問題解決に関する内容になっています。
過去問と重なるところがあるので正答を導くのは難しくありませんが、解説するとなると結構大変でした。
特に選択肢②が何のことを言っているのかわかりにくく、一応解説しましたが明確に「そうじゃなくて、これだよ」とわかる方がいればお知らせください。
問8 ヒューリスティックスの説明として、適切なものを1つ選べ。
① いくつかの具体的事象から一般的、普遍的な法則性を結論として導く手続のことである。
② 外的な事象をもとに内的なモデルを構成し、その操作により事柄を理解する手続のことである。
③ 一連の手順を正しく適用すれば、必ず正しい結果が得られることが保証されている手続のことである。
④ 現在の状態と目標とする状態を比較し、その差異を最小化するような手段を選択していく手続のことである。
⑤ しばしば経験から導かれ、必ずしも正しい結果に至ることは保証されていないが、適用が簡便な手続のことである。
関連する過去問
解答のポイント
問題解決に関する思考や方略に関する理解がある。
選択肢の解説
① いくつかの具体的事象から一般的、普遍的な法則性を結論として導く手続のことである。
こちらは帰納的推論に関する記述であると考えられます。
帰納的推論とは、前提となる命題からもっともらしい命題を結論として導く推論のことで、演繹的推論と対比的に紹介されることが多いです。
ただし、機能的推論には、演繹的推論における論理性のような明確な基準が帰納的推論には無いため、その定義は必ずしも明確ではありませんが、一般に機能的推論とは「個別事例(事実)から一般的法則を導くこと」「観察した事実や事象に基づいて、それらの事実や事象を生じさせている原因や法則性を推理すること」であると捉えてよいでしょう。
例えば、あるお店で「AとBという商品の値段が安かった」という既知の事実から「すべての商品が安い」という一般的法則を推測するタイプの推論のことです。
帰納的推論と対をなす思考として「演繹的推論」があるのは上述の通りですが、こちらは「ある主張や仮説が正しいことを前提としたときに、その前提から論理的に正しい結論を導き出す際の推論」と定義できます。
例えば、数学の定理の証明や三段論法などが演繹的推論の代表であり、「あらゆる物質は温度が上がると体積が増える」という仮説から「金属も熱すれば体積が増える」という結論を導き出す際の推論がそれです。
仮説を検証する際には、こうした演繹的推論と帰納的推論の両方が必要となってきます。
すなわち、仮説検証の思考においては「水や空気は温度が上がると体積が増える」という実験結果から「あらゆる物質は温度が上がると体積が増える」という仮説を帰納的推論によって導き出し、更にその仮説から「金属も熱すれば体積が増えるはずだ」という仮説を演繹的推論によって導き出しているわけです。
なお、演繹による結論は正しいが、本質的に知識を増やすことはありません。
それに対して、帰納的推論による結論は意味情報を増やし、ある種の発見を含むことになります。
それ故に、帰納的推論は誤ることもありますが、概念形成、言語獲得、仮説形成、問題解決、因果推論など、新しい知識獲得には不可欠の認知機構であると言えます。
なお、こうした帰納的推論における仮説検証の思考を阻害する要因として、以下が挙げられています。
- 素朴理論:身の回りの事象の観察を通して自然に獲得する知識体系が素朴理論であり、これが科学的理論と矛盾する場合、統合が困難になる。
- 確証バイアス:自分が立てた仮説を「反証する」よりも「確証する」ことの方を好む傾向のことであり、様々な仮説検証の場面で生起する、かなり強固な心理傾向である。天動説を人類が長く信じ続けてきたのは、確証バイアスによって「惑星の逆行」のような反証事例を不当に無視し続けてきたためである。
これらによって仮説検証が阻害されることが多いとされていますね。
以上より、「いくつかの具体的事象から一般的、普遍的な法則性を結論として導く手続のことである」という本選択肢の内容は帰納的推論のことを指していると言えます。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 外的な事象をもとに内的なモデルを構成し、その操作により事柄を理解する手続のことである。
こちらは問題解決方略の一つである「問題の表象化」のことを指していると考えられます(たぶん…)。
問題が解けるか否かは、目標を分割する方略(選択肢④で示された方略のことを指しています)にのみ依存するのではなく、その問題をいかに表象するかにも依存しています。
例えば、「AさんはBさんよりも速く走るが、Cさんよりも遅い。この3人の中では誰が一番走るのが遅いか」という単純な問題を考える際、イメージ的な表象を構成して問題を解く場合には以下のような一本の直線上に3人の速度を位置付けることになります。
このようにすれば、イメージから解答を直接「読み取る」ことができます。
もちろん、こうした問題に対しては、命題的な表象を構成する(つまり「Bさん」を主語、「Aさんよりも遅い」を述語として命題を構成し、次いで主語を入れ替えて命題を構成するなどして結論を導く)ことを好む人もいれば、視覚的な表象を構成することを好む人も確実に存在します。
このように「問題の表象化」とは、与えられた問題中の情報を有機的に組織化し、それがどのような状況について述べているのかを心の中に表したもので、この問題表象ができあがった後に、探索やプランなどを用いた問題解決が行われることになります。
これらより、本選択肢の内容は、与えられた問題(=外的な事象)について表象(=内的なモデル、その状況のモデル)を構成し、それを操作することによって問題解決を行う「問題の表象化」のことを示していると考えられます。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 一連の手順を正しく適用すれば、必ず正しい結果が得られることが保証されている手続のことである。
