公認心理師 2021-8

解けなかった人には耳が痛いでしょうが、この問題はぜひ解けてほしい内容です。

学習心理学の基本中の基本ですね。

問8 大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した。この過程を示す用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① 洞察学習
② モデリング
③ 嫌悪条件づけ
④ シェイピング
⑤ オペラント条件づけ

解答のポイント

古典的条件づけ、オペラント条件づけ、社会的学習など、学習心理学における基本的概念を理解している。

選択肢の解説

① 洞察学習

洞察自体は「すでに取得している行動レパートリーをそのまま適用したのでは解決ができない状況において、試行錯誤による漸進的な解決ではなく、一気に解決に至ること」を指します。

この洞察に関する研究の代表例が、ゲシュタルト心理学者のケーラーがチンパンジーを対象に行った実験です。

チンパンジーを吊るしたバナナ、箱がそこから離れた箇所においてある、という状況に置きます。

チンパンジーは、箱を動かす、箱の上に乗るなどは過去に経験があるものの、それらの経験単独では解決に至ることはできないはずでした。

しかし、チンパンジーはそれらの行動レパートリーを組み合わせることによって、天井から吊るされたバナナを獲得しました。

この行動は試行錯誤によって生じたのではなく、行動主体において問題状況の捉え方が再構造化されたことで、突然に生じたものと理解されています。

洞察は、ウォーラスによって、①準備、②あたため、③ひらめき、④検証の4つの段階から成るとされています。

この説では、洞察が「どのような順序で生じるか」が記述されていましたが、その後の情報処理アプローチでは「どのようなメカニズムで生じるか」を説明することが目指されています。

これまでの研究により、洞察が伴う問題解決時には、初期の行き詰まりがあること、その後、多くの場合はアハ体験(「わかった!」という強い感情状態)を伴う解の発見があること、などが特徴とされています。

更には、解決者自身が解決の過程を意識的に抑えることが困難であるという特徴も示されています。

これらの特徴がいかにして生じるのかを説明する理論には、進展モニタリング理論、制約緩和理論、機会論的同化理論などがあります。

これらは、通常の問題解決とは異なるプロセスが関与する立場と、通常の問題解決と共通のプロセスで説明可能とする立場に二分されていますが、両者を統合した理論も提案されてきています。

以上のように、本選択肢の内容は「大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した」という過程を説明するものとして合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② モデリング

モデリングとは、バンデューラが模倣や観察学習といった用語を統一する概念として1960年代に提唱した言葉です。

モデルを観察することによる学習や既存の行動の変容・修正など(制止や脱制止なども含む)をモデリングと呼びます。

モデリングの効果は、子どもの攻撃行動(Bandura,1961)やジェンダーの発達に関する実験で検証されました(子どもの攻撃行動に関する研究は、かなり有名なものですね)。

バンデューラの行った実験で最も有名なのが、たくさんのおもちゃの中から、大人のモデルがトラの風船に対して特に乱暴な行動をするのを見た子どもが、その後、同じ状況に置かれたときに大人のモデルと同じ行動をする率が高くなることを示した実験です。

実験では、対象の子どもたちを3つのグループに分けて実験が行われました。

  • Aグループの子どもたちには、人形に対して大人たちが攻撃的な行動をとっている映像が見せられました。その映像の中では、大人がボボ人形を叩いたり、蹴ったり、罵声を浴びさせている様子が録音されていました。
  • Bグループの子どもたちには、人形に対して大人たちが攻撃的な様子を一切見せない映像が見せられました。大人たちはこの映像の中では他のおもちゃで遊んだり、静かに過ごしていました。
  • Cグループの子どもたちには、何も映像を見せませんでした。

その後、子どもたちをそれぞれ人形を含めたおもちゃがたくさんある部屋に入れて観察したところ、Aグループの子どもたちは、BグループやCグループに比べて、人形に対して攻撃的な言動が遥かに多いことが見受けられました。

