公認心理師 2020-35

専門職連携に関する問題です。 

公認心理師は一芸に秀でるよりも、汎用性の高い(≒色んなことができる)ことが求められています。

そうした「いろんなことができる」中でも、特に重視されているのが多職種連携の力ですね。

問35 専門職連携を行う際の実践能力として、不適切なものを1つ選べ。

① 自分の職種の思考、行為、感情及び価値観について省みることができる。

② 他の職種の思考、行為、感情及び価値観について理解することができる。

③ 他の職種との関係の構築、維持及び成長を支援及び調整することができる。

④ 他の職種の役割を理解し、自分の職種としての役割を全うすることができる。

⑤ 患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる。

解答のポイント

日本の多職種コンピテンシーについて理解していること。

選択肢の解説

① 自分の職種の思考、行為、感情及び価値観について省みることができる。
② 他の職種の思考、行為、感情及び価値観について理解することができる。
③ 他の職種との関係の構築、維持及び成長を支援及び調整することができる。
④ 他の職種の役割を理解し、自分の職種としての役割を全うすることができる。

さまざまな要因が絡み合った状態に対するアプローチには、医学的知識だけでなく、心理・社会の状況がどのように身体の問題に関わっているかを保健医療福祉専門職や非専門職で協働して探索する必要があります。

つまり、多職種連携(inter-professional work:IPW)が必須となり、これらのケアの質の向上には多職種連携教育(Inter-professional education: IPE)が欠かせず、それを効率よく行っていくために一定のプログラムが重要となります。

IPWの教育プログラムの開発には、保健医療福祉領域の教育の潮流となるコンピテンシー基盤型教育の考え方が援用されています。

コンピテンシー(Competency)とは、専門職業人がある状況で専門職業人として業務を行う能力であり、そこには知識や技術の統合に加えて倫理感や態度も求められます。

これは、もって生まれた能力ではなく、学習により修得し、第三者が測定可能な能力とされています。

こうしたコンピテンシーは専門職活動に密接に関連し、さらに個々のコンピテンシー同士は関連しあっており、その中でも、特に多職種連携コンピテンシーは、他者との関係とのなかで発揮されるため、態度やモラル、感情および意思も要求されます。

なお、コンピテンシーは地域や文化によって異なるので、日本の文化に即した多職種コンピテンシーを理解しておくことが重要です。

日本では代表的な保健医療福祉の連携に関するコンピテンシーとして「文部科学省 成長分野などにおける中核的専門人材養成の戦略的推進事業 医療・保健・福祉の現場を支える『多職種連携力』を持つ人材育成プログラム開発事業」の一環で開発された多職種連携コンピテンシーがあります。

このコンピテンシーは他国の多職種連携コンピテンシーと同様、専門職の連携協働を円滑に進めるための能力の中でも、特に「協働的能力」として各専門職単独で学べる能力ではなく、複数の職種との連携協働を通じてはじめて学べる能力に焦点が当たっています。

また、複数の専門職種間に共通した理念をもとに、連携協働するために必要な協働的能力としての連携コンピテンシーを複数の専門職種間で明らかにすることで、養成教育から生涯教育に至るまでの専門職連携教育をすすめる道標となることを期待しています。

この多職種コンピテンシーは、文献レビュー、幅広い意見収集、専門家によるプロトタイプづくり、パブリックコメント、合意形成・最終合議の5つのStageを経て開発されました。

開発された多職種連携コンピテンシーは2つのコア・ドメインとコア・ドメインを支える4つのドメインからなっています(以下の通りです)。

コア・ドメイン

  1. 患者・利用者・家族・コミュニティ中心
    保健医療福祉の専門職は、それぞれの専門性を活かした視点を持っているがゆえに、各専門職が独立して掲げる目標設定が異なる可能性があります。
    だからこそ「患者・利用者・家族・コミュニティ中心に重要な関心事/課題に焦点を当て、共通の目標を設定することができる」ことが連携の目的であり、欠くことができない要素になり、多職種連携コンピテンシーの中心に位置づけられています。
  2. 職種間コミュニケーション
    職種間コミュニケーションは、職種背景が異なることに配慮し、互いに、互いについて、互いから職種としての役割・知識・意見・価値観を伝え合うことができる能力を指します。

コア・ドメインを支え合う4つのドメイン

  1. 職種としての役割を全うする
    互いの役割を理解し、互いの知識・技術を活かし合い、職種としての役割を全うすることを指します。
    病院・介護福祉施設・在宅などのセッティングや病期の違いで、専門職の役割が変化し、それを全うすることが求められます。
  2. 関係性に働きかける
    複数の職種との関係性の構築・維持・成長を支援・調整することができること、また、時に生じる職種間の葛藤に、適切に対応することができることを指します。
  3. 自職種を省みる
    自職種の思考、行為、感情、価値観を振り返り、複数の職種との連携協働の経験をより深く理解し、連携協働に活かすことを指します。
    相互依存的である保健医療福祉専門職の中での自職種の強みと弱みを理解し、他の職種に対して憤りや抵抗を感じる自分を俯瞰し、自分の感情に気付き、他者への行為をマネジメントする能力が必要となります。
  4. 他職種を理解する
    他の職種の思考、行為、感情、価値観を理解し、連携協働に活かすことを指します。
    それぞれの立場からは、自分が所属する領域以外の保健・医療・福祉の領域は異文化となり、コミュニケーションの障壁を感じるかもしれないが、同じ患者・利用者・家族に関わる職種として、様々な職種役割に興味を持ち、知らないことは知っている他職種に働きかけるやりとりは、よりよい治療やケアにつながります。

これらは以下のように表されます。

この日本の多職種連携コンピテンシーの概念図で示されている通り、ここで挙げた選択肢の内容はコア・ドメインを支え合う4つのドメインに該当することがわかります。

選択肢①の内容は「自職種を省みる」、選択肢②の内容は「多職種を理解する」、選択肢③の内容は「関係性に働きかける」、選択肢④の内容は「職種としての役割を全うする」にそれぞれ該当します。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる。

こちらは前項で示した、日本の多職種連携コンピテンシーのコアドメイン「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」をいじった内容だと思われます。

このコアドメインでは、「保健医療福祉の専門職は、それぞれの専門性を活かした視点を持っているがゆえに、各専門職が独立して掲げる目標設定が異なる可能性がある」と考え、だからこそ「患者・利用者・家族・コミュニティ中心に重要な関心事/課題に焦点を当て、共通の目標を設定することができる」ことが連携の目的であり、欠くことができない要素になると捉えます。

本来は「患者・利用者・家族・コミュニティ中心に重要な関心事/課題に焦点を当て、共通の目標を設定することができる」ことが重要であるところを、本選択肢は「他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定する」とされており、明らかに間違った内容に変えてあることがわかりますね。

恐らく多くの人が、本選択肢を読んで「おかしい」と違和感を覚えることでしょう。

しかし、わざわざこんなわかりやすい選択肢を設けたのには理由があります(たぶん)。

現場で臨床実践をしていると、時折クライエントの意向よりも、組織の考え・方針・目標を優先している支援者が見受けられるのです。

しかもその支援者は、それがクライエントのためになっていると信じて疑いません。

組織の中で長く過ごすうちに、組織の安定がクライエントの安定になると考えるようになるのです(もちろん、クライエントを支える組織の安定が、巡り巡ってクライエントの安定につながるということはあり得ますが)。

もちろん、クライエントの意向が全て正しいというわけでもありませんので、一概にクライエントの意向を優先するというわけではありませんが、やはりクライエントが自分に対する支援に納得しているということが重要であるのは言うまでもありませんね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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