公認心理師 2024-88

自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質を選択する問題です。

「どこから放出されるか」というのはなかなか覚えにくい問題だと感じます。

問88 自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質として、適切なものを1つ選べ。
① セロトニン
② ドーパミン
③ グルタミン酸
④ アセチルコリン
⑤ ノルアドレナリン

選択肢の解説

① セロトニン

体内のセロトニンの約90%は消化管粘膜に存在します。

中枢神経系では、セロトニンは主に脳幹の縫線核で合成され、大脳皮質や大脳辺縁系、視床下部、脳幹などを含む広汎な脳領域で神経伝達物質として用いられています。

したがって、セロトニンが関わる生理機能も多岐にわたり、特に気分や情動、睡眠を調節する脳のシステムにおいて重要な役割を担っていると考えられています。

1990年代後半に効果的な抗うつ薬として開発された選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、セロトニンが軸索終末部から放出された後の再取り込み機構を阻害することによって、シナプス間隙中のセロトニン濃度の低下を抑制することで抗うつ効果を発揮します。

以上より、セロトニンは「自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② ドーパミン

ドーパミンは、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもあります。

運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わり、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質と呼びます。

ドーパミンは、報酬経路の一環として腹側被蓋野でニューロンにより産生され、側坐核および前頭皮質で放出されて、快楽の感情をもたらします。

ドーパミンはカテコールアミンと呼ばれる種類に属し、アミノ酸のチロシンから酵素の働きによって合成されます。

ドーパミンが働く主な神経経路には黒質線条体路・中脳辺縁系路・中脳皮質路の3つがあり、黒質線条体路はパーキンソン病と関連し、中脳辺縁系路と中脳皮質路は統合失調症と関連するとされています。

アルコールを飲むことによって快く感じるのは脳内の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するためと考えられますが、この報酬系においてドーパミンが中心的な役割を果たしています。

アルコール・麻薬・覚せい剤などの依存を形成する薬物の多くはドーパミンを活発にする作用があり、そのために報酬系が活性化するので、これらの薬物を使用すると快感をもたらすと考えられます。

以上より、ドーパミンは「自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ グルタミン酸

グルタミン酸などの神経伝達物質はシナプス前細胞で合成され、シナプス小胞に貯蔵されます。

シナプス前細胞に活動電位が到達すると放出され、拡散して後シナプス細胞にある受容体と結合し、再び活動電位が発生します。

神経伝達物質はそれぞれ対応する受容体に結合することで作用します。

後シナプス細胞には受容体タンパクがあり、神経伝達物質が結合することで、細胞外のシグナルを細胞内シグナルに変換します。

受容体はそれぞれ特異的な物質としか結合しないことになっています。

この放出される神経伝達物質は、大きくアミノ酸、ペプチド類、モノアミン類の3種類に分けられます。

グルタミン酸は、興奮性の神経伝達物質で、アミノ酸であり、他のどの神経伝達物質よりも多く脳内に分布しています。

グルタミン酸受容体の一つであるNMDA(NメチルDアスパラギン酸塩)受容体は、学習や記憶に役割を果たしていると考えられており、海馬のニューロンは、特にNMDA受容体が多く、グルタミン酸は新しい記憶の形成に欠くことができないと考えられています。

以上より、グルタミン酸は「自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ アセチルコリン

アセチルコリンとは、代表的な神経伝達物質であり、運動神経の神経筋接合部、交感神経および副交感神経(この2つを合わせて「自律神経系」になりますね)の節前線維の終末、副交感神経の節後線維の終末などのシナプスで放出され、機能します。

脳内にある神経細胞のシナプス間の情報は、神経伝達物質によって伝えられ、ドーパミンやアセチルコリンなどが代表的です。

アセチルコリンは、副交感神経や運動神経に働き、血管拡張、心拍数低下、消化機能亢進、発汗などを促し、 また、学習・記憶、睡眠などに深くかかわっています。

アセチルコリンの作用を遮断する薬は、こうした働きと関わる臓器の正常な機能を乱す可能性があり、精神科薬の中のいくつかには抗コリン作用があります。

抗コリン作用には「公認心理師 2022-108」に詳しく載っていますので、こちらをご確認下さい。

以上のように、アセチルコリンは「自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質」であると言えます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ ノルアドレナリン

ノルアドレナリンは交感神経節後ニューロンの細胞内(主として軸索終末)で合成されます。

ノルアドレナリンの前駆体であるチロシンは、血中から神経細胞内に能動的に取り込まれ、ドーパを経てドーパミンに変換されます。

ドーパミンは、軸索末端部の顆粒性小胞内に取り込まれ、そこでノルアドレナリンに変換されたのち小胞内に貯蔵されます。

興奮が軸索末端に伝わると、細胞外からカルシウムイオンが流入し、その結果、ノルアドレナリンはエクソサイトーシスによって軸索末端から放出されます。

シナプス間隙を出たノルアドレナリンは、受容体に作用した後すみやかに不活性化され、①大部分は能動輸送によってシナプス前終末に再取り込みされて、伝達物質として再利用されたり、神経終末ミトコンドリア内に存在するモノアミン酸化酵素によって酸化されて、生理的に不活性な物質に変換される、②一部は平滑筋などの神経以外の組織に取り込まれ、主にカテコール‐O‐メチル基転移酵素によってメチル化されて不活性化される、③一部は循環血中に入り肝臓で代謝され、ノルアドレナリンの代謝産物は循環血中に入り、最終的には尿中に排泄される、という形で不活性化されます。

以上より、ノルアドレナリンは「自律神経の節前線維から放出される神経伝達物質」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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