公認心理師 2021-113

心理的アセスメントにおけるインフォームド・コンセントに関する問題です。

わざわざ「インフォームドコンセント」という言葉を使わなくても、心理アセスメントというものの仕組みを理解し、それを踏まえた対応を取れることが重要になります。

問113 心理的アセスメントにおけるインフォームド・コンセントの説明として、不適切なものを1つ選べ。
① 被検査者が幼い場合には、保護者に情報提供をする。
② 検査をいつでも途中でやめることができることを伝える。
③ 検査がどのように心理的支援に活用されるかについて説明する。
④ 心理的支援に否定的な影響が想定される場合、検査の性質の一部を伏せて実施する。
⑤ 被検査者に説明する際には、被検査者が理解できるような言葉にかみ砕いて情報を伝える。

解答のポイント

心理アセスメントで生じるクライエント側の負担やそれを踏まえた対応を理解している。

選択肢の解説

① 被検査者が幼い場合には、保護者に情報提供をする。
⑤ 被検査者に説明する際には、被検査者が理解できるような言葉にかみ砕いて情報を伝える。

本問はインフォームドコンセントの問題ですから、心理アセスメントを実施する前に説明と同意を得るときの話になりますね。

まず選択肢①の「被検査者が幼い場合には、保護者に情報提供をする」の是非について考えてみましょう。

こちらについては「医の倫理」から引用してみましょう。


診療における患者や、医学研究(治験を含む)における対象者(被験者)が、未成年者である場合、本人に、当該診療や研究について判断する能力があるかどうかが問題になる。本人が必要とする検査や治療など、本人のために行われる診療行為の場合には、本人に判断能力がなければ、親権者(親権者がいない場合には、未成年後見人)に対して説明し、親権者から同意を得ることで当該行為を行うことができる。また、本人に判断能力が認められる場合には、本人に対する説明、本人からの同意で、当該行為を行うことができる(そのような場合でも、本人と親権者の意見が対立しているような例外的な場合でない限り、親権者にも説明し、了解を得ておくことが望ましい)。


重要なのは「本人の判断能力の有無」であり、被検査者が幼い場合はこの判断能力が低い可能性も考慮し、保護者に伝えることが適切と言えるわけです。

では、何歳から下には保護者に情報提供し、何歳以上なら保護者への説明は不要なのかについては線引きが難しい話だろうと思います。

18歳というのは一つの線引きでしょうけど、20歳前後であっても学生の場合には「成人しているから」と十把一絡げにはできないだろうと思います。

その事例の特性や検査を実施する機関の規定等を踏まえて総合的に考えていく話でしょうね。

もちろん、被検査者が幼いからと言って、保護者に情報提供を行って終わりというわけではありません。

本人の判断能力の有無の背景には、その幼さゆえに「説明が理解できない」という事情も絡んでくるでしょう。

ですが、検査を受けるのは被検査者ですから、本人に対してきちんと説明を行うことが大切です。

その際、選択肢⑤のように「被検査者に説明する際には、被検査者が理解できるような言葉にかみ砕いて情報を伝える」ことが大切になってきます。

このことは別に被検査者が幼いか否かに限らない話で、被検査者の理解力等を考慮して本質を損なわない程度に言い換えたり、例を出して説明するなどの努力を事前に行うことが求められます。

以上のように、被検査者が幼い場合には保護者に情報提供するのは適切な対応ですし、一方で、被検査者の年齢や能力に難しさがあっても、理解ができるような言葉や表現を使って同意を得る努力をすることが大切になります。

よって、選択肢①および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

② 検査をいつでも途中でやめることができることを伝える。
③ 検査がどのように心理的支援に活用されるかについて説明する。

選択肢③の「検査がどのように心理的支援に活用されるかについて説明する」というのは、インフォームドコンセントの中核になる説明だろうと思います。

なぜこのようなことをわざわざ述べなければならないのか、それは「心理アセスメントは被検査者に負担をかける行為」だからです。

クライエントに「何かしらの刺激」を与えて、その刺激に対する反応を分析・検証して、クライエントの何かしらの特徴を見出すのが、どの心理検査にも共通した特徴と言えます。

もちろん、その検査行為自体に心理療法的メッセージを込めることは可能ではありますが、やはり第一義的にはクライエントの何かしらの特徴を見出すというのが心理アセスメントの役割であると言えます。

