行動療法(第1世代および第2世代)

行動療法については、その代表的理論モデルを理解し、その上で各技法について把握するようにしましょう。
多くの技法がひしめく体系なので、代表的モデルやその学習理論について知っておくことによって、各技法を把握するのに役立ちます。

行動療法に関する全般的理解

ここでは、行動療法という理論的枠組みの全般的理解を示そうと思います。
その上で、各理論について述べていきます。

行動療法の独自性

行動療法の、他の精神療法と大きく異なる点は、病理理論や人間理論を備えていない点です。
例えば、クライエント中心療法だったら「自己理論」という人間理論、すなわち、人間とはこういうものであるという基本的な考え方を持っており、自己の不一致などによって神経症的な問題が出現するといった「病理理論」を持っているわけです。

多くの精神療法はこうした「人間とはこういうものだよ」「こういうものだから、こんな状況・精神内界になると病気になるよ」という考え方を持っているわけです。
そしてそれに従って「治療理論」が出てきます。
先のクライエント中心療法だったら「自己実現傾向」があるので、方向づけずにやり取りを進める中でクライエントにとって大切なこと、治療の進展をもたらすようなことが出てくると捉えるわけです(ざっくりと言えば)。

もちろん行動療法においても細かな病理理論はあります。
不安の治療であれば不安に関する解消の理論を備えています。
ただ、こうした理論は行動療法の基盤となるようなグラウンド・セオリーではないのです。

よって、行動療法の治療は「それは行動療法の理論として正しいのか?」という議論とは無縁です。
あくまでも治療の目的や必然性は、臨床の目的、すなわち、苦痛の軽減や症状の解消、生きやすさの向上といった面に集約されます。

行動療法の出現に影響を与えた知見

行動療法という呼称が現在のものとの関連として語られたのは、スキナーらの1954年の論文からです。
精神病患者の行動特徴の分析と、その変容の行動分析研究でした。
スキナーはスキナーボックスを発明し、オペラント行動についての知見を示した人物ですね。
自分の娘もスキナーボックスにいれたとか。

1959年にはアイゼンクが行動療法という呼称を精神療法と対比させ、共通した性質をもつまとまりがある治療法として提唱しています。
アイゼンクは従来の精神療法の効果に関し、強い疑問を持っていました。
彼は神経症治療は、無意識の力動ではなく、検証可能な演繹に基づく学習の理論によるべきと主張しました。

アイゼンクが提唱した時点の代表的な治療法として、ウォルピの「心理療法的効果の主要な基礎のひとつとしての逆制止」がありました。
アイゼンクは自身がまとめた書籍の中で、上記のアイゼンクの主張に関する論文、ウォルピの論文、ワトソンらによる子どもの恐怖などに関する論文を納めています。

これらからわかるとおり、行動療法は一人の始祖による精神療法ではありません。
多少の分類はありますが、それは理論的な分類と言うよりも、学習に関する研究の方法や結果、臨床応用によって分類されているといえます。

行動療法は方法の体系

それでは行動療法とはいったい何なのか?
他の心理療法が「意味」で構成されているとするならば、行動療法は「方法」で構成されているといえます。
アイゼンクが「現代の学習理論に基づく実験によって基礎づけられたすべての行動修正法」と包括的に定義したのはその意味です。
このように見てみると、行動療法を用いていない治療など存在しないほどに、行動療法は日々の臨床で活用されています。

行動療法を構成している技法と理論

全般的に行動療法を理解するため、ここでは4つの枠組みを示そうと思います。
伝統的な行動療法は大きく4つに分類され、そのうちの1つが認知行動療法理論として大きく発展していきます。
現在では、これらを特に分けて論じることもなく、臨床実践の中で用いられていますね。
多少の理論枠の違いが話題にならないのは、行動療法である所以とも言えるかもしれません。

新行動SR仲介理論モデル

Wolpe、Eysenckが代表的人物です。
系統的脱感作(逆制止、不安階層表、漸進的弛緩法)、エクスポージャー・フラッディング(フラッディングは最初から最大強度でいきます)などが代表的な技法となります。
この理論は行動療法の出発時からあったものです。
この理論枠は、不安の学習とその動因を基にした神経症、特に不安障害の病理理論であり、その理論に基づいた治療技法のまとまりです。
不安関連の問題に強い印象ですね。
例えば恐怖症、強迫性障害などでしょうか。

応用行動分析モデル

Skinnerが代表的人物です。
正負の強化法、トークンエコノミー、タイムアウト、バイオフィードバック法、シェイピングなどが代表的な技法になります。
こちらも行動療法の出発時からあったものになります。
新行動SRが古典的条件づけを背景にしており、応用行動がオペラント条件づけを背景にしていると考えればわかりやすいでしょうか。
このモデルは行動の分析記述の理論枠であり、行動療法の基礎となる多くの技法を備えています。
どの理論枠から学ぶのが良いか、と問われたとすると、この理論枠からになると思われます。

