公認心理師 2022-37

うつ病に対する認知行動療法の技法に関する問題です。

一つだけ、ある特定の問題に対して用いられる技法がありますね。

問37 うつ病に対する認知行動療法の主な技法として、不適切なものを1つ選べ。
① 認知再構成法
② 問題解決技法
③ 活動スケジュール
④ 持続エクスポージャー法
⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

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解答のポイント

認知行動療法の各技法の特徴と適用を把握している。

選択肢の解説

① 認知再構成法

認知再構成法は、代表的な認知的技法の一つであり、ある人においてパターン化した自動思考以外の考えやイメージをその人がもつことができるように、自動思考の検討を行う方法です。

単に「ポジティブな考え方」を身につけるための練習ではなく、多くの人がポジティブであると思うような内容であってもクライエント自身が納得し、受け容れられるような考えでなければ症状改善の効果は期待できません。

この技法には、以下のような思考記録表(コラム表)が用いられることもあります。

1.状況昨日の「心理査定」の授業で、教員から急に当てられて、立って質問に答えた。
2.感情(0~100%)不安が70%、悲しみが30%
3.自動思考又はイメージ「みんなが自分をバカにしている」「変なことを言ってしまった」
みんなが自分をバカにした表情で見ているイメージ
4.根拠答えた後に教員が「正しい答えだ」と言わなかった。こちらを見ている人が多かった。
5.反証「そういう考えもあるね」と教員が言っていたので、間違ったわけでもないのだる。自分が発言したのだから、自分を見ていた人がいても不思議ではない。
6.自動思考に代わる思考「自分に対して、何か思っている人がいたかもしれないけど、全員が自分をバカにしていたということはないだろう」
7.結果:感情とその強さ不安が60%、悲しみが25%

認知再構成法を行う手順は、以下の通りです。

  1. 不快な感情が伴っていた状況を具体的に1つ特定して、それに沿って検討することが望ましい。
  2. その状況での感情を一言で表せるような言葉を探してもらい、その感情の強さを0~100%の範囲でクライエント自身が評定する。0%は全く感じていない状態で、100%は今までで最も強くその感情を感じた状態である。
  3. 自動思考は、そのときに頭に浮かんだ考えやイメージである。自動思考の中から、最も強く感情を喚起する考えを「ホットな認知」と呼び、その考えを中心に検討を行う。
  4. 根拠ではホットな自動思考を支持する事実に基づいた根拠を書き出す。
  5. 反証ではホットな自動思考に反する証拠を書き出す。
  6. 根拠と反証はいずれも、自動思考に代わる思考を考え出すために行われる。
    ※根拠と反証を含まない5つのコラムから構成される表が用いられることも多い。

自動思考に代わる思考が案出されても、一度の試みで不快な感情が一気に和らぐわけではなく、他の技法と同様に繰り返し行っていくことが重要になります。

認知療法はBeckの理論に基づいて発展しており、ネガティブな情報処理のあり方と非機能的な信念がうつを生起させていると考えます。

ネガティブな情報処理から生まれた認知は、感情、身体反応、行動に好ましくない影響を与えていることが多いため、認知のあり方と他の要素への影響を確認することが第一歩となります。

その上でより合理的だったり、気が楽になるような認知のあり方を探してそれを実践していくわけですが、認知再構成法はそのために行われる代表的な技法の一つです。

上記から明らかなように、うつにつながるような否定的な認知への治療法として認知再構成法が機能することがわかります。

よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

② 問題解決技法

認知行動療法には「問題解決療法」というアプローチがあります。

問題解決療法では、日常生活の中で体験するさまざまな問題に対して、問題解決志向性、問題の明確化と目標設定、問題解決策の算出、問題解決策の選択と決定、問題解決策の実行と評価の5ステップを通じて、その解決法を効果的に生成するための方法を習得していくことを目指します。

具体的には以下の通りです。

  1. 問題解決志向性:問題解決への積極的な姿勢を指します。自分や周囲の問題を積極的に気づくことが重要で、「自分だけの思い込み」といった認知の歪みに気を付ける必要があります。
  2. 問題の明確化と目標設定:現実的で対処可能な問題を同定し、達成可能な目標を設定します。情報を集める、問題の本質を明らかにする、目標を設定する、問題を解決する意義を再評価する、ことなどです。
  3. 問題解決策の算出:可能な限り多数の解決策を模索します。それには「拡散的思考」(Guilford)や、「ブレイン・ストーミング」(Osborn)を用います。
  4. 問題解決策の選択と決定:有効性と実行可能性の高い解決策を設定します。改善策のメリット・デメリットを十分に検討します。基準は、問題を解決できる見込み、期待される心理的安定、要する時間や労力、自分や周囲への影響、などです。
  5. 問題解決策の実行と評価:有効性の高い解決策を実行し、結果を適切に評価することです。結果を客観的・具体的に観察・記録することが重要です。

