説明に合致する学習方略を選択する問題です。
まさに「知らなくても解ける系」の問題ですね。
問29 学習者が、自分が理解している状態を把握し、それに基づいて自分の学習行動を調整する学習方略として、適切なものを1つ選べ。
① 精緻化方略
② 体制化方略
③ メタ認知方略
④ 深い処理の方略
⑤ 外的リソース方略
解答のポイント
各学習方略について把握している。
選択肢の解説
③ メタ認知方略
こちらは学習方略に関する問題ですね。
学習方略とは、「学習の効果を高めることを目指して意図的に行う心的操作あるいは行動であり、学習を促進する効果的な学習法、勉強法を用いるための計画、工夫、方法」を指します。
学習方略は大きく「コントロール方略」と「認知的方略」に区分されることがあります。
コントロール方略とは、学習の調整やコントロールに関わる方略であり、メタ認知方略と動機づけ調整方略が含まれます。
メタ認知方略とは、自身の認知活動をモニターし、コントロールする役割を果たす方略です。
自分の思考や行動を客観的に把握し認識すること(メタ認知)を通じて、自己調整によって学習の効率化を図る方略であり、以下のような方略があります。
- プランニング方略:課題を分析し、目標を自ら設定して、目標達成に向けた計画を立てる方略。
- モニタリング方略:自分で設定した目標や計画が予定通りに進行しているかどうかを定期的に確かめながら、目標達成に向かって学習を進めていく方略。
- 自己調整方略:必要に応じて自分で設定した計画や方略を修正したりしながら、目標達成に向かって学習を進めていく方略。
また、動機づけ方略とは、自身の動機づけを調整する方略で、具体的には、学習環境を調整することでやる気を高める「環境統制方略」、自身の経験と結び付けたりゲームのように考えたりすることでやる気を高める「興味高揚方略」などが含まれます。
こうした「メタ認知方略」と「動機づけ調整方略」は、努力の増加や学習の持続を促進することで、間接的に学業成績に影響すると考えられます。
なお、冒頭で述べた認知的方略には、選択肢①の精緻化方略、選択肢②の体制化方略、内容を繰り返して覚えるリハーサル方略などが含まれます。
上記の通り、メタ認知方略は「自分が理解している状態を把握し、それに基づいて自分の学習行動を調整する学習方略」に合致することがわかりますね。
よって、選択肢③が適切と判断できます。
① 精緻化方略
記銘すべき情報に対して、何らかの情報を追加し、豊富にすることを「精緻化」と呼び、効果的な符号化(入力された感覚刺激を意味に変換し、記憶表象として貯蔵するまでの一連の情報処理過程のこと。記憶の基本的過程の一つであり、情報を取り込んで記憶情報として保持されるまでの「憶える」過程のこと)の一種です。
要するに、覚えたい内容に別の情報を加えることで、語呂合わせなどもこちらに含まれます。
精緻化の有効性を規定する要因の一つは、記銘情報に付加される情報の量であり、例えば、記銘語を2回提示する際に、それぞれ異なる単語(同義語や反義語)と対呈示した方が、2回とも同じ単語と対呈示するよりも思い出しやすいとされています。
ただし、どのような場合でも付加される情報量を増やせば精緻化の有効性が高まるというわけではなく、付加される情報が記銘情報と意味的関連性があるかどうかなどの情報の質も別要因として精緻化の有効性に影響します。
また、精緻化によって付加される情報にはある記銘項目と他の記銘項目との弁別のしやすさを高めるような「項目特定情報」と、記銘項目の相互のまとまりに関する「関係情報」があります。
なお、自己に関連した情報が記憶にとって有効であることも示されています。
上記の通り、精緻化方略は「自分が理解している状態を把握し、それに基づいて自分の学習行動を調整する学習方略」ではないことがわかりますね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 体制化方略
「体制化」という用語は知覚領域でも用いられていますが、本問では記憶領域における体制化について述べていきましょう。
人間の記憶においては、関連する情報同士がまとまりを成して蓄積されていると考えられており、これを記憶の体制化と呼びます。
すなわち、私たちが何かを覚えるときに、関連する情報をまとめ、整理して覚えるやり方を記憶の体制化方略と呼びます。
例えば、4つのカテゴリーから複数の単語を選び出し、実験参加者にそれらをランダムに提示して覚えるよう教示した場合(例:ライオン、ミカン、弁護士、トラック、リンゴ、教師、キリン…)、実験参加者が単語を思い出して報告する際には、同じカテゴリーのもの(例:ミカンとリンゴ)を連続して報告する傾向にあります。
これは「カテゴリー群化」と呼ばれ、同じカテゴリーのものが記憶の中で体制化されたことを示しています。
こうした特徴を加味した方略が「体制化方略」であり、類似したものをまとめて覚えたり、項目間の関連性を見出しながら勉強することで記憶成績が向上するということです。
上記の通り、体制化方略は「自分が理解している状態を把握し、それに基づいて自分の学習行動を調整する学習方略」ではないことがわかりますね。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
④ 深い処理の方略
認知方略は、浅い処理の学習方略と深い処理の学習方略の2つに分けることができます。
同じことを学習するのであっても、その学習方法は実は多様に存在し、テキストに書かれている内容を繰り返し読んで、または、重要語句をひたすら書いて覚えるという人がいます(歴史であれば年号や出来事を丸暗記するというやり方)。
一方で、もちろんある程度の繰り返しはするけれども、一つひとつの重要語句をバラバラに覚えるのではなく、すでに知っている語句と関連づけて覚えるとか、意味を理解するという学習方法をとる人もいます(歴史なら、出来事と出来事のつながりや各出来事の背景を考えて理解するいうやり方)。
前者のような単純な反復作業を中心とした学習方法は、心理学において「浅い処理の学習方略」と呼ばれ、それに対して後者のように既有知識と関連づけたり、意味を理解したりすることに重点を置いた学習は「深い処理の学習方略」と呼ばれています。
一般に、深い処理の学習方略をとる学習者の方が、浅い処理の学習方略をとる学習者よりも、高い学習成績を修めることが示されています。
つまり、本選択肢の内容は、選択肢①や選択肢②などの方略は「深い処理の学習方略」に分類され、リハーサルのようなやり方は「浅い処理の学習方略」になるということですね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ 外的リソース方略
外的リソース方略とは、その名の通り、自分の周りの物や人を学習に利用する勉強法になります。
頭の外にある物・人を活用するので「外的リソース」という表現を用いるわけですね。
他者の協力や資料、参考書などを活用する学習方略が、外的リソース方略に該当することになります。
こうした論文なども参照にしておくと良いでしょう。
以上より、外的リソース方略は「自分が理解している状態を把握し、それに基づいて自分の学習行動を調整する学習方略」ではないことがわかりますね。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。