ここでは言語獲得における重要概念である、共同注意・認知的制約について述べていきます。
あまり説明を広げず、項目の説明程度に留めておきましょう。
共同注意
共同注意とは、子どもがほかの人と同じように物体や人物に対して注意を向けている状態を指します。
言葉を話し始める前の1歳前後から、子どもは自分の身の回りのものに対してしきりに指差しをするようになります。
多くの場合、指差しと同時に言葉に似た発声をします。
このとき一緒にいる親は子供が指差している対象に視線を向けますが、これを共同注意といい、親子の間で一つの共通した対象に注意を向けるというコミュニケーションが成立したことを示します。
ブルーナーは乳幼児の共同注意行動に2つの段階があることを示しました。
- 第1段階:
2ヶ月頃の乳児が大人と視線を合わせる行動。
この段階では、外界と関わるやり方として、大人と視線を合わせたりして関わる子ども―大人のやりとり(二項関係)と、モノと関わる子ども―モノのやりとり(二項関係)しかもっていない。 - 第2段階:
9~10ヶ月では、例えば大人が指さした対象(犬)を子どもも一緒に見るといった、外界の対象への注意を相手と共有する行動がみられるようになる。
第1段階が乳児と大人という2者間の注意共有であったのに対し(二項関係)、第2段階では、自分-対象-他者の3者間での注意のやりとりが可能になる(三項関係)。
トマセロは、9~10ヶ月頃の子どもは大人と同じ対象に注意を向けるだけだが、12ヶ月頃になると対象を指さした後、大人を振り返ってその対象を見ているかどうかを確認する行動が出現するとし、これを他者の意図を理解した行動と指摘しました。
三項関係を表す共同注意行動には、指さし、参照視、社会的参照などがあります。
- 指差し行動:見てほしいものを指差す
- 参照視:既知の物を目にした場合にも母親の方を見る
- 社会的参照:対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする
近年の研究
これまで、三項関係やその具体的現象である視線追従などは、9か月くらいから出現するとされていました。
しかし、最近になって3か月くらいから視線追従は可能であること、三項関係という状況への感受性の萌芽が3か月くらいから生じていることが明らかになっています。
詳しくは「公認心理師 2018-31」に解説があります。
新しい教科書を買わないといけないな、と最近強く感じます…。
認知的制約
こちらは認知的課題を遂行する際に、検討するべき仮説や探索すべき情報があらかじめ制限されている状態を指します。
新生児や幼児が短い時間で学習を進める際に、この制約が重要な役割を果たすと言われています。
特に言語領域ではチョムスキーの普遍文法論が有名ですね(こちらはまた別の機会に)。
その他、言語領域に関する認知的制約は以下の通りです。
- 事物全体制約:
幼児が言葉を物の部分にではなく全体に対して当てはめる傾向を指す(大人がゾウを指差すと、ゾウ全体を「ゾウ」と認識する。「ゾウ」という言葉の示す対象が、ゾウの色でも、泣き声でも、鼻でも耳でもなく、ゾウの全体であるということを理解する)。 - 分類学的制約:
幼児が言葉を特定事物に対してではなく、それと形の似たもの全般に適用する傾向を指す(路面電車を「電車」と教えると、特急電車も「電車」と呼ぶ)。 - 相互排他性の制約:
ひとつのカテゴリーにはひとつの言葉が付与されるものと考える傾向を指す。