公認心理師 2022-127

リラクセーションを主な目的とする技法を選択する問題です。

主に認知行動療法の技法が示されていますね。

問127 リラクセーションを主な目的とする技法として、適切なものを2つ選べ。
① 自律訓練法
② 漸進的筋弛緩法
③ 睡眠スケジュール法
④ トークン・エコノミー法
⑤ アサーション・トレーニング

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解答のポイント

各認知行動療法の技法の特徴を把握している。

選択肢の解説

① 自律訓練法
② 漸進的筋弛緩法

リラクセーションを取り入れている代表的な技法に「自律訓練法」と「漸進的筋弛緩法」があります(他にも、呼吸法やバイオフィードバック法などにも含まれる。ただし、バイオフィードバック法は本問の枠組みでは不適切になる可能性がある。問題の趣旨が「リラクセーションを主な目的とする技法」であるから)。

リラクセーションとは、いずれも交感神経系の抑制、副交感神経系の賦活、ストレスホルモンの低下、免疫機能の増強などの生体機能調節系の変化を引き起こす技法です。

特に行動療法系の中心的な技法の一つとされています。

1930年代に精神生理学者Jacobsonが骨格筋をリラックスした状態では不安反応が生じないことを発見し、漸進的筋弛緩法として応用されるようになりました。

漸進的筋弛緩法とは、身体の各部位に力を入れて抜くことを繰り返し、リラックスを導く技法です。

力を入れる部位は、最初は効果を感じやすいところからはじめ、徐々に、つまりは漸進的に、その範囲を広げていきます。

例えば不眠に対する漸進的筋弛緩法では、クライエントが不安や過覚醒のため眠りにくくなっている入床前や中途覚醒時に実施してもらい、リラックスした状態での入眠を促します。

ウォルピは不安反応に拮抗する反応(リラックス反応)を引き起こすために、漸進的筋弛緩法を系統的脱感作法に取り入れました。

自律訓練法は、ドイツの神経科医シュルツによって開発された、リラックスした体勢、環境と決まった言葉を用いて自己暗示を行い、心身の機能の自律的な調整を促進するためのトレーニング法です。

19世紀末の自己催眠を活用したフォクトの予防的休息法が基礎となっており、疾患の治療法としてだけでなく、心身のコンディションを整える健康増進法や能力開発法とし、スポーツ・教育・産業などの領域でも広く活用されています。

基本となる標準練習と、各個人に応じた言語公式を用いる自律性修正法、イメージ想起を活用する黙想練習、自己の内的世界を言語表出する自律性中和法などから成り立っています。

これらの技法には、能動的な制御をせずに自己を観察(自己モニタリング)することを通して、心身の機能の自律的な正常化を促進するという共通点があります。

基本となる標準練習のうち、腕や脚の筋肉が弛緩した感覚をモニタリングする四肢重感練習と、末梢の血液循環が良くなって手足が暖かくなった感覚をモニタリングする四肢温感練習が基盤となります。

この2つの練習には適用上の制限が少なく、不安や緊張の軽減に効果があります。

練習を通して心身共に深い休息状態が得られ、機能の調整と回復が促進されるので、心身医学的治療法として緊張性頭痛、本態性高血圧、睡眠障害や疼痛、不安などの慢性的な症状の緩和に用いられます。

また、特定の疾患に限らず、予防やQOLの向上などを目的とした適用が可能です。

以上のように、自律訓練法や漸進的筋弛緩法ではリラクセーションを主な技法として活用していますし、リラクセーション自体が目的(自律訓練法ではリラクセーションを通して心身の機能の自律的な調整を促進する、漸進的筋弛緩法では筋弛緩=リラクセーションであるとも言える)であるとも言えますね。

ここで「系統的脱感作法」ではなく「漸進的筋弛緩法」にしてあるのは、本問が「リラクセーションを主な目的とする技法」を選択する問題であるからだと考えられます。

系統的脱感作法になると、目的はリラクセーションではなく、不安の拮抗となるものとしてリラクセーションを用いて、不安を低減させることが目的になりますから、本問の趣旨とは合わなくなってくるわけです(だから系統的脱感作法が選択肢に含まれていると、不適切になる可能性が出てくるわけですね)。

よって、選択肢①および選択肢②が適切と判断できます。

③ 睡眠スケジュール法

心理支援において睡眠は「老練な助手」であり、睡眠が確保されているうちは破滅的な心身の不調が訪れる可能性はぐっと低くなると言えます。

こうした睡眠について、カウンセラーはそれなりの知識をもってクライエントに伝えていく力が求められます。

単なる経験則で話すのではなく、きちんと裏付けのある睡眠に関する知識はたくさんありますから、それを伝えられることが重要です。

例えば、不眠時によくあることとして、眠れていないけど寝床にいる時間が長くなりがちです。

そして、眠れないのに寝床にいる時間が長すぎると実際に「身体が眠れている時間」と「寝床に入っている時間」の差が大きくなるほど、寝付きにくさや途中で何度も目が覚めやすくなる(中途覚醒)とされています。

