臨床心理士 学習性無力感:H21-1

臨床心理士の問題ですが、ロールシャッハ以外も解いていきましょう(気まぐれ)。
パッと目についた平成21年度の問題からサクサクとやっていこうと思います。
ブループリントの項目を一つひとつ解説していきたい気もするのですが、どうも問題形式でないと味気ないなと感じてしまって。
 A はイヌを被験体として、電気ショックが回避可能な群と不可能な群を設定し、両群の嫌悪刺激に対する回避行動を検討した。最初の実験手続きで回避不可能であった群は、その後、回避可能な条件に移行しても、適切な回避行動がとれずにうずくまってしまった。 A はこの現象を B と呼び、人にみられる C の動物実験モデルと考えた。
本問では、上記の〔 A B C 〕に該当する語句を選択することが求められます。
Aに入る可能性がある語句として示されているのは、Beck,A.T.、Seligman,M.E.P.、Pavlov,I.P.の3名です。
Bに入る可能性がある語句として示されているのは、実験神経症、学習性無力感、否定的スキーマの3つです。
Cに入る可能性がある語句として示されているのは、恐怖症、不安神経症、うつ病の3つです。
こういう問題を通して学ぶ場合、正解だけを理解しても意味がありません。
不正解の選択肢に関してもキチンと理解しておくことが重要です。
他のところでも書きましたけど、「その問題だけを解けるようにする」という考えでは、未見の問題に立ち向かうことはできませんからね。

Aに入る選択肢:Seligman,M.E.P.

Aに入るのはセリグマンになります。
Seligmanは、アメリカの心理学者で、ペンシルベニア大学教授です(でした)。
いかなる能動的行動もいっさい嫌悪刺激の回避に役立たないという経験を通して無気力が学習されること(学習性無力感)をイヌを用いた実験から明らかにしたことで有名です。
その他、種によってある行動の学習のされやすさ(準備性)があることを確認した研究、あるいは、人における帰属過程の研究など、実験心理学から臨床、社会心理学に及ぶ数多くの研究で知られています。
ちなみに、1998年度APA会長です。

実験は1967年にセリグマンとマイヤーが犬を用いて行いました。
予告信号のあとに床から電気ショックを犬に与えるというもので、犬のいる部屋は壁で仕切られており、予告信号の後、壁を飛び越せば電気ショックを回避できるようにしました。
また、前段階において次の二つの集団を用意していました。
電気ショックを回避できない状況を用意し、「その状況を経験した犬」と「足でパネルを押すことで電気ショックを終了させられる状況を経験した犬」です。
実験ではその二つの集団に加え、なにもしていない犬の集団で行われました。

実験の結果、犬の回避行動に差異が見られました。
前段階において電気ショックを回避できない犬はその他の集団に比べ回避に失敗しました。
具体的にはその他の集団が平均回避失敗数が実験10回中約2回であるのに対し、前段階において電気ショックを回避できない犬は平均回避失敗数が実験10回中約7回でした。
これは犬が前段階において、電気ショックと自分の行動が無関係であると学習しそれを認知した為、実験で回避できる状況となった場合でも何もしなくなってしまったと考えられます。
これをセリグマンらは学習性無力感と呼びました。

人に現われる症状としては以下の通りです。
長期に渡り、人が監禁されたり、暴力を振るわれたり、自分の尊厳や価値がふみにじられるような場面に置かれた場合、次のような徴候が現れます。

  1. 被験者は、その圧倒的に不愉快なストレスが加えられる状況から、自ら積極的にその状況から抜け出そうとする努力をしなくなる。
  2. 実際のところ、すこしばかりの努力をすれば、その状況から抜け出すのに成功する可能性があったとしても、努力すれば成功するかもしれないという事すら考えられなくなる。
  3. ストレスが加えられる状況、又ストレッサーに対して何も出来ない、何も功を奏しない、苦痛、ストレス、ストレッサーから逃れられないという状況の中で、情緒的に混乱をきたす。 
人の行動は、良かれ悪しかれ何らかの学習の成果として現れてくるものである、という学習理論を土台とした理論である。拉致監禁の被害者や、長期の家庭内虐待の被害者などの、行動の心理的根拠を説明する理論として、注目されています。

Aに入らない選択肢:Beck,A.T.