バンデューラ以前には、人間の模倣行動を模倣学習としてハルの動因低減説(つまり、報酬をもらえるから模倣が起こる)で説明されていました。

これに対して、バンデューラは上記のような実験結果を以って、模倣行動の成立に必ずしも報酬を必要とせず、直接経験も試行錯誤もないままに学習が成立するというモデリングの考え方を示しました。

上記の通り、本選択肢の内容は「大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した」という過程を説明するものとして合致しています。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 嫌悪条件づけ

まず、嫌悪的制御という言葉があり、これは古典的条件づけやオペラント条件づけにおいて、電気ショックをはじめとする嫌悪刺激を無条件刺激や供花氏として用いることによって行動変容を行うことを指します。

このうち、古典的条件づけでは、こうした手続きのことを「嫌悪条件づけ」と呼びます。

ここの解説では、古典的条件づけにおける「嫌悪条件づけ」について解説したのち、オペラント条件づけの嫌悪的制御に関しても述べていきましょう。

古典的条件づけにおける嫌悪条件づけの例としては、恐怖条件づけと味覚嫌悪学習が挙げられます。

恐怖条件づけにおいては、主に動物を対象とした場合には電気ショックが、ヒトを対象とした場合には電気ショック以外にも恐怖を喚起するイメージ画像などが無条件刺激として用いられ、条件刺激に対しては恐怖反応が獲得されることになります。

条件刺激に対して獲得された恐怖が道具的反応(オペラント)を制御する条件抑制は、恐怖条件づけの強度を測定するためにしばしば使用されます。

味覚嫌悪学習では、内臓不快感を喚起するような薬物の投与が無条件刺激として用いられることが多く、アルコールの接種によって嘔吐感を喚起するような薬物を、無条件刺激として用いるアルコール依存症の治療法などが開発されています。

オペラント条件づけにおける嫌悪性制御は、正の弱化(提示する罰)と負の強化(除去する報酬)に大別されます。

正の弱化手続きでは、生活体の行動に対して嫌悪刺激を随伴させることにより、当該行動の生起頻度の現象を狙います。

負の強化手続きでは、生活体の特定の行動によって嫌悪刺激が除去されることにより、当該行動の頻度が増加します(逃避学習や回避学習はこちらによるものと考えられますね)。

なお、臨床実践においては、嫌悪刺激を用いた行動変容には注意が必要です。

例えば、減少させたい目標行動以外の行動の生起頻度が減少したり、攻撃行動が増加したり、弁別が起こると不適切場面での問題行動の増加が見られたりすることもあります。

負の強化手続きであっても、学習性無力感の形成などが懸念されています。

そもそも狭義の行動療法は「動物としてのヒトに効果がある」といった特徴がありますが、ヒトの部分には効果があっても「人間としての部分」がその効果に様々な影響を及ぼすことがあるのです。

以上のように、本選択肢の内容は「大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した」という過程を説明するものとして合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ シェイピング

複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動をスモールステップに分けて達成が容易なものから順に形成していく方法です。

オペラント条件づけでは、対象にある反応が見られたときに報酬を与えて「強化」をしていき、条件刺激と条件反応の連合を強めていきます(スキナーの提唱したプログラム学習の基礎をなすのがシェイピングです)。

ただ、目標行動が複雑な場合、そうした行動が一度に生起されることが期待しにくくなります。

例えば、イヌに「三回まわってワン」を覚えさせたいときに、その行動が自然環境下で一度に生じることは非常に少ないわけです。

ですから、そういう時に「1回まわる」→報酬で強化→「2回まわる」→報酬で強化→…→「吠える」→強化、といった具合の手順を踏むわけですね。

このようにシェイピングでは、通常は最初に単純な反応が要求され、その反応をより複雑で洗練されたものにしていくために、強化の基準を徐々に厳しく変化させていきます。

強化の操作を重視し、行動それ自体を変化させていく過程と言えますね。

シェイピングを成功させるための留意点として、①標的行動を正確に明確化する、②すでに達成できている行動を確認し、シェイピングされるべき行動を選択する、③大きすぎず小さすぎないステップのサイズを設定する、などが挙げられます。

