公認心理師 2022-81

感情に関する概念に関する問題です。

各感情理論に関する概要を把握していることが求められています。

問81 感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方として、最も適切なものを1つ選べ。
① 感情情報機能説
② 認知的評価理論
③ コア・アフェクト理論
④ 感情ネットワーク・モデル
⑤ ソマティック・マーカー仮説

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解答のポイント

各感情理論の概要を把握している。

選択肢の解説

④ 感情ネットワーク・モデル

人の感情状態が記憶に影響することが知られています。

状態依存記憶効果(特定的な生理状態において記憶された事柄が、再び同じ生理状態となった場合の方が、そうでない時よりも想起されやすいことを示した現象)、気分一致効果(記銘された事柄の感情価と想起する人の感情状態が対応、一致している場合の方が一致していない場合よりも記憶が優れていることを指した現象)などで示されます。

気分一致効果の特徴として、楽しい気分時にポジティブな記銘内容が想起されやすいという効果は頑強であるが、悲しい気分や不快気分時にネガティブな記銘内容が想起される効果は弱いとされています(これをポジティブ・ネガティブ・アシンメトリー(PAN現象)と呼びます)。

こうした気分一致効果がもたらされる説明機序として、Bowerが示した感情ネットワーク理論で説明されることが多いです。

認知心理学では、私たちが持っている知識はノード(結び目、という意味)と呼ばれる概念がリンクと呼ばれる経路によって連結したネットワークの形で表現されます。

ある概念が処理を受けると、それに対応するノードが活性化するが、その活性化はリンクに沿って連結している概念にも自動的に拡散していると考えられています。

それによって周囲のノードの処理効率が上がり、連想的な処理が可能になって、思考や文章の読みなどの認知活動が円滑に行えると主張されています。

Bowerは、こうした知識構造のネットワークに「怒り」「喜び」「悲しみ」などの感情のノードがあると仮定し、それらの感情を経験した過去の事例の記憶、それらの感情に伴う表出行動、自律神経反応などのノードとが連結されていると考えました。

更に、「悲しみ」「喜び」のように相反する感情価を持つ感情ノードの間には相互抑制の関係があり、一方の感情が経験されている場合には、他方の感情ノードは活性化しにくくなるように働くと仮定されています。

感情ネットワークモデルは、概念や意味記憶の説明理論として認知心理学で優勢であったネットワークモデルを感情に応用・拡張したものであり、広範な現象をシンプルに説明できるモデルとして長い影響力をもっていました。

しかし後に、このモデルでは説明できない現象も知られるようになりました。

例えば、感情一致効果は快感情のもとでは強く生じるが、不快感情のもとでは弱くしか生じないことが示されており、これは、人間は不快感情をなるべく早く回復させようとするからだと考えられています。

感情ネットワークモデルでは、こうした人間の動機づけ側面は考慮されていないので、この快・不快感情の非対称性については説明できません。

また、人間が積極的に行う意識的過程の効果を説明できないともされています。

感情ネットワークモデルとは、人間を情報処理装置として理解しようとした典型的な認知主義のモデルであり、それ故に、人間ならではの特性を説明できないという制約を持ち合わせているということです。

要するに、感情ネットワークモデルでは、喜びや怒り、悲しみなどの感情はそれに伴う自律的反応や表出行動、その感情を引き起こすできごとなどの知識とリンクしているため、ある感情が生起するとその感情とリンクしている行動や知識が活性化されると考えます。

また、喜びと怒りなどの相反する感情は抑制的なリンクが想定されているため、喜びの感情が活性化されると怒りの感情とリンクしている知識は抑制されることになります。

こうした説明は、本問の「感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方」とソマティック・マーカー仮説は異なることがわかりますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

① 感情情報機能説

選択肢④の感情ネットワークモデルは、例えば、ポジティブな気分時には評価や判断が肯定的になりやすく、ネガティブな気分時には評価や判断が否定的になりやすいという現象(気分一致判断効果)の説明に使われることもあります。

ポジティブ気分にあるときの方が、ポジティブな材料を想起しやすいので肯定的な評価が導かれるというものです。

ただ、判断への効果には、感情情報機能説によって説明することもなされています。

これは、人は評価・判断を行う際に手がかりが乏しいと、自己の感情状態を判断の基盤として用いるという考え方であり、そのために、自己の感情状態にひきつけられた方向へと判断が傾きがちであるとされています。

つまり、判断における気分一致効果は、気分に一致した知識が活性化しその活性化した知識を判断に用いるために生じるのではなく、気分そのものを判断手がかりとして用いることによって生じると考えたわけです。

こうした感情情報機能説の根拠となっている研究を述べていきましょう。

Schwartzらは天気の晴れた日と雨の日で気分が異なることを利用し、電話により生活の満足度についてのインタビューを行った結果、晴れた日にインタビューを受けた回答者は、雨の日にインタビューを受けた回答者よりも生活により満足していると回答しました。

