時間知覚に関する問題です。
自分の身に置き換えて考えやすい問題でしたから、知らなくても解ける系ですね。
問7 時間知覚について、正しいものを1つ選べ。
① 恐怖感情を伴う体験では、時間は短く感じられやすい。
② 時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど、時間は短く感じられやすい。
③ 小さな視覚刺激の呈示時間は、大きな刺激の呈示時間よりも長く感じられやすい。
④ 同じ時間の長さでも、その間に起こる出来事の数が多いほど、時間は短く感じられやすい。
⑤ 2つの刺激を続けて呈示するとき、空間距離が離れているほど、それらの間の時間は長く感じられやすい。
解答のポイント
時間知覚に影響を与える要因を把握している。
選択肢の解説
① 恐怖感情を伴う体験では、時間は短く感じられやすい。
② 時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど、時間は短く感じられやすい。
③ 小さな視覚刺激の呈示時間は、大きな刺激の呈示時間よりも長く感じられやすい。
④ 同じ時間の長さでも、その間に起こる出来事の数が多いほど、時間は短く感じられやすい。
⑤ 2つの刺激を続けて呈示するとき、空間距離が離れているほど、それらの間の時間は長く感じられやすい。
本問は時間の知覚の中でも「時間の長さに関する知覚に影響を与える要因」に関する問題となっています。
感じられる時間の長さはさまざまな要因によって変動します。
これらの要因は、何らかの単独の共通原理を通して感じられる時間を決定しているのではなく、それぞれの要因が個別に時間の長さの知覚に影響を及ぼすと考えられています。
以下に、時間知覚に影響を与える要因を挙げていきます(上記の書籍から引用しています)。
- 実際に経過した時間の長さ:
多くある要因のうち、まず重要なのは経過した物理的時間である。他の要因が一定である場合、実際に経過した時間が長いほどより長い時間が体験される。また、1秒程度までの時間に対する知覚と、十数秒程度までの時間に対する知覚、分単位以上の長さの時間に対する判断、時間、日、月、年といったより長い時間の単位に関する時間評価はそれぞれ特性が異なるため、異なる過程が基礎にあると考えられる。 - 身体の代謝:
身体の代謝は時間評価に大きな影響を及ぼすことが知られている。この特性は、身体内のどこかにあると考えられている内的時計と感じられる時間との関係によって説明されることが多い。単一の内的時計が時間感覚一般を決定しているという考え方は、最近の研究ではあまり支持されていない。しかしながら、内的時計は、代謝と感じられる時間の長さとの関係を理解する上で、仮説構成体としては有用である。
内的時計も身体的過程の一部であるため、身体の代謝が亢進しているときは通常より速く進行すると考えられる。逆に身体の代謝が低下しているときは内的時計の進行もゆっくりになると考えられる。したがって、代謝が亢進していれば、実際の時計で計測される時間の長さよりも、感じられる時間の方が長くなり、時間がゆっくり過ぎるように感じられる。他方、代謝が落ちていれば、実際の時計で計測される時間よりも感じられる時間の方が短くなり、時間が思ったよりも速く経過するように感じられる。
病気などで発熱した場合、身体の代謝は平熱時より激しくなる。このとき、内的時計は実際の時計よりも速く進行し、普段より時間がゆっくり進むように感じられる。例えば、Hoaglandは、インフルエンザに罹った自分の妻に時間評価をさせ、体温が36.1度から39.5度まで上昇した際に、主観的に1分間と感じられる時間の長さが52秒から37.5秒まで短縮されたことを見出した。また、カフェインのような興奮剤を服用したときは感じられる時間は通常より長くなる。 - 感情状態:
感情状態によって体験される時間の長さへの効果に関しては、強い恐怖が時間を過大に評価させることが知られている。例えば、クモ恐怖症の人と、クモに対して特に恐怖を感じない人に、クモと一緒の部屋で過ごした時間の長さを評価させた場合、クモ恐怖症の人は時間を長く感じる傾向がある。また、バンジージャンプで約31メートルの高さから落下する時間は実際よりも36%過大評価された。なお、この際、観察者に手首に付けたディスプレイに校則で明滅する文字を提示し、文字が読み取られる時間的解像度について調べたところ、知覚的処理速度の向上は認められなかった。この結果から、落下中の時間が過大評価されたのは、知覚的情報処理が速められたことによるのではなく、強い恐怖を感じた期間が長い時間として記憶されたことによると結論された。 - 他の知覚様相における刺激:
視覚や聴覚における刺激量も時間の長さの知覚に影響を及ぼす。視覚や聴覚における刺激によって時間の長さの知覚が影響を受けるということは、複数の知覚様相の間の交互作用と考えることができるだろう。
例えば、より大きな視覚刺激が提示された時間は小さな刺激が提示された時間よりも長く感じられる(Thomas&Cantor,1975)。明るさや数字の示す量が大きいほど、その提示時間が長く感じられる(Xuan et al,2007)。また、音刺激の提示頻度が高いほど、その間の時間の長さが長く感じられる(Matsuda,1989)。つまり、視覚でも聴覚でも、刺激量が大きいほど、それが提示された時間は長く評価されやすい。大きさの錯視であるエビングハウス錯視を用いた実験では、刺激の物理的量は一定でも、知覚される大きさに対応して刺激の提示時間が伸長して知覚されることが見出されている。この結果は、刺激の物理量ではなく知覚量の方が、刺激提示時間の長さの知覚に影響することを示唆している。
