問8はプライミングに関する問題です。
プライミング効果については2018追加-136の冒頭で詳しく説明してあります。
過去問を見てもプライミング効果はよく出題されているので、細やかに把握しておきましょう。
問8 プライミングについて、正しいものを1つ選べ。
①間接プライミングは、主にエピソード記憶研究で用いられる。
②直接プライミングは、先行情報と後続情報の間に意味的関連性が強い場合に生じる。
③プライミングは、絵などの画像刺激では生じず、単語などの言語刺激のみで生じる。
④プライミングには、先行情報が後続情報の処理を促進するだけでなく、抑制する場合もある。
⑤プライミングは、先行情報が閾下呈示された場合は生じず、閾上呈示された場合のみで生じる。
ここで一度過去問で関連があるものをまとめておきましょう。
- 2018-84の選択肢⑤:非宣言的記憶の一つとしてプライミングがあると理解していることが大切。
- 2018追加-10の選択肢①:対比効果と併せてプライミング効果も把握しておきたい。
- 2018追加-24の選択肢④:非宣言的記憶としてのプライミングを把握していること。
- 2018追加-136:プライミング効果の実験計画について問うている。プライミング効果のことを知っていることを前提とした問題。
この他にも、記憶の分類のところでプライミングを知っておいた方がよいだろうという箇所が多く見受けられますので、しっかりと押さえておくことが重要になります。
これだけ出題されているということは「プライミング効果の定義ぐらいはしっかりと把握しておきなさいよ」というメッセージだと思っておくと良いでしょう。
解答のポイント
認知心理学領域におけるプライミング現象について理解していること。
選択肢の解説
①間接プライミングは、主にエピソード記憶研究で用いられる。
③プライミングは、絵などの画像刺激では生じず、単語などの言語刺激のみで生じる。
⑤プライミングは、先行情報が閾下呈示された場合は生じず、閾上呈示された場合のみで生じる。
記憶の分類の一つである「長期記憶」ですが、これは宣言的記憶(顕在記憶)と非宣言的記憶(潜在記憶)に分けることができます。
そして各記憶の下位分類は以下の通りです。
- 宣言的記憶:意味記憶・エピソード記憶
- 非宣言的記憶:技の記憶・プライミング・古典的条件づけ
「宣言」とは、言葉で宣(のたまう:言うの尊敬語)ですから、宣言的記憶は「言葉で言うことができる記憶」ということですね。
非宣言的記憶は、言葉というよりも体に染みついている記憶というイメージで、意識をしていなくても発動されるため「潜在記憶」と表現されます。
プライミング刺激ですが、プライム刺激を全く意識できないほど短時間にしか提示しなくても、プライミング効果が見られることが明らかにされており(例えばFowler,
Wolford,Slade&Tassinary:1981)、無意識の情報処理過程を示唆する重要な知見となっています。
これは潜在記憶が、その人の情報処理過程に影響を与えているということを示しておりますが、これを調べるための課題が「プライミング課題」と呼ばれています。
かつてから、プライミングという現象は潜在記憶研究の方法として重宝されています。
このプライミングの潜在記憶課題としては以下のようなものが挙げられます。
- 知覚的プライミング:
単語同定課題:プライム(単語)を提示後、その単語を瞬間的に提示して同定を求める。
単語完成課題:上記の「れいぞうこ」の例。
語彙決定課題:プライム語を呈示後、再びその語を呈示して、それが語で歩かないかを決定する。 - 非言語的プライミング:
部分絵画命名課題:プライム(絵)を呈示して、その後、完全でない絵を呈示してそれを命名する。 - 概念的プライミング:
語連想課題:プライム語(例えば象)を呈示後、「牙-?」の対を呈示し、牙から何が連想されるか問う。
カテゴリー事例生成課題:プライム語(例えば犬)を呈示後、「動物-?」のように、動物の例として何があるか答える。
これらからもわかるとおり、プライミングは語彙だけでなく絵などの刺激でも生じることが示されています。
以上より、選択肢①、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断できます。
②直接プライミングは、先行情報と後続情報の間に意味的関連性が強い場合に生じる。
プライミング効果とは、先行する刺激(プライム刺激)の処理によって、後続刺激(ターゲット刺激)の処理が促進または抑制される効果と定義されます。
難しく書いてありますが、要は10回ゲーム(「ひじ」を10回言わせて「ひざ」を指差して、これは何?と問うやつ)が成立するための仕組みといえばわかりやすいでしょうか。
プライミング効果には「直接的効果」と「間接的効果」があります。
「直接的効果」では、プライム刺激とターゲット刺激が同じ刺激であり、これが繰り返されることで起こるプライミング効果のことを指します。
これを見るのに最もポピュラーなのが単語完成課題です。
例えば、「れいぞうこ」というプライム刺激が呈示された後に、「○い○う○」というターゲット刺激が呈示されれば正答率が向上、反応時間が速くなるなどの結果が得られ、そのことによってプライミング効果が同定されます。
重要なのは、上記の単語完成課題を遂行している際には、プライム刺激として提示されている単語を意識的には想起していないということです。
つまり、潜在的な想起過程において起こっている現象であることは留意しておくことが大切です。
一方、「間接的効果」とはプライム刺激とターゲット刺激とが異なる場合に起きるプライミング効果です。
こちらの検証に最もポピュラーなのが、語彙判断課題となります。
「間接的効果」は、通常は意味レベル(意味的プライミング効果)で観察されることが知られています。
語彙判断課題では、プライム刺激として「将棋」が呈示された際に、ターゲット刺激として「囲碁」が呈示された場合には、「解剖」が呈示された場合と比較して、ターゲットの語彙判断に要する時間が有意に速くなる、などによってプライミング効果が評価されます。
プライム刺激とターゲット刺激に意味的関連があると、その判断が速くなる、つまりプライム刺激によってターゲット刺激の語彙判断に影響をもたらしたということですね。
「間接的効果」においても「直接的効果」と同様、にターゲット刺激に対する想起意識は潜在的であることが重要です。
④プライミングには、先行情報が後続情報の処理を促進するだけでなく、抑制する場合もある。
先述の通り、プライミング効果とは、先行刺激が後続刺激の処理に影響を及ぼすことを指します。
促進的効果だけでなく抑制的効果も見出されております。
ただし、この促進的効果だけを指してプライミング効果と呼ぶ場合もあり、そのときに抑制的効果についてはネガティブ・プライミングなどと称します。
プライミング効果は印象形成などの社会心理学の分野でも使われている用語なので、その辺の用語とごっちゃにしてしまわないことが大切です。
あくまでもプライミングという現象で見たとき、本選択肢にある「先行情報が後続情報の処理を促進するだけでなく、抑制する場合もある」という表現は適切なものであると判断できます。
よって、選択肢④が正しいと判断できます。