、その背景にある家族イメージは、その人の原家族での体験が非常に大きく作用しています。
これはカウンセラーも同様であり、実践上は、自身の家族イメージの特徴や歪みについての自覚が大切になります。
解答のポイント
家族療法の基本となる家族システム論について把握していること。
家族療法の諸学派について、その代表的概念を理解していると望ましい。
選択肢の解説
『①家族システムには上位システムと下位システムがある』
他選択肢にも出てきますがフォン・ベルタランフィの一般システム理論の特徴は以下の通りとなります。
- ある要素は、更にある特徴によって小さく分けられるサブシステムより成り立っており、システムはより大きい階層システムのサブシステムである。
- システムは部分の集まりではなく、部分があるパターンによって組み合わせれてできた統合体であり、その独自性は境界によって維持されている。
- システムは、もの、エネルギー、情報をシステムの外の環境と交換するかしないかによって、開放システム・閉鎖システムに分けられる。
- 多くの場合、システム内の活動は未知であり、インプットとアウトプットのみが知覚できる。
- 生きた生物体は、本質的に開放システムであり、環境との間に無限に、もの、ことを交換し合うシステムである。
- 開放システムの世界では、原因と結果が直接的に結びつくような直線的因果律は成り立たず、すべてがすべての原因であって結果であるという、円環的因果律が成立する。
これは有機的に結び合ったいくつかのサブシステムから成っており、夫婦・母子・父子・きょうだいがそれぞれサブシステムを構成しています。
日本の場合、親子サブシステム(特に母子)が強く、相対的に夫婦サブシステムが弱いと考えられていますね。
ミニューチンの治療においては、家族の構造の再構築を促すような介入を行います。
家族システムにセラピストが溶け込む過程(ジョイニング)を重視し、サブシステムの境界に働きかけ構造変革を促すとされています。
以上より、選択肢①が適切と判断できます。
『②家族成員間の境界があいまいな家族を遊離家族という』
遊離家族という概念自体は、ミニューチンをはじめとする構造学派家族療法の考え方です。
ミニューチンがスラム街などの貧困家庭のセラピーに従事したという事から、非言語的・実効的なアプローチを特色とし、拒食症に対するアプローチとして非常に評価が高いとされています。
構造学派と呼ばれるのは、彼らの治療スタイルを説明するときに、家族との関係(交流パターン)を線で表したり、家族間の境界線を重要視することからきています。
構造学派ではシステムを構造として捉える点が特徴的です。
家族構造の捉え方として、以下の3つに注目しています。
- 境界線:固い境界・明瞭な境界・曖昧な境界という3つの境界がある。
- 提携:上記の提携には敵対関係を含む二者間の「連合」と、敵対関係を含まない「同盟」がある。
- 権力:特に親ではなく子どもが権力を握っている場合を問題にした。
遊離家族という概念は上記の「境界線」概念の中で用いられます。
家族成員の誰と誰が、どのシステム内でどのようにふるまうかを規定する「隠れたルール」によって境界は設定されます。
境界や境界が規定するサブシステムは、時とともに変化し、外的な状況によっても影響を受けて変化します。
境界の特徴としては、固いか柔らかいか、曖昧か閉鎖的、あるいは開放的かなどの分類がなされています。
サブシステムの間の境界が明瞭な家族は、いわゆる正常に機能している家族と理解される。
例えば、両親サブシステムと、その子どもによる家族のサブシステムの境界が明瞭である場合は、正常な状態であると考えます。
祖父母たちが過剰に息子夫婦に入り込もうとするなどは、その境界が明瞭でない証拠ですね。
健康な家族では境界線は明瞭でも、両サブシステムの間のコミュニケーションは断絶せず、十分に維持されていることが前提とされます。
境界の曖昧な家族はあらゆる問題に関して、すべての成員が引き込まれてしまい混乱が生じがちであり、このような状態を「もつれ家族」と呼びます。
逆に境界が極度に固い場合には、遊離家族とよばれ、家族は互いを支えあうことをしないとされています。
祖父母とその息子家族がまったく関わり合いがない状態などですね。
「もつれ家族」では精神病圏の問題を生じさせやすく、「遊離家族」では非行系の問題が多いとされています。
ギャンググループなどのように、家族システムの外でのつながりを求めるようになるためです。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③G.Batesonの一般システム理論の影響を受けて発展してきている』
1950年代に入り多領域から家族への注目を促す研究が示されるようになりました。
グレゴリー・ベイトソンは、Jackson・Haley・Weaklandと共に統合失調症を家族コミュニケーションから説明したダブルバインド理論を提出しました。
ここからベイトソンが抜け、ジャクソンを中心に家族療法を行うようになり、この集まりを「MRI(Mental Research Institute)グループ」(コミュニケーション学派)と呼びます。
コミュニケーション学派の特徴は以下の3つになります。
- システム理論
- コミュニケーション理論
- 特殊な面接構造
このフォン・ベルタランフィの「一般システム理論」によって「システム」という概念が広まりました。
フォン・ベルタランフィの示した一般システム理論は以下の特徴を備えています。
- システムは互いに作用している要素からなるものである。
- システムは部分に還元することができない。
- システムは目的に向かって動いている。
- 一つのシステムの中には独特の構造を持った複数の下位システムが存在する。
- 下位システムは相互に作用しあいながら調和し、全体としてまとまった存在をなしている。
これらをまとめると以下の通りです。
すなわち、システムとは…
- 全体性:全体は部分の総和ではない
- 自己制御性:ホメオスタシスのように、逸脱を小さくしようとするネガティブ・フィードバック機構のこと。
- 変換性:環境の変化に合わせて自身を変化させる働き。2と合わせて、大小の変化を含みシステム全体の安定を保つ。
『④家族の中で問題行動や症状を抱える人をFP〈Family Patient〉という』
『⑤家族内で、1つの原因から1つの結果が導かれることを円環的因果律という』
家族システム論は一般システム論の応用で「家族の問題は皆が互いに影響力を及ぼしあった結果で、いわば家族内人間関係全体が原因」と考えます。
そこで家族療法では「原因と結果がまわりまわって出てきたもの」(円環的因果律)として問題を捉えます。
これに対して、1つの原因から1つの結果が導かれるという考え方は「直線的因果律」と呼び、円環的因果律の考え方と対比させて語られます。
こうした円環的因果律の考え方に基づき、家族療法では何らかの問題行動や症状を示した特定の個人についても、その人に責任ではなく家族システムの全体の人間関係のゆがみに由来すると考えます。
この「家族療法において何らかの問題行動や症状を示した特定の個人」のことを「IP (identified patient:患者とみなされた人)」と呼びます。