これは気分と一致した事例を思い浮かべたことによって満足度に差が出たと考えると、感情ネットワークモデルでも説明できるものと言えます。

次にSchwartzらは同様の実験において、インタビューの最初に「今日のそちらの天気はどうですか」と回答者に尋ね、天気に注意を向けさせました。

その結果、生活の満足度は、天気に注意を向けさせなかったときと比べて天気の違いによる差は減少し、天気による影響を受けなくなりました。

これは自分の気分が天気の影響を受けていることに気づき、その影響を排除するかたちで判断を行っていると考えることができ、気分の一致によって活性化した知識を判断に用いなかったことから、感情情報機能説を指示する結果となっています。

こうした研究結果は、本問の「感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方」に合致するものと言えますね。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

② 認知的評価理論

こちらは問題の文脈から考えると「感情の認知的評価理論」になり、Deciの認知的評価理論ではないと考えることができます(Deciの認知的評価理論についてはこちら)。

さまざまな感情がいかに喚起するか、また感情の種類はどのようなものかという探求から、感情が引き起こされる状況要因に着目する研究は起こりました。

更に、環境に応じて一律に感情が生じるわけではなく、環境と主体との関係性、主体側の主観的判断や評価によって、生じる感情が決まると考える、主体側の認知を重視する一群の研究が起こり、これらを感情の認知的評価理論と呼びます。

代表的な研究者として、Frijda、Manstead、Roseman、Scherer、Smith、Ellsworth、Hoffmannらがおり、それぞれに重要と考える感情の認知的評価次元や評価チェック項目を提案しています。

環境との関係性が予測不能な新奇な事態には驚きを、他者の責任に基づく他者の統制下にあるネガティブな事態には怒りを、外的状況や他者によって生じ、統制しにくいネガティブな事態には恐怖を、自己の責任で自己に向けられた、自己が統制可能なネガティブな事態には恥が生じるなど、その感情喚起の予測に資する条件が特定されます。

こうした感情の認知的評価理論の説明は、本問の「感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方」とは異なることがわかります。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ コア・アフェクト理論

Russell&Feldman-Barrettは、快‐不快と覚醒‐鎮静の二次元で表現される神経生物学的状態を「コア・アフェクト」と呼び、これが感情現象の核心をなす実体であると主張しています。

コア・アフェクトは外界から入力される感覚情報と、内受容感覚としてもたらされる体内の情報により形成され、常に連続的に生じているが、いつも意識的に経験されるわけではありません。

人間は、コア・アフェクトを望ましい最適状態に制御するように、特定のアクションを実行するように考えられています。

ラッセルらによれば、恐怖、怒り、悲しみ、幸福などの情動は、人間がコア・アフェクトの状態に概念カテゴリーを適用して心理的に作り上げたものであり、自然界に存在する実体ではないと主張しています。

そのため、それらの情動を生得的な実体と考える基本情動説と対立し、論争が行われています。

すなわち「コア・アフェクト理論」では、コア・エフェクトという神経生理学的実体(個人に絶えず生起している快または不快の神経生化学的現象)が存在し、それはあらゆる精神現象と行動の核心要素であるとされています。

このコア・アフェクトの働きにより、感情が「幸福」なのか「悲しみ」なのか「怒り」なのか「恐怖」なのかは、知覚者がどのような状況や文脈で、どのような概念を活性させ、外界情報 (視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚など) と内界情報 (身体末梢生理反応の表象、記憶された表象、想像された表象など) を意味づけるかに依存していると考えます。

こうした説明は、本問の「感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方」とは異なることがわかります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ ソマティック・マーカー仮説

ソマティックマーカー説とは、アメリカの神経科学者ダマジオ(1994)により提唱された、身体信号(ソマティックマーカー)が脳にフィードバックされて意思決定に影響するという説です。

内臓感覚や生理的覚醒などの身体信号(情動的な身体反応)は、体性感覚皮質、島(とう)、前部帯状皮質などの脳部位で受け取られ、内受容感覚を形成します。

これが「良い」「悪い」という評価とともに腹内側前頭前皮質で表象された結果、ある対象に「近づく」「避ける」などの意思決定を導くと主張しています。

特に不確実で複雑な状況において、熟慮的・合理的な思考による意思決定が難しい時、身体信号は速やかな意思決定を可能にすることで適応に貢献するとされています。

このように、ソマティック・マーカー仮説とは「ある経験に対する快不快の感覚を記憶し、それを感情に表出させることで意思決定を効率化させている」と考えるものです。

つまり、自分が体験した過去の同じような状況下における快不快の「身体感覚」を呼び起こし、そのときの「感情」を表出させることで、優先順位をつけ、選択肢を限定させて、その中から意思決定をすることで効率化を図っていくのです(何かをするときの選択肢は膨大にあるので、その際の意思決定の効率化ということですね)。

以上を踏まえれば、本問の「感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方」とソマティック・マーカー仮説は異なることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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