公認心理師 2024-90

知覚狭小化の問題です。

こちらは初出ですが、多くの人がイメージしやすい現象だと思います。

問90 知覚狭小化(perceptual narrowing)の例として、生後6か月児は、ヒトもサルも個体間の顔の弁別ができるものの、その後、発達の過程で、サル個体間の顔の弁別能力が衰退していくことが挙げられる。
 このことの解釈として、最も適切なものを1つ選べ。
① 生後6か月以降に、視力が低下する。
② 顔の認知処理は、高い領域固有性を示す。
③ 生後6か月児は、ヒトよりもサルの顔を選好する。
④ 顔の全体処理の傾向は、発達が進むにつれて弱まる。
⑤ 生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される。

選択肢の解説

① 生後6か月以降に、視力が低下する。
② 顔の認知処理は、高い領域固有性を示す。
③ 生後6か月児は、ヒトよりもサルの顔を選好する。
④ 顔の全体処理の傾向は、発達が進むにつれて弱まる。
⑤ 生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される。

本問はそもそも「知覚狭小化とは何か?」について問われている内容だと考えられます。

言い換えれば、「知覚狭小化という視点で示されている解釈はどれでしょう?」という問題です。

知覚狭小化とは、脳の発達過程において、「通常認識しない刺激を認識する能力」が弱まることを指します。

例えば、生後半年頃までであれば、大人の目からすると同じように見えるサルの個体の弁別や羊の個体の弁別を、人の個体の弁別と同じように顔でできます。

それが生後1年近くなると、サルや羊の顔の区別はできなくなり、人の顔だけの区別に限定化していきます。

さらには身近な顔に区別が特化する、自人種効果が生まれ、すなわち、見る経験の少ない、外国人の顔の区別が難しくなるという現象ですね。

この顔と同じような現象が言語獲得にもみられます。

生まれたばかりの赤ちゃんは、世界中のあらゆる言語を聞き取る能力を持つといわれています。

例えば、英語圏の赤ちゃんは生後半年頃まで、英語もヒンズー語も分け隔てなく、それぞれの言語に特徴的な母音や子音を聞き分けることができます。

ところが生後1年近くなると、英語圏の大人と同じように、聞き慣れないヒンズー語の聞き取り能力が失われることが明らかになっています。

同様な結果は,様々な国の言語で再現されており、日本人でいえば、日本人が不得意とするRとLを区別する能力が失われるのです。

これらの現象は「知覚狭小化」と呼ばれ、顔と言葉の認識能力は同時並行で発達すると言われています。

小さい頃の文化を越えたオールマイティな能力は、言葉と顔に共通するということです。

生まれてわずかの間、あらゆる国のあらゆる言葉や顔を見分け、聞き分けることができますが、それが生後1年という期間で、言葉も顔も、身の回りの環境に限定されてしまうのです。

この知覚狭小化という現象は、選択肢⑤にある「生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される」と解釈されています。

感覚的には「音声や顔をちゃんと認識できた方が良い」と思えるかもしれませんが、一方で、人間にとってそれよりも自身の環境に適応することの方が重要です。

生まれたときの能力は浅く広いものであり、例えば、言語を獲得するにあたっては、広く何となく聞き取れることよりも「自身の使う言葉をきっちりしっかりと聞き分けること」の方が重要です。

そのため、母国語の聞き取りの感受性を上げ、結果として、使う必要のない言語の聞き取りの感受性を捨てることになるのです。

知覚狭小化現象は顔と言語の認知で特に見られますが、これらは脳の別の場所で処理されているはずなので連動性は薄そうに感じます。

ただ、共通点としてはこれらが「コミュニケーションで重点的な役割を果たす」という点で一致しており、顔と言語環境という自分が属するコミュニティの一員としてコミュニケーションを取るために顔と言葉はともに学習されるのでしょう。

動物園の職員が担当している動物を見分けられる、英語を学ぶ中でLRを聞き分けられるようになるということも事実としてありますが、これが「衰退した能力の再活性化」なのか、それとも新たに「そういう能力を発現させているのか」は非専門家の私には何とも言えないところです(調べたらこの辺の解釈が出てきそうですけどね)。

いずれにせよ、本問の「生後6か月児は、ヒトもサルも個体間の顔の弁別ができるものの、その後、発達の過程で、サル個体間の顔の弁別能力が衰退していく」という知覚狭小化の説明として、選択肢⑤の「生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される」というのが適切ですね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

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