公認心理師 2019-81

問81は運動視と関連のある現象を選択する問題です。
公認心理師資格試験ではほぼ初出ですけど、マガーク効果は比較的耳にすることがあったり、変化の見落としは一時期テレビで放送されていたり、マッハバンドは過去問にかすっているなど、実は解く手だてが少なからずある問題です(マガークなんて聞かないし、テレビも観ない!という人もいるかもしれませんけど)。

問81 運動視に関連した現象として、正しいものを1つ選べ。
①McGurk効果
②マッハバンド
③変化の見落とし
④McCollough効果
⑤フラッシュラグ効果

外界で動いている物体の運動方向や速さを知覚する視覚機能を「運動視」と呼びます
動物が獲物を捕らえたり、天敵から逃げたりするときには、その形状の解析のみならず動きの解析も重要になります。
人間が混雑した街中を歩くとき、他の人にぶつからないようにするためには、他の人の動きを解析し、将来どう動くかを予測しておくことが必要です。
このように、運動視は多くの動物にとって本質的で重要な視覚機能と言えます。

上記の運動視の定義を把握しておくことが前提となっている問題ですね。

解答のポイント

「運動視」の意味を理解している。
各現象について把握している。

選択肢の解説

①McGurk効果

マガーク効果は、音韻知覚に関する聴覚的な手がかりと視覚的な手がかりとを、食い違ったものにして同時に呈示すると、2種類の手がかりが引っ張り合うような知覚が生じる現象を指します
例えば、「/ba/」と発音した音を聴覚刺激として与え、「/ga/」と発音した顔の動きを視覚刺激として与えると、多くの場合、音声としては「/ba/」と「/ga/」の間に位置づけられる「/da/」と聞かれます。
この場合、その人は、手がかりの一部を目で見たとは感じず、耳に「/da/」が聴こえたと感じます。

以上より、こちらの現象は運動視とは異なることがわかります。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②マッハバンド

こちらは「マッハの帯」とも呼ばれ、マッハが発見した明るさの対比現象の一種です。
明るい領域と暗い領域の区別の知覚をコントラストの知覚と呼び、明暗の相違が実際よりも強調されるという傾向があります。
この対比効果は、コントラスト知覚が生じる境界部分においてより顕著に表れることが知られており、これをマッハ現象と呼びます

輝度勾配領域が暗い均一領域と接しているところでは暗い線が知覚され、明るい均一領域と接しているところでは明るい線が知覚されます。

マッハは、この現象を視覚が光刺激分布の二次微分に規定されていると考え、神経活動のモデルとして、網膜上の各刺激点の近傍の拮抗作用に基づいて説明できるとしました。
Hartline&Ratliffらは、カブトガニの一個の個眼からの視神経インパルスを記録し、側抑制の事実を見出し、マッハの仮説と符合することを示しました
側抑制は、一つの個眼を光刺激すると、刺激された個眼の視神経繊維にインパルスが発生すると同時に、隣接する個眼の視神経繊維には興奮が起こりにくいように抑制がかかる現象を指します。
マッハバンドは、神経系の側抑制によって説明されることが多いです

このようにマッハバンドは運動視とは異なることがわかります。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。

ちなみにコントラストの知覚については2018追加-7で一度出題されております。
このときに「マッハの帯」についても解説に入れ込もうかとちらっと思ったのですけど、止めた記憶があります。
入れておけば良かったなぁ…。

③変化の見落とし

視覚的注意の研究では、注意の向けられない対象や空間的領域がどのような処理を受けるのかという問題が注目されました。
このうち、注意の向けられていない空間的領域では、予期しない視覚刺激の出現(非注意による見落とし現象)や、客観的には顕著な変化(変化の見落とし現象)にも、気づくことができない場合があることが明らかにされています

変化の見落とし現象とは、実際には視覚的に十分認知可能と思われる物理的変化を被験者に与えているにも関わらず、それを検出できない、もしくは被験者自身が驚くほど遂行成績が悪くなる現象のことを指します
以下の動画がその例となります。

この実験において視線追跡装置で調べた結果、全員がゴリラを見ていた、つまり視野にとらえていたことが明らかにされています。
しかし、それを「見た」と認識したのは50%程度に留まるという結果が示されております。

人間は、自分の視野の中で大きな変化(この動画の場合はゴリラが横切った)が起きたとしても、別の部分(白い服のグループのパスの回数)に注意が向いていれば、簡単にそれを見落としてしまうということです。

このように変化の見落とし現象は「客観的には顕著な変化を見落とす」という現象ですから、「外界で動いている物体の運動方向や速さを知覚する視覚機能」である運動視とは異なることがわかります
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④McCollough効果

マッカロー効果はマッカローによって発見された残効の一種で、方向随伴性色残効とも呼ばれます。
例えば、互いに方向の異なる緑の縞々と赤の縞々を交互に数秒ずつ凝視し、数分間順応すると、白黒の縞々が方向によって順応時の補色に薄く色づいて見える現象です

つまり、こちらをしばらく交互に見た後に…

こちらを見るわけです。

赤と緑の縞模様を見た後では、縦縞は薄っすらと赤味を帯び、横縞は薄っすらと緑がかって見えます。
黄と青の縞模様を見た後では、縦縞は薄っすらと黄色味を帯び、横縞は薄っすらと青味がかって見えます。

これは大脳皮質の赤(または黄)の横縞、緑(または青)の縦縞に反応する細胞の応答性が減少したことによるものと考えられます。
この現象は強い光(例えばカメラのフラッシュ)を見た後に生じる残光の現象とは異なります。
残光の場合は、視線の向きを変えると残光の位置が動きますが、マッカローではそのような印象はありません

すなわち、こうした強い光による残光は網膜で起きているのに対して、マッカロー効果はなんらかの理由で脳で起きていると考えられています
なぜこのような現象が起こるのかについては、実はまだ解明されておりません(いろいろな仮説はあるようですけど)。
ちなみに、残光はせいぜい数分の現象ですが、マッカローは持続時間も長く、順応の数日後でも、条件によっては数か月後でも観察されます。
この点からも、「網膜」と「脳」という起きている箇所の違いをうかがい知ることができますね。

このようにマッカロー効果は「運動視」とは異なることがわかります。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤フラッシュラグ効果

運動する光点の真下の位置で別の光点を一瞬点灯すると、実際には二つの光点が垂直位置にあるにもかかわらず、運動する光点が運動方向に若干ずれた位置に知覚される現象を指します
網膜に刺激が与えられてから知覚が成立するまでに約100mm秒の遅れがあるために起こる錯覚です。

この錯覚がサッカーのオフサイド判定の誤審を引き起こしていることも指摘されているとのことです。
ゴールに向かって走っている攻撃側の選手と静止した守備側の選手とが、実際には並んで位置に居たとしても審判は攻撃側の選手が守備側の選手よりもゴール寄り、つまりオフサイドの位置にいるように見えてしまうのです。
錯視によるこのような誤審は知覚処理の時間的制約に基づくものですから、知識や経験を得ることによって錯視がなくなるということはありません。


以上より、フラッシュラグ効果が「外界で動いている物体の運動方向や速さを知覚する視覚機能」である運動視と関係がある現象と言えます
よって、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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