アセスメントの際にクライエントに与える刺激によって、クライエントの感じる負担は様々です。

例えば、投影法のロールシャッハテストであれば、クライエントにかかる負担は大きいとされており、自我の弱いクライエントの場合には適用可否の判断が求められます。

文字による刺激であったとしてもMMPIほどの量になると、集中力や体力的な問題があるクライエントだとかなりの負担になると言えるでしょう。

このように、自我や身体にそれなりに負担を与えるのが心理検査の基本的な手続きになりますから、それを実施する際に「検査がどのように心理的支援に活用されるかについて説明する」ことなしに行われることはあってはなりません。

機械的な言い方をすれば、「クライエントに与える負担」よりも「得られた情報に基づく心理支援を行うことでクライエントが得る利益」が大きければ良いわけですから、そのクライエントが得る利益についてきちんと伝えるということになるでしょうね。

仮に、上記のようなクライエントの利益を伝え、クライエントが心理検査の実施に同意したとしても、やはり「検査自体、クライエントに負担をかけるという事実は変わらない」と理解しておくことが重要です。

そして、その検査が未経験の場合、多くのクライエントにとって「心理検査に伴う自身への負担」を、事前に理解することは困難です。

ですから、検査の途中であっても「しんどくなったら中断する権利」をきちんと保証しておくことも重要になります。

この手続きは、その検査について「知っている者(検査者)」と「知らない者(被検査者)」との関係を水平に保つ工夫であり、検査者側のマナーであり倫理です。

人と人との関係では、どうしても「情報が多い側」が強者になりやすく、その関係は「自身の問題を自身のものとして捉えられるようにしていく」ことが大切な心理療法的アプローチにおいて、長い目で見ればマイナス(クライエントが「弱者」の側に置かれ続けることによる不利益、ですね)に働いてしまいます。

いずれにせよ、「途中で止める権利」をクライエントに保証することは、インフォームドコンセントにおいて重要である以上に、心理療法の展開においても欠かせない手続きであると言えます。

以上より、クライエントに対して心理検査がどのように心理支援に活用されるかを伝えること、それに同意したとしても途中で検査を止める権利をクライエントが有すると伝えることは、インフォームドコンセントにおいて重要であると言えます。

よって、選択肢②および選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ 心理的支援に否定的な影響が想定される場合、検査の性質の一部を伏せて実施する。

こちらは前述の「心理検査はクライエントに負担を与える」ということが代表的な事態と言えるでしょう。

その負担が大きい場合、「心理的支援に否定的な影響」が一時的とはいえ生じる可能性があります。

もちろん「心理検査をすることによる不利益<心理検査をすることによってクライエントにもたらされる利益」であると見立てられるときに心理検査は実施するものですから、長期的に見て「心理的支援に否定的な影響が想定される場合」にはそもそも心理検査自体を実施しないのが一般的です。

ですが、長期的に見ればプラスでも、短期的に見ればマイナスということは確かにあり得ますから、その際には「検査の性質の一部を伏せて実施する」のではなく、そのマイナスをもたらしかねない「検査の性質を伝えた上で実施する」ことが重要になってきます。

ちょっと難しいのが「マイナスをもたらしかねない検査の性質」というのは、事前に伝えてはいけないもの(伝えてしまっては検査にならなくなってしまう)も含まれていますから、やや曖昧な形での伝え方(一時的ですが心身に負担がかかって苦しくなる人もいます、など)にならざるを得ないということですね。

なお、本選択肢の「検査の性質の一部を伏せて実施する」というのは、クライエントにとっては検査場面でいきなり「心理的支援に否定的な影響が想定されるような刺激」に直面するということになります。

これを一般に「不意打ち」と呼ぶのですが、心理支援において「不意打ち」はしてはいけません。

例えば、不登校児の家に担任が家庭訪問に行くときの相談をSCとして受けたとき、「行く曜日や時間をあらかじめ伝えておきましょう」と助言することが多いです。

こうすることで、担任が不登校児と会える可能性は下がりますが、もし「本来、会えなかったのに会えた」のであれば、そこには不登校児が負担を強いられていることを意味しますし、そうした関わりは長続きせず、担任に対する信頼は減ることはあっても増えはしないでしょう(会ったらそこから関係性が構築できるという主張はあるでしょうが、それは博打で偶々良い目が出ただけですし、心理支援で博打のような「どちらに転ぶかわからないこと」はすべきではありません)。

つまり、「不意打ち」というのは短期的には何かしら「支援者側」に利益をもたらすことはありますが、長期的にはクライエントの不信を強める恐れがあり、心理支援過程全体で見れば不利益の方が大きいと私は思います。

以上のように、心理アセスメントを行う上では「心理的支援に否定的な影響が想定される場合」があり得ますが、そういう時には「検査の性質の一部を伏せて実施する」のではなく「その性質を伝えて同意を取る」ことが重要になってきます。

よって、選択肢④が不適切と判断でき、除外することになります。

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