ここで言う「効果的な解決策」とは、ポジティブな結果を最大にし、ネガティブな結果を最小にするように、問題に対処する(目標を達成する)ための取り組みのことです。

こちらの療法は、問題解決過程と呼ばれる心理プロセスに基づいて治療的技法をパッケージしたものであり、広くは問題解決技法とも呼ばれます。

うつに対する認知行動療法の技法としては、一般的な認知行動療法の技法(心理教育、誘導された発見、ソクラテス式質問法、ロールプレイ、イメージなど)をベースとしています。

他にも認知に焦点を当てた認知再構成法のみならず、行動スケジューリング、達成感と満足感のセルフモニタリング、適応的なコーピングや問題解決技法の習得などの行動的な技法も用いることになります。

上記の通り、問題解決技法(療法)では、否定的な認知に対して有効性と実行可能性の高い解決法を設定し、その効果を精査したのちに、それを実行して適切に評価することになります。

これはうつに伴う否定的な認知に用いられる代表的な技法の一つであり、実際に行動を伴うという点で認知再構成法とは線引きができますね(どちらが優れているとかではなく、クライエントに合わせて用いるのが適切)。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 活動スケジュール

うつ病への介入に用いられる代表的な技法の一つとして、行動活性化があります。

うつ病患者において活動レベルの低下は、無力感の増長や自己評価の低下につながり、その一方で、行動面に肯定的な変化がもたらされることは自己評価の向上や、より適応的な姿勢へとつながる可能性が高いと考えられています。

行動活性化では、行動のモニタリングや行動の変化に伴って、クライエントの否定的な認知に対する確信が揺らぎ、認知に生じる変化も期待されています。

また、行動レベルの課題の遂行により、直接的に消極性や回避行動に変化をもたらすことも目的の一つとされています。

行動活性化の進め方は一通りではないが、基本的には、日常活動の記録、活動スケジュールの作成と実施という段階を踏みます。

日常活動の記録は、日常生活における主な活動内容をクライエントが記録するもので、クライエントは何時にどのようなことを行ったかについて、例えば、一週間分の大まかな活動を記入するように求められます。

その上で、個々の活動における達成感(M:mastery)と喜び・楽しさ(P:pleasure)を、クライエント自身に得点化してもらいます(例えば、最低を0点、最高を10点のような感じで)。

これらの値も参考にしながら、活動量の増加と達成感や喜び・楽しさが高められるように活動スケジュールを計画します。

その際、クライエントの状態などに合わせて、達成できるような計画を立てることが重要になります。

クライエントは日常生活でその活動を実行し、それに対する感想や気づいた点などを次のセッションで報告します。

クライエントが新たな行動に取り組めなかったり、感情に変化が認められなかったりしても、それは失敗ではなく「そのやり方ではうまくいかないことがわかった」と考え、その後の治療に役立たせることに意味があります。

中等度から重度のうつ病患者を対象に、行動活性化と自動思考の修正という2つの技法を比較したところ、行動活性化のみ行った群と行動活性化と自動思考の修正を組み合わせて治療した群とでは20セッション実施後、両群間に効果の違いは認められなかったという報告があります。

このような結果からも、症状のより重いうつ病においては、まずは行動を扱うことが有効であると考えられています。

以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ 持続エクスポージャー法

トラウマに焦点を当てた認知行動療法として、持続エクスポージャー法などがあります。

持続エクスポージャー法の理論によると、PTSDが慢性化するのは、トラウマの想起刺激を極度に回避したためにトラウマ記憶が適切な処理を受けなかったからと考えます。

したがってPTSDの治療では情動処理を促進する必要となり、持続エクスポージャー法では、自然回復の場合と同様に恐怖構造が十分に賦活されるのだと考えられています。

持続エクスポージャー法では、トラウマ記憶に緩やかに直面してもらう治療法であり、考え、物、環境、状況など、トラウマ記憶を思い出すようなきっかけに直面していきます。

エクスポージャーには、現実エクスポージャーとイメージ・エクスポージャーがあり、前者は苦痛や不安を感じるためにクライエントが避けている状況や対象に繰り返し触れていくのに対し、後者ではトラウマ記憶を想起して語ることを継続して行うことになります。

