中枢神経系のうち、意識水準の維持に必須の領域として、正しいものを1つ選ぶ問題です。
中枢神経系とは、脳と脊髄にあるすべてのニューロンを含み、正確には大脳・小脳・脳幹・脊髄から構成されています。
解答のポイント
中枢神経系の各部位の機能を把握していること。
選択肢の解説
『①小脳』
小脳は主として運動の協調を司ります。
損傷を受けると、運動はぎくしゃくした協調性に欠けたものになるとされています。
新しい運動反応の学習に重要な部位です。
小脳と大脳の前部との間の神経回路は、言語・計画・論理に関連しており、小脳は運動だけでなく、高次の精神機能の統御と協調にも役割を果たしていることが明らかにされています。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②前頭葉』
大脳皮質は外側溝、中心溝を目安に前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けて呼ばれています。
この中心溝に沿って前頭葉に存在するのが運動野であり、その前方には運動前野があります。
運動野は四肢の運動を直接支配する脳部位であり、運動野の特定部位を電気刺激すると特定の筋肉の収縮が起こります。
運動前野は運動の高次中枢であり、運動の円滑な遂行やプログラミングに関わっています。
運動前野のさらに前方に位置する前頭前野は高次機能の中枢とされる脳部位であり、推理、判断、計画、評価などの機能を担っているとされます。
ブローカ領域、ロボトミー手術、なども関連する用語として押さえておく必要があると思われます。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
『③大脳基底核』
大脳基底核は大脳の深部に位置する神経細胞の集団で、尾状核、レンズ核(淡蒼球、被殻)、前障、扁桃体に分類されます。
このうち尾状核と被殻は系統発生学的にも機能的にも類似しているので、まとめて新線条体と呼びます。
新線条体および淡蒼球は、大脳皮質や視床と相互にループ状の回路を形成して、筋緊張や運動の円滑さに関与します。
これらの部位が障害されると、パーキンソン病やハンチントン舞踏病のような震えや不随意運動が現れるとされます。
その他に、記憶をもとにした予測や期待に結びつくような運動(行動)に関与、前頭前野にある運動パターンの中から適切な運動の選択や、眼球運動の制御、辺縁系への制御を行っているとされています。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
『④大脳辺縁系』
大脳新皮質の内側に位置し、間脳や大脳基底核を取り囲むように存在します。
扁桃体、海馬、中隔、帯状回等から成っています。
情動脳として知られています。
脳幹、間脳、大脳皮質連合野と連絡があり、脳幹から内界情報を受け取り、大脳皮質連合野経由の外界情報と統合することで情動的評価を行います。
出力として、間脳や脳幹に信号を送り、情動行動や本能行動、それらに付随する内分泌、自律神経反応の発現を調節します。
また先述の通り、学習、記憶機能に重要な役割を果たす海馬や扁桃体を含みます。
情動調節に関しては、扁桃体は恐怖反応、海馬は不安反応に関係するとされています。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤脳幹網様体』
中神経の中で白質と灰白質が入り混じっている部分で、網目状構造をしています。
延髄、橋、中脳にかけて広く分布しています。
脳幹網様体は感覚性入力を受け取り、視床の中心部や視床腹部を経て大脳皮質の広範な投射をしており、脊髄にも連絡があります。
脳幹網様体は覚醒を制御するとされています。
ある波形の電流を流すことで眠ったり、別の波形では覚醒する等が生じます。
感覚受容器(視覚とか聴覚)はすべて網様体に通ずる神経線維を持っており、網様体はフィルターのような機能を果たしています(ある感覚情報は大脳皮質に届くように通すが、あるものは通さない)。
Moruzzi&Magounは、睡眠中の猫の脳幹網様体を電気刺激すると脳波が覚醒時と同様になり、目覚めることを発見しました。
脳幹網様体を破壊するとネコは睡眠時脳波を示し、眠りはじめます。
先述の通り、脳幹網様体は上行性伝導路からの側枝を介して感覚性入力を受け取り、視床を経て大脳皮質の広範な部位に投射をしており、マグンはこの結果から、脳幹網様体系が脳の覚醒状態を調節している部位であると考えました。
以上より、選択肢⑤が正しい内容と判断できます。