また、動画像の運動速度が速いほど、その画像観察の間に感じられる時間が長く感じられる。この現象はランダムドットのような人工的画像においても認められるが、自然画像を用いた場合により顕著になる。動画像の変動の時間周波数が高くなると感じられる時間が長くなることは、この現象が、以下に述べる多くの出来事が起こった時間の方が長く感じられるという現象と共通の規則性に基づいて生じている可能性を示唆している。 - 認識されるイベントの数:
同じ時間の長さであっても、その間に認識されるイベントの数が多い時間の方が長く感じられる。この現象は「充実時程錯覚」と呼ばれる。
同じ音声刺激や映像刺激であっても、それらを個々バラバラなものとして知覚した場合と、ひとまとまりのものとして知覚した場合とでは、後者の方が時間を短く感じる。例えば、同じ文字数の単語を同じ時間の長さで音声提示した場合でも、ただバラバラの語を次々と提示した場合よりは、話の流れが理解できるような順序で提示した場合の方が時間が短く感じる。 - 新奇な刺激:
同じ刺激が繰り返し呈示された場合、刺激の新奇性によって時間の感じ方が異なる。例えば、特定の刺激が最初に出たときよりも、2度目に出たときの方が提示時間が短く感じられる。また、同じ刺激が何度も繰り返し呈示された後で異なる刺激が提示された際には、物理的な時間は同じであっても、新規の刺激はより長く提示されたように感じられる。異なる刺激が連続して提示された場合でも、予期と異なる刺激が提示された場合ほど提示時間が長く感じられる。 - 認知的課題:
作業の難易度もその間の時間の長さの感じ方に影響を及ぼす。計算やカード分類などの認知的課題を行う際、その課題が難しいほど時間が短く感じられる。これらの結果は、処理に要する負荷に対応した知覚される時間の長さの変動を想定する仮説とも一致する。 - 注意:
時間経過に対して向けられる注意も時間の長さの知覚に影響を及ぼす。つまり、時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど時間が長く感じられる。
注意には容量的制限があって、同時にはいくつもの対象や課題に取り組むことができないと考えられている。注意を引き付ける対象が何もない場合、あるいは、注意を必要としない作業に取り組む場合、時間の経過に自然に注意が向けられやすい。他方、目の前に強く注意を引き付けられる対象がある場合や注意を向ける必要がある課題に取り組む場合には、時間経過に対して注意を向ける頻度が減る。そのため、注意が時間経過以外のことに向けられやすい場合、時間が速く経過するように感じられる。
これらを踏まえ、各選択肢と対応させて見ていきましょう。
上記の「感情状態」に関する記述は、選択肢①の「恐怖感情を伴う体験では、時間は短く感じられやすい」を説明することになりますね。
実際には時間は長く感じられることになりますから、選択肢①の内容は適切ではないということになります。
選択肢③の「小さな視覚刺激の呈示時間は、大きな刺激の呈示時間よりも長く感じられやすい」というのは、上記の「他の知覚様相における刺激」にもあるように、実際には「視覚でも聴覚でも、刺激量が大きいほど、それが提示された時間は長く評価されやすい」ということになりますから、選択肢③の内容は適切ではないことがわかります。
選択肢④の「同じ時間の長さでも、その間に起こる出来事の数が多いほど、時間は短く感じられやすい」については、上記の「認識されるイベントの数」に対応したものになっております。
認識されるイベントの数が多いほど、時間は長く感じられるということですから、選択肢④の内容は適切ではないということになります。
選択肢②の「時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど、時間は短く感じられやすい」については、上記の「注意」にあるように、実際には「時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど時間が長く感じられる」ということになりますから、選択肢②の内容は適切ではないということになります。
最後の選択肢⑤の「2つの刺激を続けて呈示するとき、空間距離が離れているほど、それらの間の時間は長く感じられやすい」について考えていきましょう。
継時的に呈示される刺激の空間的距離が、知覚された時程の長さに影響を及ぼす現象を「カッパ効果」と呼びます(S効果とも呼ぶ)。
カッパ効果が観察される最も単純な条件は、直線上にある3点(それぞれS1、S2、S3とする)を同じ刺激間時間間隔で端から順番に点滅させるときに、点間の距離が長い場合に、短い場合よりも時間的に長く感じられるというものです。
カッパ効果を説明する有力な仮説は「等速運動仮説」で、この仮説は継時刺激を一つの物体の等速運動ととらえたときの予測時間と、時程の長さの重みづけ平均として時間知覚が生じるとする仮説です。
重力方向の影響がカッパ効果に影響されることも報告されており、等速運動に限らず外的な事象の知覚が時間知覚に影響すると考えられます。
さらに、刺激間の空間的距離の知覚が時程の長さと正の相関があることを示す「タウ効果」も報告されています。
このように、選択肢⑤の「2つの刺激を続けて呈示するとき、空間距離が離れているほど、それらの間の時間は長く感じられやすい」はカッパ効果と呼ばれているもので、適切な内容であることがわかります。
以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。