公認心理師 2022-140

事例のコミュニケーションがYalomの集団療法の概念のいずれに該当するかを選択する問題です。

過去問でYalomらの集団療法の治療要因に関する問題が出題されていますから、その応用(というほどのものでもないかもしれないけど)編という感じの問題ですね。

問140 公認心理師A。台風の被害が出たため、災害派遣チームの一員として避難所を訪れ、心理教育を目的に講習会を開くことになった。Aは、被災によるストレスについて講義をした後、一部の参加者が残って自発的な話し合いをもった。ある人が、「洪水で流された家があるが、自分の家は浸水もしなかった。申し訳ない」と涙ながらに語った。別の人は、「自分の家は浸水したが、家族は無事だった。家族に不明者がいるという話を聞くたびに、自分も罪の意識を感じる」と語った。二人の発言を、皆はうなずきながら聞いていた。
 ここで生じているコミュニケーションについて、I. D. Yalomの集団療法の概念として、適切なものを1つ選べ。
① 普遍性
② 愛他主義
③ カタルシス
④ 情報の伝達
⑤ 希望をもたらすこと

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解答のポイント

Yalomの集団療法の概念を把握している。

選択肢の解説

① 普遍性
② 愛他主義
③ カタルシス
④ 情報の伝達
⑤ 希望をもたらすこと

集団療法の近代的理論としては、「全体としての集団アプローチ」「対人関係論的アプローチ」「精神内界アプローチ」などがあります。

このうち、対人関係論的アプローチの研究者として、対人関係論に基づく集団療法を強調したYalomがおります。

彼は集団療法において変化への強い治療的推進力になるのは、凝集性と「今ここで」怒っている集団相互作用の中にあると考えます。

そして対人的学習はさまざまなレベルで起こり、その中でも感情修正体験が重要だと強調しています。

ヤーロムは集団療法の発展には、「依存性」「葛藤・支配・反抗」「受容・信頼感・親近感・凝集性」という3つの発展段階があると考えました。

更に彼は、以下の11項目を集団療法の治療因子として挙げています。

  1. 希望の注入:
    他の患者が良くなるのを見て、自分もという希望を持つこと。
    「ここに来るとホッとする」「なんとかやっていけそうな気がする」など、将来への希望が持てる場面を得ることができる。
  2. 普遍性:
    自分一人だけが悩んでいるのではないという感覚。
    様々な人々と接することで「自分だけではない」という安心感が得られる。
  3. 情報の分与:
    病気の症状や日々の生活上の困りごとへの対処法など、他のメンバーから自分に役立つ情報を得ることができる。
  4. 愛他主義:
    他の患者を助けて、自分が役に立っているという感覚。
    グループでの自分の言動が誰かの役に立ち、誰かに喜ばれることで、自分自身が必要とされている存在だと感じることができる。
  5. 原初的家族関係の修正的反復:
    自分の家族の中で体験したことの繰り返し。
    現実の家族と異なる許容的なグループで、受け入れがたい感情すら受け入れられる体験を通し、過去の圧倒的な感情の陰に隠されていた別の感情に気づくことができる。
  6. 社会化能力の発展:
    人づきあいが上手になる。
    安心感のあるグループのなかで、疑似的な社会体験を得て成長することができる。
  7. 模倣行動:
    人のまねをしながら、自分の行動を考える。
    生活技能、対人関係などにおいて、他のメンバーが持つパターンを参考にしたり、模倣して新しい対処法を得ることができる。
  8. 人間関係の学習:
    対人関係から学ぶこと。
    グループのなかで言語的あるいは非言語的コミュニケーションが健全に機能することにより、安全な対人関係が体験できる。
  9. 集団の凝集性:
    グループがバラバラにならないこと。
    一体感の強いグループにおいて、受け入れられたという安心感によりコミュニケーションが活発化して、互いに強い影響を与えあう。
  10. カタルシス:
    語ることによって重荷を下ろす。
    グループの中で受け入れられたと感じることで、奥底にしまっていた感情(特にネガティブな感情)に直面し、それを語ることでこころが癒されていく。
  11. 実存的要素:
    究極的には自分一人で現実に対決し、責任を取る。
    生きる意味や孤独、死などといった人生の真実について、ひとりではなくグループの中で探索することにより、次第に向き合っていけるようになる。

これらを踏まえた上で、本事例の状況を見ていきましょう。

「ある人が、「洪水で流された家があるが、自分の家は浸水もしなかった。申し訳ない」と涙ながらに語った。別の人は、「自分の家は浸水したが、家族は無事だった。家族に不明者がいるという話を聞くたびに、自分も罪の意識を感じる」と語った。二人の発言を、皆はうなずきながら聞いていた」というコミュニケーションは、自分一人だけが悩んでいるのではないという感覚・様々な人々と接することで「自分だけではない」という安心感が得られるという「普遍性」であると考えられます。

本事例のやり取りは、「集団との一体感を覚えることで、メンバー相互の援助能力を高める」ということが生じていると見なして矛盾はないですね。

こちらに対して、選択肢②の「愛他主義」は、他者を援助することを通して自己評価を高めるというコミュニケーションですから、本事例のような他者との類似性を感じ取って、自分だけが特異ではないと感じている状況とは異なりますね。

選択肢③の「カタルシス」は、グループの中で受け入れられたと感じることで、奥底にしまっていた感情(特にネガティブな感情)に直面し、それを語ることでこころが癒されていくことを指しますから、本事例のような他者との類似性を感じ取って、最も深く懸念する問題を共有するという状況ではありません。

選択肢④「情報の伝達」は、病気の症状や日々の生活上の困りごとへの対処法など、他のメンバーから自分に役立つ情報を得ることができるというものであり、こちらはAが行っていた「心理教育を目的とした講習会」が該当しますが、本問でポイントになっているのは参加者間のコミュニケーションですから、こちらは「情報の伝達」には該当しませんね。

選択肢⑤「希望をもたらすこと」は、他のメンバーが良くなるのを見て、自分もという希望を持つことであり、「ここに来るとホッとする」「なんとかやっていけそうな気がする」など、将来への希望が持てる場面を得ることになりますから、本問の状況とは異なることがわかりますね。

上記の通り、本事例のコミュニケーションはYalomの概念のうち「普遍性」が該当すると言えます。

よって、選択肢①が適切と判断でき、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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