Beck,A.T.は、認知療法を創始した精神科医です。
イェール大学を卒業後、精神分析療法を行っていたが、うつ病の精神療法的研究を通して認知のあり方がうつなどの情緒状態と深く関連していることを明らかにして、短期間の構造化された面接で非適応的な認知を修正することによってうつ病やパニック障害などの精神疾患を治療することを目的とした認知療法を提唱しました。
ベックの定義では、認知療法は、認知やその認知プロセスを変えることで、すでにある障害や、想定されている障害を修正しようとする方法ですね。

Aに入らない選択肢:Pavlov,I.P.

Pavlovは、旧ソ連の生理学者です。
20世紀初頭、消化生理の研究中に得た事実をヒントとして条件反射の研究を始めました。
1904年、生理学者として初めてノーベル生理学・医学賞を与えられています。
彼の心理学の貢献として有名なのは条件反射の研究です。
条件反射とは、信号となる刺激と信号づけられる反応との間に一時的な結合が形成されることによって、中枢神経系の高位部で行われる適応行動のことです。
パヴロフは、イヌの唾液分泌が、食物を摂取するときのみならず、飼育者の足音を聞いただけでも起こるなどの事実から、条件反射の理論を組み立てていきました。
条件反射説は、行動主義的心理学の提唱者ワトソンの説の展開においても中心的役割を果たしており、学習理論の発展にも寄与することとなります。

条件反射説は、行動療法として結実しました。
彼の理論を応用した動物実験により、不適応的な恐怖反応が条件づけの手続きによって、形成されたり、除去したりできることを実証した諸研究をもとに、不適応行動の病態の理解と治療法を、条件づけの立場から追求しようとする動きが起こりました。
これらの研究は今日の行動療法の基盤となりました。

パブロフは、条件反射説を応用して、動物に困難な課題を与えて、実験的に異常な状態を引き起こす実験神経症の研究を行い、臨床精神医学にも大きな影響を与えました。
その上、実際に人間の精神疾患(ヒステリー)を観察することによって、それらを生理学的に理解し、神経症や精神病は可逆的で、実験的に起こしたり、治療したりすることができると結論したのです。

Bに入る選択肢:学習性無力感

客観的非随伴が非随伴的知覚を導き、別の新たな状況に対しても不適切な一般化を生じて無力感が形成されます。
つまり、強制的・不可避的な不快経験やその繰り返しの結果、何をしても環境に対して影響を及ぼすことができないという誤った全般的ネガティブな感覚が生じることにより、解決への試みが放棄され「あきらめ」が支配する結果となるのです。

セリグマンは、統制不能の電気ショックを与えられ続けたイヌが、別の統制可能な状況において、自ら電気ショックから逃れようとせずうずくまったままであったことについて、電気ショックが逃避不能であり自分の行動が無力であることを学習したとして、これを学習性無力感と呼びました。
この学習性無力感の獲得は動物にとって、食欲・性欲の減退のほか、腫瘍の形成や体重の減少、脳内の化学物質の変化など、生理的過程への波及を含む幅広く深い影響を生じさせるものであることが明らかになっています。

Bに入らない選択肢:否定的スキーマ

否定的自働思考は、患者の思考に熟慮なく飛び込んでくる習慣的思考のことです。
当然、知らぬ間に否定的感情をもたらし、うつ気分にさせます。
さらに、スキーマ、仮説、信念などと呼ばれている上位の概念が否定的自働思考の背景にあり、幼児期より次第に形成されるが、このスキーマや仮説のゆがみも、認知療法の重要な治療ないし予防の対象とされています。

ベックによると、うつ病者というのは、幼児期より否定的見方、つまり歪んだスキーマ(否定的スキーマ)をもっており、それがストレスによって発動され、それが具体的には否定的自働思考となって日常生活に機能し、うつ病が引き起こされるとしています。
例えば、「自分は完全な仕事ができなければ人から好かれない」という否定的自働思考があれば、仕事のつまずきによって容易に否定的見方に取り込まれてしまうということですね。

この点についてベックは、うつ病患者は否定的認知の3兆候という、独特の不合理な信念を持っていると指摘しています。
「自己に対する否定的概念」「人生に対する否定的解釈」「将来に対する空虚で絶望的な考え」がそれであり、この3兆候はすべて何らかの喪失をめぐって生じてくる悲観的な考えとされています。

