公認心理師 2023-97

地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語を選択する問題です。

コミュニティ心理学の問題になっていますね。

問97 地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語として、適切なものを1つ選べ。
① 危機介入
② ジョイニング
③ エンパワメント
④ リフレーミング
⑤ コンサルテーション

解答のポイント

コミュニティ心理学の基本概念を把握している。

選択肢の解説

① 危機介入
⑤ コンサルテーション

これらの選択肢はコミュニティ心理学に特有な介入方法とその背景に関する内容となっています。

以下では、コミュニティ心理学の視点から解説していきましょう。

Caplanは、危機状態を「人生上の重要課題に遭遇して当人がこれまで用いてきた対処方略では克服できない場合に一次的に生じる情動の混乱と動揺を来たす状態」と規定して、これは病気ではないという考え方に立って、この事態を援助する、つまり「危機介入」を行うべきであるとしました。

こうした定義から、危機という概念自体が医学モデルではなく、危機介入も伝統的な心理療法とは異なり人格構造の変革や自己成長を目指すものではなく、この一時的な事態を元に戻す、危機状態以前の状態に回復させるというのが目標になり、当人が持っている内的な対処資源と外的な援助資源を活用するという形の短期の介入法を採用します。

上記が「危機介入」の概要になりますが、これらの内容から本問の「地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語」には合致しないことがわかります。

コミュニティ心理学に特有の介入方法の一つとして「コンサルテーション」があります。

心理学において「コンサルテーション」という用語はさまざまな意味で用いられていますが、ここではCaplanが「予防精神医学(1964)」の中で規定している狭義を採用していきます。

Caplanによれば、コンサルテーションとは、コンサルタントとコンサルティという2名の専門家間で行われる相互活動です。

コンサルテーションの特徴としては以下の通りです。

  1. コンサルタントとコンサルティは平等な関係:SVでは上下関係がある
  2. コンサルタントは助言の段階に留まり、その助言をどのように活用するかはコンサルティ次第となる。すなわち、事例の状態への管理的責任を負うのはあくまでもコンサルティとなる:SVではバイザーが負うこともある(これは現在ではかなり限定的ではあり、基本としてSVでバイザーが責任を負うことはない。この点については公認心理師 2019-121でも述べています)
  3. コンサルテーションの時間や回数は、一般にその度毎に頼まれてという形態が多く、何回か継続する場合もその期間が決まっているのが普通:SVはそこまで明確ではない

コンサルタントはコンサルティが効果的に働きかけることができるよう、専門的立場からアドバイスして援助するという形を取ります(だから、常にコンサルテーションは「間接的援助」になるわけです)。

どのようなタイプのコンサルテーションであっても、コンサルタントはコンサルティ(コンサルテーションを受ける人)の所属する組織の部外者であり、コンサルテーション活動はコンサルティの所属する現場に出向いて行われるのが一般的です。

また、何かしらの問題についてコンサルタントがコンサルティが所属する現場に出向くわけですから、当然、コンサルティには「何とかしたい懸念事項」があり、そこへのアドバイスなどがなされることになる場合が多くなります(つまり、課題中心になりやすい)。

ただし、コンサルテーションの目的は、コンサルティの担当しているクライエントの改善に限るわけではなく、コンサルティ自身が抱えている問題点の克服、ときにはコンサルティが企画しているプログラムの改善という場合もあり一様ではないことも知っておきましょう。

このようなコンサルテーションの説明は、本問の「地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語」に合致することがわかります。

以上より、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

② ジョイニング

こちらは家族療法で用いられる技法で、主にミニューチンをはじめとした構造的家族療法学派において活用されていました。

ジョイニングは「参加」「仲間入り」という意味で、セラピストが家族の文化に溶け込んでいくための技法とされています。

ジョイニングは大きく以下の3つに分かれます。

  1. 伴走:コミュニケーションの流れにセラピストがついていくこと。相槌をうつことや、話が促進されるように促すこと等を指します。
    ※「安全な会話」とは、解釈したり話の落としどころを聞き手が決めずに、「その会話が長続きするよう努める」ことによって生じます。
  2. 調節:セラピストの言葉遣いや行動などを家族の交流の中に適応させること。
  3. 模倣:セラピストが、家族の言語的非言語的側面を観察し、言葉遣い、比喩的な表現、感情の表現、仕草などを、意識的無意識的に模倣することを指します。話し方やテンポを合わせるなどです。

このようにジョイニングとは、家族の文化に溶け込むためのセラピストのアプローチと言えます。

よって、本問の「地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語」には合致しないことがわかります。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ エンパワメント

権威や法的な権限の付与が原義であり、差別や抑圧を受けた人々が本来持つ力を取り戻し、環境に働きかけ、生活をコントロールできるようになる過程を「エンパワメント」といいます。

障害者、女性、高齢者、先住民などは、差別される集団に属することで受けた否定的評価を自ら内面化し、パワーレスな(無力化された)状態になりやすいが、当事者自らが主体として問題解決に参加することによって力をつける(セルフ・エンパワメント)という当事者の視点から捉えることもできます。

20世紀を代表するブラジルの教育思想家であるパウロ・フレイレの提唱により社会学的な意味で用いられるようになり、ラテンアメリカを始めとした世界の先住民運動や女性運動、あるいは広義の市民運動などの場面で用いられ、実践されるようになった概念です。

「エンパワメント」という概念の特徴は、自己効力感や自尊感情を高める心理的側面に加え、社会的・経済的側面も含んでいるということにあります。

個人、集団、コミュニティなど多様なレベルで用いられている、健康教育やコミュニティ心理学においても重要概念の1つと言えます。

単なる個人や集団の自立を意味する概念ではなく、人間の潜在能力の発揮を可能にするよう平等で公平な社会を実現しようとするところに価値を見出す点にこの概念の特徴があります。

概念の基礎を築いたジョン・フリードマンはエンパワーメントを育む資源として、生活空間、余暇時間、知識と技能、適正な情報、社会組織、社会ネットワーク、労働と生計を立てるための手段、資金を挙げ、それぞれの要素は独立しながらも相互依存関係にあるとしています。

これらを踏まえれば、エンパワメントは本問の「地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語」に合致しないことがわかります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ リフレーミング

こちらも選択肢②同様、もともとは家族療法の概念になります。

リフレーミングは、セラピストの介入で変化を引き起こすことに焦点を絞った戦略的アプローチで積極的に活用されている技法であり、家族メンバーの行動や、家族に起きた出来事、関係性などの「事実」は変えずに、その文脈や意味づけを変化させる方法です。

「物事の捉え方を変え、別の枠組みで捉え直すこと」を目的に行われるので、ネガティブな考えや短所・欠点として見えていることも、物事の捉え方を変えて考えることで長所や利点として捉えられるという方法になります。

この技法を使う立場として気をつけねばならないのが、Aという考え方をBという考え方に「変える」ことが目的ではないということです。

あくまでも、誰もが潜在的に持っている能力を使って、意図的に自分や相手の生き方を健全なものにし、ポジティブなものにしていくことを目標に行われるものですから、Aという元々の考え方も否定せず、同時にBやCといった別の考えも視野に入るようにするための技法をリフレーミングと言います。

下坂幸三先生は「洞察とは視野が広がることを指す」とおっしゃっておられますが、それは上記のような意味だと思われます。

以上のことより、リフレーミングは本問の「地域支援における課題中心の間接的支援を表す用語」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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