社会学習理論モデル

Banduraが代表的人物です。
モデリング、セルフモニタリングなどが代表的技法になります。
モデリングは、観察を通じてモデルの行動を習得させ問題行動の改善を目指す方法です。
モデルに注意を向ける注意過程、モデルの行動などの情報を取り込む保持過程、自分で行動を起こしてみる運動再生過程、周囲からの反応によって行動が強化される動機づけ過程から成ります。
セルフモニタリングとは、クライエントが自分の認知や感情、行動などを観察し、自分自身に関するデータを得て、それらを検討するという一連の流れからなっています。
認知行動療法においてクライエントが身につける基本的な技法でもあり、問題把握の方法として、評価の方法として、変容の方法として治療過程のさまざまな段階で用いられています。
行動療法元年とされる1959年(アイゼンクが行動療法の包括的定義を行った)の10年後に提出されたモデルです。
このモデルでは、学習における期待や予測といった認知、象徴過程の重要性が主張されて理論化・技法化されています。
このモデルの提唱から、少しずつ「認知行動療法」という呼称が使われるようになりました。
行動の枠組みに「認知」が入ってきたと言えますね。

認知行動療法モデル

Beck、Ellisなどが代表的人物です。
合理情動(論理)療法、思考修正法、認知再構成法などがあります。
「第2世代の行動療法」とも呼ばれています。
このモデルは、他の3つと異なり、ある時点から生じてきたのではありません。
それまで新行動SR理論モデルに入っていた思考や言語・認知行動を対象にしてきた技法や、新たな認知再構成法などが、それまで行動療法の外にあった認知療法と共に、認知行動療法として一つの理論枠に納められて発生しました。

第2世代の行動療法

ここではエリスとベックの心理療法について述べていきます。
この2人が出発点となり第2世代の行動療法が発展していきました。

合理情動療法

基本情報としては以下の通りです。
  • Ellisが1950年代に提唱した。彼は、元々は精神分析を学んでいた。
  • 感情と行動は出来事によってではなく、その出来事をどのように解釈するかという認知の在り方によって変化するという考え方。
  • 当初は論理療法と、その後、合理情動療法、理性感情行動療法、REBTと名称が変化している。
この理論における中核的な考え方はABCシェマからiB(非合理的信念)を明らかにし、修正することです。
具体的には以下の通りです。
 A:出来事や経験(Active event or experience)
 B:信念体系(Belief system):iB(非合理的信念)、rB(合理的信念)
 C:結果(Consequence):不適切な感情や行動・適切な感情や行動
 D:反論(Dispute):iBに対する論駁が行われる、合理的信念使用課題等
 E:効果(Effect):適切な感情や行動
という枠組みで支援を行っていきます。
ちなみに「論駁(ろんばく)」とは、相手の説に反対して、論じ攻撃することを指します。
すなわち、非合理的信念に対して、それを修正するような伝え方を繰り返すわけですね。

認知療法

基本情報は以下の通りです。
  • エリスの影響を受けてBeck,A.T.は、1960年代からうつ病の臨床研究を始め、70年代に認知療法を完成させた。元々精神分析を学ぶ。
  • 1990年代頃に認知行動療法の概念が登場して現在ではここに分類。
  • 認知療法における「認知」:言語化された認知
  • うつ病、不安障害、PTSD、強迫性障害などに有効とされる。
  • 薬物療法との併用が良いとされている。
これらは臨床心理士の試験にも出題されている内容ですね。
認知療法では、否定的自動思考と呼ばれる認知の歪みの是正を重視します。
 出来事
 認知:スキーマ→(推論の誤り)→自動思考
 感情:抑うつ症状など
こうした枠組みで捉えていきます。
スキーマ(スキーマは英語、シェマはドイツ語、意味は同じ)とは、深層にある信念や態度などの認知構造を指します。
中核信念、などとも呼びますね。
推論の誤りには以下のような種類があります。
  • 恣意的推論:証拠もないのにネガティブに
  • 選択的注目:明らかなものには目もくれず、些細なネガティブに
  • 過度の一般化:坊主憎けりゃ袈裟まで
  • 拡大解釈と過小評価:失敗を人格全体に、成功を小さなものと思う
  • 個人化・自己関係づけ:関係ないものを自分に関係すると思う
  • 完全主義・二分的思考:白黒つけたい

