こちらは動機づけに関する問題ですね。
サービス問題と言ってよい内容であると思います。
問4 高い目標を立て、それを高い水準で完遂しようとする動機として、最も適切なものを1つ選べ。
① 親和動機
② 達成動機
③ 外発的動機
④ 生理的動機
⑤ 内発的動機
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解答のポイント
各動機から特定の理論を連想でき、その理論における各動機の定義を把握している。
選択肢の解説
① 親和動機
② 達成動機
マクレランドは動機づけを主な研究テーマとし、TATを用いて達成動機、親和動機、権力動機を測定する方法を開発し、達成動機の訓練法も考案したほか、各国の経済発展をその背後にある国民の達成動機の強さの点から解明を試みました。
労働者に達成動機・親和動機・権力動機があると考えるのが、マクレランドの「欲求理論」になります。
それぞれの動機について解説していきましょう。
マクレランドは達成動機を、主に欲求論的な立場から研究を行い、達成想像の程度を、卓越した水準を競うこと、独自の達成を目指すこと、長期的な目標に関わることなどの基準から測定しました。
達成動機とは「ある優れた目標を立て、それを卓越した水準で成し遂げようとする動機」であり、マクレランドによると達成動機の高い人はより良い成績を上げたいという願望の点で、他の動機を持つ者と差があることを発見しました。
マクレランドによると、高い達成動機をもつ人は、①個人的な進歩に最大の関心があるため、何事も自分の手でやることを望み、②中程度のリスクを好み(=成功の確率が50%程度の時に最も強く動機づけられる。総達成動機づけを予測するモデルによる算出の結果)、③自分が行ったことの結果について迅速なフィードバックを欲しがる、という傾向があるとされています。
なお、マクレランドは調査の結果、3つの動機うち「達成動機」の高い人は、他と比べて業績達成意識が高いことを見出しました。
親和動機とは「他者と友好的な関係を成立させたり、それを維持したいという社会的欲求」であり、これを持つ人の特徴としては、①他者からよく見てもらいたい、好かれたいという願望が強く、②心理的な緊張状況には一人では耐えられなくなる傾向がある、とされています。
権力動機とは「他の人々に、何らかの働きかけがなければ起こらない行動をさせたいという欲求」であり、これを持つ人の特徴として、①責任を与えられることを楽しみ、②他者から働きかけられるよりも、他者をコントロール下におき影響力を行使しようとし、③競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好み、④効率的な成果よりも信望を得たり、他者に影響力を行使することにこだわる、とされています。
このようにマクレランドの欲求理論は、従業員の行動には「達成動機」「親和動機」「権力動機」のうちいずれかの動機が存在するという理論ですが、後に4番目の動機として「回避動機」が追加されました。
回避動機とは「失敗や困難な状況を回避しようという動機」であり、①失敗を恐れて適度な目標をあえて避けようとする、②批判を恐れて周囲に合わせようとする、などの特徴を有します。
マクレランドは人が行動を起こす際に見られる動機を上記の4つに分類し、程度の差はあったとしても必ずこれらの動機によって人が動かされていると主張しました。
さて、本問では「高い目標を立て、それを高い水準で完遂しようとする動機」というのは、何という動機であるか答えることが求められています。
上記のマクレランドによる各動機の定義を踏まえると、本問の説明は達成動機のことを指しているのがわかると思います。
よって、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。
③ 外発的動機
⑤ 内発的動機
動機づけのうち、賞罰などの外的要因によって行動が動機づけられることを外発的動機づけと呼び、動機づけの要因が人間の外側にあり、賞を求め、罰を避ける手段として活動がなされます。
これに対して、興味・関心や知的好奇心など、人間の内側から生じるもので活動そのものが目的となっている場合を内発的動機づけと呼びます。
1970年代以降になって、自己決定理論の提唱者であるDeciによって、外発的動機づけと内発的動機づけがどのような関係にあるか、その本質に迫る研究がなされています。
自己決定理論は、デシとライアンによって構築された内発的動機づけ研究から発展してきた理論で、人の成長と発達、ウェルビーイングを導く動機づけの在り方を説明する大きな理論的枠組みです。
認知的評価理論、有機的統合理論、因果志向性理論、基本的心理欲求理論、目標内容理論、対人関係動機づけ理論の6つのミニ理論によって構成されています。
