公認心理師であるスーパーバイザーが、クライエントとの間に行き詰まりを経験しているスーパーバイジーに対応するにあたって、不適切なものを1つ選ぶ問題です。
臨床心理士試験でもそうですが、こういった問題文に「状況設定」がなされている場合があります。
これを見逃してしまうと、この問題の場合、例えば「スーパービジョンの基本的な考え方」を問われている問題だと勘違いしたまま解いてしまうという事態が生じかねません。
要は問題文をきちんと読みましょうということですね。
自戒も込めて。
解答のポイント
状況設定を踏まえた判断ができる。
スーパービジョンの基本的な考え方や現象を理解している。
選択肢の解説
『①1回のみの指導はスーパービジョンに該当しない』
状況設定的を踏まえつつ考えてみると、「クライエントとの間に行き詰まりを経験している」という場合は、多くは見立てが判然としなくなっていることが要因となっていることがほとんどです。
ケースマネジメントを学ぶこともSVの目的の一つですが、ケースマネジメントには「見立ての訓練」が含まれています。
そして、見立ての訓練は、インテークからその後の面接のプロセスと併せて、継続的に行われる必要があるとされています。
また、平木先生はSVを「スーパーバイザーがスーパーバイジーに対して一対一で、臨床実践上のアセスメントと介入の具体的方法について、時間と構造を定めて、継続的に教育・訓練を行うこと」としています。
以上より、選択肢①の内容は適切といえ、除外することができます。
ただ、こちらの選択肢は迷われた方も多いのではないでしょうか。
経験を重ねている方や、巷にあふれている様々な形態のSVを知っていると、「1回のみの指導でもSVに該当するよ」となってしまいそうです。
あくまでも「状況設定」を踏まえて解いていくということなので、そこらへんに引っかからないようにしましょう。
『②スーパーバイジーが抱える個人的な問題に対して心理療法を用いて援助を行う』
こちらの選択肢についていろいろ誤りがあるように見受けられますが、私が手元に持っている資料は古いためか、明確に「選択肢の内容をしてはいけない」という記述が見つけられませんでした。
よって、この選択肢の問題点は自前で考えてみましょう。
まず問題点の1つ目は、関係性の混乱が生じることです。
「スーパーバイジーとスーパーバイザー」という関係と「クライエントとセラピスト」という関係を重ねる、変更する、混在させる、という状況だと思われます。
前者のSVにまつわる関係は一般的に「上下関係」が存在するものとされており、心理療法上の関係は「平等」なものです。
こうした異なる関係性を混在させるような関わりは、スーパーバイジーの混乱を招くものと思われます。
問題点の2つ目は、スーパーバイザーが上記のような対応を取ることを「見せる」ことが挙げられます。
選択肢④にもありますが、SVでの状況とカウンセリング状況は並行プロセスです。
スーパーバイザーがSVという枠組みを超えて個人的事情に偏ること、上記のような関係性を混乱させるような行為に出るということを見せること自体による、カウンセリング場面への影響を考慮しなければなりません。
問題点の3つ目は、SVで「個人的な問題」にまで踏み込むことはしないのが一般的です。
行ったとしても、あくまでも話題になっている事例を通したスーパーバイジーの特徴について言及するという場合がほとんどだと思われます。
問題点の4つ目は、選択肢にある「心理療法を用いて」という表現です。
個人的な感覚かもしれませんが、心理療法は「用いる」といった類のものではなく、関係性の中での「場」だったり「現象」というものではないでしょうか。
「共感を使って…」という表現をする初学者を見る機会が増えたような気がしますが、その表現と同様の違和感ですね。
以上より、選択肢②の内容は誤りといえ、こちらを選ぶことが求められます。
『③心理療法のセッションをリアルタイムで観察しながら介入を指示する方法をライブ・スーパービジョンと呼ぶ』
先述したとおり、私のもっている資料はちょっと古い(2005年とか)ので、「ライブ・スーパービジョン」という言葉は見つけられませんでした。
ですが、こういった方法の存在は耳にしています。
第一世代のコミュニケーション学派家族療法で行われていたことが思い出されますね(こちらでは同席することはありませんが)。
ライブ・スーパービジョンは、面接や指導等の実践場面で、スーパーバイザーがスーパーバイジーの関わり方を指導したり、効果的な関わり方を実際にモデルとして見せることを指します。
スーパーバイザーは、スーパーバイジーの感想や意見を交えながら、方法・技術そして援助の基本的な考え方にも及んで教育的にスーパービジョンを行っていきます。
ライブ・スーパービジョンは、スーパーバイザーとスーパーバイジーが進行中の事例に一緒にあたる、つまり、実際にクライエントに接しながら(援助しながら)行われるものです。
ちなみに社会福祉士の教科書などでは、SVについてかなり明確な類型が行われています。
ライブ・スーパービジョンもそちらの内容が詳しいように思いますので、気になる方は参考にしてみてください。
よって、選択肢③の内容は正しいと言え、除外できます。
『④スーパーバイザーとの間においてもクライエントに対するものと同様の行き詰まりが見られることを並行プロセスと呼ぶ』
この選択肢は状況設定と関係なく、SVに関する知識について問われています。
スーパーバイザーの心構えとしても重要な知見です。
スーパーバイジーはクライエントだけでなくクライエントが関わる全ての人々の相互作用に関わりがあるという意味で、スーパーバイザーはそこにも関わっていることになります。
このことをリドル(1988)らは、「異種同型性」や「並行のプロセス」と呼んで、SVシステムを治療システム内のサブシステムとして位置づけ、スーパーバイザーが人々の循環的相互作用を意識していることの重要性を強調しています。
この現象が、臨床心理実習におけるスーパーバイザーが実習生に代わって責任を取る位置にいる説明として引き合いに出されることもあります。
神田橋先生は「フラクタル構造」という表現を使われていますが、こちらの概念でも似たような説明がなされていますね。
よって、選択肢④の内容は正しいので除外できます。