Bに入らない選択肢:実験神経症

パヴロフ研究所でのイヌに行った視覚弁別実験において、弁別課題が難しく嫌悪刺激の電気ショックを受ける可能性が高まると、弁別の成績が悪くなるだけでなく、吠えたり噛みついたりといった落ち着きのない異常行動が慢性的に持続することが観察されました。
これを大脳の興奮と制止の混乱によるものであると考えるパヴロフは、人間の神経症に類似した症状であることから、この状態を実験神経症と名づけました。
相反する二つ以上の欲求間に生じる葛藤、特に、接近‐回避の葛藤が原因とされています。

Cに入る選択肢:うつ病

セリグマンは、人間のある種の抑うつの形成に学習性無力感のメカニズムが働くことを指摘しました。
抑うつ者は、愛する者の喪失、仕事の失敗、重い病気等に直面して、自分が無力であると自覚する傾向にあります。
イヌと人間に共通する問題点は、行為と不幸の結果の間の知覚される随伴性の欠如です。
ドゥエックは、教育の領域に学習性無力感の問題を適用し、学業不振対策の一環として帰属変更プログラムを導入を示しています。
つまり、学業不振児は往々にして学業での失敗を自らの能力に原因づけることにより無力感を生じさせているということです。
彼らに努力不足による失敗であったと誘導的に帰属変更させることにより、無力感の解消と達成への努力を触発させようとしました。
アブラムソンらは、学習性無力感は、自分は他人より劣っているという自己不信につながる「個人的無力感」と、自他を含めた反応のすべてが望ましい結果と関連しないと考える「普遍的無力感」から構成され、小学生の終わりから中学生にかけてこれら両方を含んだ一般的学習性無力感の形成がみられるとしています。

Cに入らない選択肢:恐怖症

恐怖症とは、ある特定の事物や状況への恐怖や嫌悪感の程度がかなり強く、かつ慢性化しているため、日常生活になんらかの支障をきたしている状態を指します。
この恐怖は、現実の聞きに対して生じる恐怖感のような、場に合ったしっくりとした感じを抱かせるものではないし、また恐怖の対象も十分な現実味をおびた事物・状況ではなく、さまざまな直接的・間接的可能性を含みこんで膨れ上がったものの場合が多いとされています。
器質的な病変はなく、神経症の一種とされているが、クライエント自身この恐怖のそぐわなさ、バカバカしさを認め、1日も早く解放されたいと願いながらも、抗いがたく囚われてゆくところが特徴的です。
一般に強迫神経症の一型とされる場合が多く、一過性のものから、ほとんど妄想に近いものまで、病理水準としてはかなり広い範囲にわたっています。
恐怖症の症例はかなり古くから報告されており、20世紀に入ると恐怖症の成因に関する言及が盛んになります。
なかでもフロイトの精神分析学説に基づく解明は、今日も非常に大きな影響力を持っていますね。
彼は、恐怖症状=不安に対する回避反応であり、この点でよりヒステリー現象に近いものとして、強迫性障害と区別しています。
また、ボウルビィなどは恐怖症の不安を主に分離不安の視点からとらえようとしていますね。
治療では、心理療法が中心となる(特に行動療法)が、薬物療法を補助的に用いることで、不安や症状が軽減される場合もあります。
症状が100%なくなることをもって治癒とすることもあるが、クライエント自身の症状に対する態度等の変化との兼ね合いで、日常生活に支障をきたさなくなった段階で治療を終える場合も多いです。

Cに入らない選択肢:不安神経症

不安神経症はフロイト(1895)が神経衰弱から分離独立させた、過度の不安を主症状とする神経症の一類型です。
その状態像は急性不安状態と慢性不安状態とに分けることができます。
DSMでは、神経症という名称はつけられておらず、不安神経症は不安障害の中に含まれています。
不安神経症の心理療法では、一般的な心理療法から精神分析によるもの、森田療法によるもの、行動療法によるものなど、多くの治療論や報告がなされています。
不安神経症は薬物によって軽快することが知られているが、薬物での治療を中心とした場合、心理療法には入りにくくなることがあるので、本質的治療のためには時期を外さない心理療法が必要であると考えられています。

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