デシらは、外的な報酬によって内発的動機づけが低下する現象を実証的に明らかにしており、これは認知的評価理論によって説明がなされています。
デシはこの理論の中で、外発的報酬が次の3つの点から自らの行動に対する認知的評価に変化をもたらし、内発的動機づけに影響を与えるという説を提唱しました。
- 自発的な行動であっても、それに外発的報酬が与えられると、その行動を統制するのは自分ではなく、外部にあるものと認知するようになり、それによって内発的動機づけが弱められる。
- 自らの行動について、外部から正のフィードバックが与えられ、有能さと自己決定の感情が高められると、それによって内発的動機づけは強化される。
- すべての外発的報酬は、「制御的側面」と「情報的側面」の2つの側面を有している。制御的側面が強ければ、外発的報酬は内発的動機づけを弱めてしまうことがある(これを「アンダーマイニング効果」という)。逆に、情報的側面が強く、有能さと自己決定感が高めることができれば、外発的報酬は内発的動機づけを強化する。
臨床実践で見ていると、確かに金銭などの外的報酬は内発的動機づけを下げることがわかります。
マラソン大会などで「〇位に入ったら課金させてあげる」と言う親が増えてきたと頭を抱えていますが、言われた子どもたちは「〇位」という目標が達成不可能となった時点で、明らかにやる気をなくすのが見て取れます。
ただ、彼らのやる気を喜ぶ(順位を喜ぶのではない)だけで良いというのに。
さて、本問は「高い目標を立て、それを高い水準で完遂しようとする動機」というのは、何という動機であるか答えることが求められています。
何となく内発的動機づけを連想させなくはありませんが、内発的動機であれば「高い目標を立てる」「高い水準で完遂しようとする」ということは要件に入っていません。
内発的動機であれば内側からの動機づけであり、外発的動機であれば外側のものによる動機づけという「分類」というニュアンスに近いと思ってください(もちろん、それに伴う理論は重要なので把握しておくようにしましょうね)。
以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。
④ 生理的動機
そもそも人が一定の目標に向かって行動を開始し、それを維持する一連の働きを動機づけと呼びます。
人の内部にあって、人の行動を引き起こすものを「欲求(need)」または「動因(drive)」と呼び、その中でも飢えや渇きによるものや、睡眠、排泄などの生理的欲求(動機)は、ある程度は誰にも共通しているものであり、人間にとって極めて基本的な欲求であるという点から「一次的欲求」とも呼ばれています。
生理的な一次的欲求が満たされると、次は別の欲求が引き起こされます。
そうした欲求は人の内部からの欲求が強くその人の行動を方向付ける場合もありますが、必ずしもそうではなく、外部からの要因によって人の行動が引き起こされることも少なくありません。
外部からその人の行動を誘発する要因を「誘因(incentive)」と呼び、これが強ければ内部の欲求がそれほど強くなくても行動は引き起こされます。
従って、動機づけは人の内部から沸き起こる動因と、人の外部にある誘因のいずれか、または両方によって引き起こされると言え、動機づけという概念はこのような行動の発現と維持に関わるさまざまな要因を含んでいます。
こうした動機づけについて、Maslowは欲求をより基底的なものから上層のものまで分類した「欲求階層説」を提唱しました。
よく見る上記のような階層型の理論になります。
人は、最も高次な欲求である自己実現に向かって絶えず成長していくという考え方を示した理論です。
基底層には生理的欲求があり、次に誰にも共通する心理社会的な基本的欲求が配置されています。
生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求は「欠乏欲求」と呼ばれ、満たされる度合いが少ないほど強くなり、満たされることによって減少し、下層の欲求が一部でも満たされることでその上位の欲求が出てくるとされています。
これらの欲求が満たされると、次は「成長欲求」と呼ばれるより高次な欲求が現れてくるとされていますが、欲求は高次なものになるほど個人的なものになり、強く現れる人がいればそうでない人もいます。
さて、本問は「高い目標を立て、それを高い水準で完遂しようとする動機」というのは、何という動機であるか答えることが求められています。
本選択肢の生理的動機は、食物の不足、水分の不足、睡眠の不足、酸素の不足、高すぎる気温、身体的苦痛などに対する動機(欲求)になり、人はまずこれらを充足・解消するために何をさておいても可能な限り必要な行動を開始します。
このように生理的動機は本問で示されている動機とは異なることがわかるはずです。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。