公認心理師 2018-78(解説に誤りがあります)

ここの解説には誤りがあります。
改めて正しい解説を別記事として作成します。

公認心理師の地域連携の在り方として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
けっこう迷いましたが、皆さんはいかがだったでしょうか。

公認心理師向けのテキスト等ではあまり記載が無い事柄だったように思います。
仕方がないので、手持ちの資料と頭を使って解説を書いていきましょう。

特に選択肢②と⑤で迷いました。
自分なりに解説をつけましたが、不十分かもしれません。
根拠となる資料を見つけきれていない可能性もありますので、ご存知の方はコメント頂けると助かります。

コメントいただいた内容を踏まえて、少しだけ修正しました(2018/11/3)。

解答のポイント

多職種との連携について実践経験があると解きやすい。
連携のきっかけは多様であるという認識を持つこと。

選択肢の解説

『①地域の同じ分野の同世代の者たちと積極的に連携する』

この内容は非常に狭い印象を受けますね。
臨床・コミュニティ心理学 臨床心理学的地域援助の基礎知識」には連携について以下のように記されています。

  • 連携をスムーズにするには、「多分野多職種」の人々と日常的に顔をあわせたり、互いにさまざまなつながりを持つ活動が以前からあると、よりスムーズに行える
  • フォーマルには、ケースを通しての連携、地域連絡会等で知っているとよい。
  • 日本的な連携活動には、インフォーマルな部分での知り合いが、フォーマルな連携をよりスムーズにさせる。
これらの内容は、より広い範囲での関わりが重要であることを示しており、選択肢の内容はそれに反していると言えます。
よって、選択肢①は不適切な内容と言えます。

『②他の分野との連携には、自身の分野の専門性の向上が前提である』

連携を行う場合、多職種の人たちにとって公認心理師の専門語は馴染みが薄いものです
医療系であれば、精神医学的用語を共通語として用いることができますが、教育・福祉などでは共通語は少なくなりがちです。

土居先生は「専門語と日常語との間の風通しをよくしておくことが絶対に必要」(臨床精神医学の方法 p32)としていますが、連携において専門語を日常語に変換して説明する能力は不可欠なものといえます。
複雑な心理現象を説明する場合、多くの人に馴染みがある例を示しつつクライエントの心理構造の理解につながるような伝え方をする必要があります。

そして、こうした専門語を日常語に変換するという行為は、専門語に対する深い理解があって初めて可能になります

また、自身の分野の専門性を高めることは、自身の分野への有限性(自分たちにはここまでの支援が可能だ、という感覚)を自覚することにもつながるので、他の分野と連携を取る上で欠かせないと言えます。
自分にできる範囲がしっかりと理解できていないと、他領域と連携を取る上での役割分担や住み分けが難しくなりがちです。

更に、自身の分野を通して他領域を理解するということもあり得ます。
これは他領域の行為を、自らの分野の知見に当てはめる、ということではありません。
自身の分野への理解の向上によって、対人援助職としての共通項を見いだすことが可能となり、そこを連携の要として要心理支援者へのアプローチを考えていくことが重要です。

以上のように、選択肢②の内容は適切と判断できます。

『③医師からは指示を受けるという関係であるため、連携は医師以外の者と行う』

まず前半の「医師からは指示を受けるという関係である」という表現は、公認心理師法第42条第2項の内容(「心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない」)となっています。

厚生労働省から出ている通知「公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」では、連携に係わる留意事項が記載されています(この内容は以前の記事でまとめてあるのでご参照ください)。
具体的には「公認心理師は、要支援者に対し、当該主治の医師による診療の情報や必要な支援の内容についての指示を文書で提供してもらうよう依頼することが望ましい」などです。

すなわち医師との連携を行う旨が記載されており、この点は選択肢後半部分の「連携は医師以外の者と行う」が誤りであることを示しています。
よって、選択肢③は不適切な内容と判断できます。

『④既存のソーシャルサポートネットワークには入らず、新たなネットワークで連携する』

現任者講習会テキスト(p13)には、地域連携について以下のような記載があります。

  • 対象者に対して、関連する分野からの支援が総合的かつ適切に提供されるように、対象者にとって身近な機関や団体である地域の関係者等との連携が必要である。
  • 地域にあるリソースを要心理支援者のために適切に活用するには、公認心理師が業務を行う地域において、これらの関連分野の関係者等と常日頃から連絡を取り合っていることが必要になる。
上記の内容は、選択肢にあるような「新たなネットワークで連携する」という内容が誤りであることを示しています。
要心理支援者の身近にある既存のネットワークにどれだけスムーズに入ることができるか、という点も公認心理師として必要な能力だと言えそうですね。
以上より、選択肢④は不適切な内容と判断できます。

『⑤業務を通じた連携を基本とし、業務に関連する研究会や勉強会を通して複数の分野との連携を行う』

まず前半部分の「業務を通じた連携を基本とし」については、先述した「臨床・コミュニティ心理学 臨床心理学的地域援助の基礎知識」の中で、ケースを通しての連携、地域連絡会等で知っているとよいとされています。
よって、前半部分については適切な内容と言えます。

一方で後半部分の「業務に関連する研究会や勉強会を通して複数の分野との連携を行う」についてはどうでしょうか。
この内容で引っかかるのは以下の点です。

1.「業務に関連する」という判断は易々とはできない
そもそもが「これは業務に関連する」「これは関連しない」という考え方自体が、専門職としての判断の在り方として不適切と考えてよいでしょう。
「業務に関連するか否か」という判断を下しているのは、あくまでも現時点での未熟な自分ですから、未熟なものさしで物事を判断すれば、その人に入る内容は「現在の自分が業務に関係すると理解できる範囲」に留まってしまい、結果として成長は望めません

そのような判断に基づかれる場合、その公認心理師の興味・関心の幅で活動範囲が限定されることになってしまうため、連携の幅も狭くなってしまいます
例えば、SCが「認知症は関係ない」と判断して、それに関連する研究会には出ないなど、が起こってしまいます。
しかし、児童生徒の問題の遠因として、家族に認知症老人がいることも想定できますね。

よって、「業務に関連する・しない」という安易な判断基準で研究会・勉強会を選別することは、連携の幅を狭める恐れがあるため不適切と言えます。

2.連携の機会を「研究会や勉強会」に限定していること
すでに引用したように「日本的な連携活動には、インフォーマルな部分での知り合いが、フォーマルな連携をよりスムーズにさせる」とあります。
「研究会や勉強会」は連携の機会のあくまでも一つにすぎないと判断できます。

連携の機会は、大学の同期・先輩・後輩、職場の同僚・上司、学会での関わり等たくさんあります
選択肢の内容は連携の機会を限定しているように読み取れるので、不適切な印象がぬぐえません。

ただし、あくまでも「研究会や勉強会だけが連携の場ではない」ということが言えるだけであり、「研究会や勉強会を連携の場とすることが間違い」というわけではありません。

ですが、問題文にある「最も適切」とするのは難しいように感じますので、選択肢⑤は除外することとします。

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