⑤ しばしば経験から導かれ、必ずしも正しい結果に至ることは保証されていないが、適用が簡便な手続のことである。
人間の「思考」とは、記憶情報を操作し、新しい心的表象を形成する過程(断片的な知識を組み合わせて、意味をもったまとまりを形成する過程)ですが、思考の代表的な機能に「問題解決」があります。
人間が問題解決のために用いる方略は「アルゴリズム」と「ヒューリスティックス」に大別できます。
アルゴリズムとは、問題解決のための一連の規則的な手続きのことであり、正しく適用されれば必ず正解に到達することができる方略で、具体的には平方根を求めるための手続きがそれです。
しかし、「お金持ちになるためにはどうすればよいか?」のような不良定義問題にはアルゴリズムは存在せず、また、良定義問題であっても解決までが複雑な問題には、人間には現実にはアルゴリズムを実行できません。
アルゴリズムは、人間の熟慮的かつ規範的な思考に相当しますが、このような思考は十分な認知容量を使用することによって可能になります。
これに対してヒューリスティックスとは、必ず正解に到達できるという保証はないが、合理的なヒューリスティックスであれば、通常はアルゴリズムを用いるよりも迅速に正解に到達することができます。
また、アルゴリズムと比較して、認知容量を節約できるというのがヒューリスティックスの特徴とも言えます。
Tversky&Kahnemanは、不確実状況下で行う判断には、以下の3種類のヒューリスティックスがあると指摘しています。
- 代表性ヒューリスティックス:ある対象AがBという集合に属する確率を判断する時に、Aがどの程度Bを代表するものと似ているかどうかを手掛かりとする方略。ある人(A)は、風貌や振る舞いがあなたの芸術家ステレオタイプにぴったりなので、芸術家(B)に違いないと判断する。
- 利用可能性ヒューリスティックス:ある集合の大きさやある事象の頻度や確率がどの程度であるかを判断する時に、想起できる(=利用可能性が高い)集合の事例数や事象の回数を手掛かりにする方略。例えば、飛行機事故は大きくされるので利用可能性が高くなり、その頻度が列車事故よりも高いといった誤った判断が導かれる。
- 係留と調整のヒューリスティックス:基準となる係留点を定めて、そこから調整を行うことによって最終的な推測値を求める方法。ある人の貯蓄額を判断するのに、自分の預金残高を基準にして行う。
このような方法を用いて、私たちは努力して頭を絞って合理的に考えるだけでなく(つまり、アルゴリズムを使うだけではなく)、認知資源を節約するために心理的ショートカットを行い、複雑な過程をより扱いやすい単純なものへと変換している(つまり、ヒューリスティックスを用いている)わけです。
以上より、選択肢③の「一連の手順を正しく適用すれば、必ず正しい結果が得られることが保証されている手続」はアルゴリズムであり、選択肢⑤の「しばしば経験から導かれ、必ずしも正しい結果に至ることは保証されていないが、適用が簡便な手続」はヒューリスティックスのことを指していると言えます。
よって、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。
④ 現在の状態と目標とする状態を比較し、その差異を最小化するような手段を選択していく手続のことである。
こちらはヒューリスティックスの一つである「手段‐目標分析」あるいは「下位目標分析」のことを述べています。
Newell&Simonは、問題解決の構成要素には、①初期状態:問題の当初の条件、②目標状態:問題が解決された時点の条件、③中間状態:初期状態から目標状態に至る道筋に存在する様々な状態、④オペレータ:問題解決に向けて採用可能な手段、の4つがあるとしています。
彼らが提案したのが「手段‐目標分析」というヒューリスティックスであり、初期状態と目標状態の差異を小さくすることを目指し、目標状態に到達できるように複数の下位目標を設定します。
「手段‐目標分析」や「下位目標分析」は、人間が日常世界での問題解決のために用いる代表的なヒューリスティックスであり、例えば、麻雀で満貫(麻雀は1役が1000点、2役が2000点、3役が3900点とほぼ倍々で点数が上がっていき、8000点に到達すると「満貫」と称する。ちなみに12000点が跳満、16000点が倍満、24000点が三倍満、32000点が四倍満(役満)となります)での上がりを狙っている場合、「上がりの状態」すなわち目標状態にできるだけ早く近づくように、必要な牌を残し不要な牌を捨てることになります。
この時に用いているヒューリスティックスが「手段‐目標分析」です(あくまでもヒューリスティックスなので、当然間違えることも多い。なぜこんなに間違えるのか、確率論で言えば絶対に正しいのにと思うほど、間違えます)。
また、麻雀で満貫のような点の高い役を目指さず、安い上がりでも良いと目標を立てるなら、とりあえず「テンパイ(上がりの一歩手前の状態)」に近づけようという目標を立てるわけですが、これが「下位目標分析」の例となります。
このように「現在の状態と目標とする状態を比較し、その差異を最小化するような手段を選択していく手続」とは、手段‐目標分析や下位目標分析であると言えます。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
①の解説で帰納的とするべきところ機能的と表記されていると思われる箇所が複数見られます。
丁寧な解説をして頂き勉強になります。
先生の動画で勉強し、意味記憶でなくエピソード記憶になりました。有難うございます。
何とか合格できるのではと皮算用しておりますが、公認心理師となっても学びは終わりませんので、先生のサイトにはまだお世話になります。
よろしくお願いいたします。