認知行動療法の技法:行動実験

行動実験は、クラークらのモデルに基づいた認知行動療法です。
例えばクライエントが「周囲が自分を見ている」「人は自分と接したくないと思っている」といった独特な予測を持っているとします。
クライエントが社会的場面で行動を起こすことによって、本当に恐れていることが生じるのかどうかを検証していきます。
こうした取り組みを通じて、恐れていることが実は起こりにくいことに気づき、バランスのとれた捉え方ができるように援助することを行動実験と呼びます。

認知行動療法の技法:自己教示法

自己教示法は「自分自身に適切な教示を与えることによって治療効果を引き出す」ものです。
マケインバウムによって開発された技法で、自らの言葉で自分自身に教示を与えることにより、それが刺激となって自分の行動を変容させる方法です。
具体的な行動内容・認知傾向の方法(やり方)をイメージし、自分で自分にしっかりと言い聞かせることが重要で、その上で、実際にこのトレーニングで「肯定的・改善的な自己変容」が見られた場合、何らかの報酬や賞賛で行動を強化することによって自己変容の速度が速まっていきます。

認知行動療法の技法:問題解決療法

問題解決療法では、日常生活の中で体験するさまざまな問題に対して、問題解決志向性、問題の明確化と目標設定、問題解決策の算出、問題解決策の選択と決定、問題解決策の実行と評価の5ステップを通じて、その解決法を効果的に生成するための方法を習得していくことを目指します。
具体的には以下の通りです。
  1. 問題解決志向性:
    問題解決への積極的な姿勢を指します。自分や周囲の問題を積極的に気づくことが重要で、「自分だけの思い込み」といった認知の歪みに気を付ける必要があります。
  2. 問題の明確化と目標設定:
    現実的で対処可能な問題を同定し、達成可能な目標を設定します。情報を集める、問題の本質を明らかにする、目標を設定する、問題を解決する意義を再評価する、ことなどです。
  3. 問題解決策の算出:
    可能な限り多数の解決策を模索します。それには「拡散的思考」(Guilford)や、「ブレイン・ストーミング」(Osborn)を用います。
  4. 問題解決策の選択と決定:
    有効性と実行可能性の高い解決策を設定します。改善策のメリット・デメリットを十分に検討します。基準は、問題を解決できる見込み、期待される心理的安定、要する時間や労力、自分や周囲への影響、などです。
  5. 問題解決策の実行と評価:
    有効性の高い解決策を実行し、結果を適切に評価することです。結果を客観的・具体的に観察・記録することが重要です。
ここで言う「効果的な解決策」とは、ポジティブな結果を最大にし、ネガティブな結果を最小にするように、問題に対処する(目標を達成する)ための取り組みのことです。
こちらの療法は、問題解決過程と呼ばれる心理プロセスに基づいて治療的技法をパッケージしたものであり、広くは問題解決技法とも呼ばれます。

認知行動療法の技法:ソクラテス的質問法

この質問方法の目的は、クライエント自らが自身の認知や感情などに気づいたり、見落としていた視点に気づくことができるようになることです。
クライエントが自分の思考を論理的に分析するように促すものであり、クライエントの探究心や治療への意欲を高めるために、質問によってクライエントを刺激し、自分の思考についてもっとよく知りたいと思わせることが重要です。
具体的には以下のようなやり方が取られます。
  1. 誘導による発見
    当事者が自問し、自ら発見できるように問いかける質問を繰り返すことで相手に気づいてもらう。議論でも、単なる傾聴だけでもない。
    基本モデル(思考が情動と行動に影響を与える)を指針として質問するように心がけることで、どのように思考を修正すれば、クライエントは苦痛を軽減したり、対処能力を高めたりできるかが理解できる。
  2. 非適応的な思考パターンの打破:
    クライエントが自問し、硬直した非適応的思考パターンを打破するために、新たな洞察を深め、思考の変化を肯定的な情動の変化と関連付けるように促す。
  3. 思考について考えるスキルの学習:
    質問によってクライエントの好奇心を刺激し、クライエントが自分を見つめ、新しいものの見方に目を向けることができるようにする。
  4. 自由に回答できる余地を残す:
    多肢選択式の質問を用いる場合でも、様々な回答ができる余地を残しておく。
  5. クライエントの症状の程度や認知能力を考慮し適切な質問を選ぶ:
    クライエントを混乱させたり圧倒させたりしないように、適切なレベルの質問を投げかける。
「誘導による発見」の背景にあるのは「クライエントが体験から気づいたものが最も強力」という信念です。
確かに教えられたものよりも、自分で気づいたものの方が、その真偽の如何に関係なく、その人のものとして機能しやすいです。
【2018-50、2018追加-92、2018追加-140】

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