トラウマ記憶やそれを誘発する刺激に触れることはクライエントにとっては苦痛であるため、PTSDやその症状に対する心理教育を行うだけでなく、トラウマ記憶を想起して不安や苦痛を感じた際に落ち着くことができるように、呼吸再調整法を身につけることも重要になります。

持続エクスポージャー法では、その他のエクスポージャー法と同様に、不安階層表を使って徐々に刺激に触れていくことになります(フラッディングでは、いきなり最大強度の不安に触れさせる点がエクスポージャーとの違いですね)。

最初は、セッションの中でエクスポージャーを始め、ホームワークを取り入れて治療場面の外でもエクスポージャーをするように促します。

イメージ・エクスポージャーはトラウマ的な出来事を十分に処理できるようにすることが目的であり、エクスポージャーを通じて、トラウマを思い出させるようなことや記憶自体は危険なことはなく、トラウマを再体験するのと同じことではないこと、恐怖刺激から逃避・回避をしなくても不安をコントロールできること、不安やPTSD症状はコントロールを失わずに経験できることを体験していきます。

持続エクスポージャー法は通常、週に1~2回で16セッション行われ、他の認知行動療法的な技法と併用されます。

トラウマ記憶と直面する際には様々な不快な情動や苦痛が生じるが、そこからの回避によってトラウマ記憶が未統合なままになってしまうため、不快なものであっても情動との関わりを増やし、トラウマ記憶の統合を促進するのが目的です。

不快な情動が喚起されるため、一時的に症状が悪くなるクライエントもいるが、暴力によるPTSDを発症した女性のクライエントの研究では、治療前よりも悪化することはほとんどなかったという報告があります。

徐々に触れていくつもりであっても、一度に記憶全体が蘇る場合に配慮したり、不安が半減するまでエクスポージャーを行わないと逆に悪化する可能性もあることを実施の際には留意したりする必要があります。

斎藤環先生は上記の書籍の中で、持続エクスポージャー法とは「精細度が高く情報量が多すぎて保存しきれない画像データを“圧縮”して、記録しやすい情報サイズに変換する作業」と表現しています。

こうした情報量の圧縮に貢献しているのが「言葉の力」であり、何度も語ること(エクスポージャーすること)によって物語として自身の人生の一部に収納されるというイメージだろうと思います。

このように、持続エクスポージャー法はPTSDに対する代表的な治療技法の一つです。

よって、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

SSTはアメリカの精神科医リバーマンによって考案され、当初は主に精神疾患のある人たちに適用されていたが、医療機関や療育施設などで、社会的コミュニケーションに課題を抱える発達障害の子どもや大人に対しても様々な形で適用されるようになりました。

SSTは、行動理論、社会的学習理論に基づく技法であり、①教示:目標とする行動を教える、②モデリング:その行動を実際に行って見せるなどして見本を示す、③リハーサル:目標とする行動を実際に行って練習する(ロールプレイ)、④フィードバック:目標の行動が適切にできているかどうかを伝え、できていれば賞賛し、できていなければ修正点を伝える、⑤般化:トレーニング場面で獲得したスキルを日常生活のどのような場面でも、誰に対しても活用できるよう促す、という5つのトレーニングが基本要素です。

なお、「ソーシャルスキル」の定義は研究者によって多様ですが、①仲間から受け入れられること、②人との関わりにおいて好ましい結果が得られ、好ましくない結果を回避できること、③社会的妥当性、の3つの観点から特徴づけられるとされています。

SSTの適用は多岐にわたり、社交不安障害などで人と関わる際の技能の訓練が望ましい場合や、統合失調症者に対する社会復帰を目的としたアプローチ、ADHDや学習障害、ASDの子どもたちの対人スキルの向上のための手段としてSSTが挙げられています。

上記のような場合だけでなくうつ病でも、その症状が改善されても、たとえば人付き合いのぎこちなさが従来のままであると、周囲との人間関係がうまく築けず、それがストレスになって再発してしまうケースが多いとされています。

SSTは、様々なストレスに対処し、日常生活や社会生活を円滑に送るうえで必要となる技能(社会的スキル)を高め、うつ病などの精神疾患の再発を防止するためのリハビリテーションの一つと言えます。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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