もちろんシェイピングは行動療法の技法の一つとして人間を対象に実施されることもあります。

わかりやすいのが不登校児への適用ですね。

家を出る→学校に近づく→校門の前まで行く→校門で担任にあいさつする→誰もいない校舎に入る…などのように細かくステップを分けていくやり方です。

なお、こうした技法を人間に適用する場合は動物と違った配慮が必要です。

個人的には、①スモールステップは当人と話し合いながら設定することが望ましいこと(不登校の場合、親の意見だけで決めない等)、②人間が対象である故に、ステップの難易度への評価に個人差がある(ある人には難しいステップが、ある人には容易。しかし、その人に抑圧などのディフェンスが働いている場合(本当は苦しいステップなのに自覚していない)もあるので留意が必要)、③人によってはステップの飛躍が生じる場合があること、④あるステップで停滞する可能性もあること(それをネガティブに捉えるのではなく、移行先のステップを「この人にとって本当に苦しいもの」と見なす機会と捉える)、⑤手前勝手にステップを設定するのではなく、そのステップを実施するのに協力してもらう「環境」の都合も加味すること(上記の例における「担任が出てくる」などは、時間によっては不可能。これは現実との折り合いをつけるという意味でも重要な視点)、などを配慮しつつ行っています。

これらを意識することで、シェイピングという単一の技法を展開する中で、多くの心理療法的意義を混ぜ込んだり、見立ての修正に役立つ情報を得る等、支援を立体的に行うことが可能となります。

一つのアプローチに一つの意味しか持たせないのは非常にもったいない話で、RPGゲームでキャラに回復魔法や援助魔法を重ね掛けするように、支援においても多くの心理療法的意義を重ねておくことが大切ですね。

以上のように、本選択肢の内容は「大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した」という過程を説明するものとして合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ オペラント条件づけ

オペラント条件づけとは、反応(Response)に刺激(Stimulus)を随伴させること(随伴性と呼びます)を通じて反応を増加または減少させるといった、変容の一連の操作を中核に据えた手続きや過程のことを指します。

「オペラント条件づけ」という名称は、レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)に対応させたスキナーによる命名ですが、その発見自体は個体を試行ごとに実験場面から隔離する離散試行型手続きで行われたソーンダイクの試行錯誤学習にさかのぼります。

この事態での操作を「道具的条件づけ」とも呼び(オペラント条件づけと同じ意味で用いられる)、実験中に個体の反応の自発機会が制約されない自由オペラント型手続きでのオペラント条件づけと区別することがあります。

なお、オペラント条件づけと古典的条件づけの大きな違いとして、オペラント条件づけは「先に反応があり、それに対して刺激を与える」という特徴があり、古典的条件づけでは「先に刺激を与えて(正確には刺激Aと刺激Bを対提示して)、反応が生じる」という点が挙げられます。

通常のオペラント条件づけでは、①随伴性の操作を行わずに当該反応の反応率をみるベースライン期、②R-S随伴性操作を行う介入期、③再び随伴性操作を行わない再ベースライン期の観察結果から、介入期のみで反応の変容が見られた場合に、オペラント条件づけの成立が確認されたということになります。

例えば、ある児童の離席を問題にする場合、ベースライン期ではある教科での離席回数を調べ、介入期ではそれを減らすようなアプローチ(座っている時間に褒めるとか)を行い、その後の再ベースライン期で再び離席が増えるようであれば、オペラント条件づけによる介入に効果があったと見なすわけですね。

こういうのをABAデザインなどと呼びますが、臨床実践では、ABABデザインとなるか(効果があったなら介入期のアプローチを再度取り入れることになるから)、新たなABAデザインを組むこと(効果がないなら、別の介入方法を考えていくことになる)になるはずです。

以上のように、本選択肢の内容は「大人の攻撃行動を観察していた幼児が、その後、同じ攻撃行動を示した」という過程を説明するものとして合致しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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