公認心理師 2018追加-118

記憶について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

まだ2回しか行われていない公認心理師試験ですが、記憶については数多く出題されています。
過去問については、公認心理師2018追加-24(記憶全般問題)、公認心理師2018-84(長期記憶に関する問題)、公認心理師2018-6(記憶の系列位置効果)、公認心理師2018追加-50(記憶と加齢について)などがあります。
これ以外にも記憶に関連する事例や脳生理学を含めれば、多くの出題があることがわかります。
試験1回あたり2~3問出ていることになっていますから、ブループリントに示されている通りかそれ以上に出題されています。
しっかりと押さえておきたい領域ですね。

本問では、記憶に関しての中心的な事柄から周辺的な事柄まで問うている印象です。
一つひとつ確認していきましょう。

解答のポイント

記憶の種類(感覚記憶、ワーキングメモリ、短期記憶、長期記憶)とその細分類を把握していること。
記憶の代表的研究を押さえていること。

選択肢の解説

『①H.Ebbinghausの忘却曲線では学習後6日目で最も急激に忘却が進む』

「心理学の過去は長いが歴史は短い」という言葉を残したエビングハウスです。
心理学史上最初の実験的記憶研究は彼によって行われました。

彼が用いた実験法は無意味綴りの系列学習法です。
イギリスの連想心理学では、連想が生じるのはある観念と観念が連合しているからであり、この連合が2つの観念が時間的・空間的に接近して生起して形成されると考えます。

連合が形成される過程を分析するためには、学習項目間に最初から連合関係があってはならないので、無意味綴りと呼ばれる独自の記憶材料を考案したわけです。
※この「無意味綴り」という言葉も、エビングハウスに関連する用語として覚えておきましょう。

エビングハウスは、1系列13個から成る無意味綴りのリストを覚え、ある一定の時間経過後にどのくらい思い出せるかを自分自身を被験者として測定しました。
その結果、20分後には58%、1時間後には44%、1日後には26%、31日後には21%の保持率を示しました
※「自分自身を被験者として測定した」という点については、臨床心理士資格試験で出題されています。

ちなみに、この保持率は「節約率」と呼ばれ、エビングハウスが考案したものです
この節約率を測る節約法は、再生法、再認法と並ぶ代表的な記憶の測定法です。
一度学習させた内容を、一定時間経過した後に再び学習させて、どの程度早く学習できるかをテストする方法です。
式は以下の通りです。
節約率=(原学習に要した回数や時間-再学習に要した回数や時間)÷原学習に要した回数や時間×100

上記のエビングハウスの実験の結果、節約率は学習後1日で急速に減少するが、それ以降の忘却はそれほど急ではなく、いわゆる負の加速度曲線を示すことがわかっています
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②Tip-of-Tongue〈TOT〉はメタ記憶のモニタリング機能を示す現象である』

自分自身のさまざまな認知活動について人が有している知識は「メ夕認知」と呼ばれ、そのうちの学習と記憶についてのメ夕認知は「メ夕記憶」と呼ばれます。
メタ記憶には、学習および記憶にっいての宣言的な知識、メ夕記憶判断(あるいは記憶モニタリング)、記憶の自己効力、記憶関連感情などが含まれると考えられています。

上記のメタ記憶判断(モニタリン グ)とは、あることに関する自分の記憶の状態に対する意識や主観的な評価のことです
メタ記憶における記憶状態のモニタリングとしては、のどまで出かかる現象(Tip-of-Tongue:TOT)があります
これは、人名や作品名などを想起しようとしたときに、記憶にあるという強い既知感(feeling of knowing:FOK)があり、今少しのところで思い出せそうなのに出てこないという状態を指します。
通常、記憶検索は高速になされますが、TOT現象では検索のスピードは遅くなります。

上記のとおり、TOT現象はメタ記憶のモニタリング機能を示していることがわかります。
よって、選択肢②は正しいと判断できます。

『③自転車の乗り方や泳ぎ方など自動的な行動を可能にする記憶を感覚記憶という』

長期記憶は「宣言的記憶」と「手続き的記憶(潜在記憶)」に分類されます。
前者は言葉として確認できるため、意味記憶とエピソード記憶に細分類されます。
後者はその記憶の有無が意識されないもので、技の記憶、プライミング、古典的条件づけに細分類されます。

技の記憶は、例えば自転車の乗り方のような、身体で覚えた記憶のことを指します
選択肢の「自転車の乗り方や泳ぎ方など自動的な行動を可能にする記憶」というのは、典型的な技の記憶であり、手続き的記憶の一つと言えるでしょう

それに対して、感覚記憶とは、アトキンソン&シフリンのマルチストア・モデルで示されています。
このモデルは、短期記憶と長期記憶に分けることから、二重貯蔵モデルとも呼ばれます。

このモデルによれば、外界からの情報はまず感覚記憶に取り込まれ、次に短期記憶、更に長期記憶へと転送されます
感覚記憶は感覚器官から情報を正確に短時間保存する大容量のバッファ・メモリであり、視覚情報はアイコニック・メモリ(約1秒のみ)に、聴覚情報はエコーイック・メモリ(約2秒のみ)に貯蔵されます

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④A.D.Baddeleyによるワーキングメモリのモデルで、視空間的な情報の記憶に関係するのは音韻ループである』

バッデリーは短期記憶を、単なる入れ物ではなく、推論、学習、理解といった人間の認知的活動において決定的な役割を果たす記憶であるとし、短期記憶という言葉の代わりに仕事をする記憶、すなわちワーキングメモリという言葉を用いました。
更に、ワーキングメモリは、性質の異なるサブシステムから構成されると考えられており、言語的短期記憶 (音韻ループ)、視空間的短期記憶 (視空間スケッチパッド)、中央実行系の3つのコンポーネントから構成されるシステムとして捉えられています
下図のようなイメージです。

言語的短期記憶は音声で表現される情報 (数,単語,文章など) を保持し、視空間的短期記憶は視空間情報 (イメージ、絵、位置情報など)を保持します。
そして中央実行系は、注意の制御や、処理資源の配分といった高次の認知活動を司ります。
言語的短期記憶と中央実行系の機能を合わせて言語性ワーキングメモリと呼び、視空間的短期記憶と中央実行系の機能を合わせて視空間性ワーキングメモリと呼びます。

以上より、視空間的な情報の記憶に関係するのは音韻ループではなく視空間スケッチパッドです
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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