そうなると寝床に入っている時間が長くても、寝付けなかったり、途中で何度も起きてしまっては睡眠の密度が薄い状態ですから、熟眠感(よく寝たなーという感じ。体と布団が一体化したような、あの感じ)が減ることになるのは自然の成り行きです。

このような場合に、睡眠の密度を凝縮させ「寝床に入っている時間=睡眠時間」になるように調整しながら近づけていくのが認知行動療法の技法の一つである「睡眠スケジュール法」になります。

睡眠スケジュール法は以下のような手順を踏むことが多いです。

  1. ここ1週間の睡眠記録を取り、平均睡眠時間(実際に眠れている主観的な時間)を算出する。
  2. 目標とする睡眠時間はプラス30分が目安となる(例えば、平均睡眠時間が6時間なら6時間半にする。ただし、平均睡眠時間が5時間未満になる場合は5時間に設定する)。
  3. 新しい睡眠時間に基づき、就寝・就床時刻を設定する(例:午前0時半就寝、午前7時起床など)。
  4. 寝床に横になるのは、眠くなった時か、設定した時間になった時にする。寝床に入って約15分経っても寝付けない時は、寝床を出て、リラックスできることをするなどして再度眠くなったら寝床に入る。寝る以外で寝床は使わないようにする(眠れないのに寝床に長くいると、寝床に眠れないイメージが強く付いてしまう)。
  5. 眠くても日中や夕方の昼寝は避け、いつもどおりの生活(仕事、趣味、日課など)を続ける。
  6. 2~5を1週間続けます。
  7. 1週間の睡眠効率を計算し、以下の要領で睡眠時間を調整して、再び2~5を続け、1週間毎に睡眠状態を確認します。
    ※睡眠効率=1週間の平均睡眠時間÷1週間の平均床上時間×100
    ・睡眠効率が85%以上だった場合→就寝時間を15分早める
    ・睡眠効率が80~84%だった場合→同じ時間設定で継続
    ・睡眠効率が80%未満だった場合→就寝時間を15分遅らせる

こうした実践の中でよく行う助言としては「2時間おきに眠気はやってくるけど、そのときにゲームや動画を観ていると、その眠気が通り過ぎてしまうことが多い。眠気のしっぽは掴むことができないので、そうなると次の眠気を待たねばならない」「眠気が行ってしまったら、仕方がないと思って次の眠気まで備えましょう」「土日で睡眠時間を変えると、その調整で体に知らず知らずのうちに負担をかけていることが多いので控える方が望ましい」などがあり、クライエントの状態に合わせて伝えることが多いです。

さて、こうした睡眠スケジュール法ですが、もちろん寝床にいない時間にリラクセーションをすることも効果的と言え、特に寝床に入っても15分眠れないときなどはリラクセーションを勧めることが一般的と言えます。

しかし、リラクセーション自体が睡眠スケジュール法に組み込まれているわけではなく、睡眠スケジュール法は上記のような方法をもって「寝床=眠るところという再学習」を行い不眠の改善を目指す技法になります。

ですから「リラクセーションを主な目的とする技法」として睡眠スケジュール法は該当しないことがわかりますね(再学習をもって不眠の改善が目的だから)。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ トークン・エコノミー法

精神障害患者の施設や学校の教室など、比較的小規模の集団において、代用貨幣であるトークンを流通させることによって、望ましい行動の形成や維持を試みる行動療法の技法の一つがトークンエコノミー法です。

トークン経済(エコノミー)が機能する基本原理は、オペラント条件づけの強化・弱化といった行動増減の原理に基づいています。

患者や児童が望ましい行動を取ることで、ポーカーチップなど有形な条件強化子であるトークンが提供されます(反応が先にあって、強化を行うのでオペラント条件づけですね)。

トークンは一定の価格で、さまざまなバックアップ強化子(お菓子や嗜好品などの特定の物品、外出やテレビ視聴などの特定の活動)との交換が可能になります。

ケンカやカンニングなど望ましくない行動がとられた場合には、トークンが没収されることもあります。

1970年代に矯正施設、病院、学校などにおいて盛んに活用されましたが、参加者の自発的な同意に基づかない点など、参加者の権利に関する倫理的な問題の指摘もあり、次第に用いられることは少なくなっています。

ただし、特定の対象に対して(発達障害が多いかな?)、望ましい行動を取ったときに何かしらの報酬が与えられ、それを集めると何かが出来上がる(シールを集めて、それが集まると一つの絵になる。その絵が本人の好きなキャラクターである、など)といったやり方については、一般的に活用されることが多いという印象があります。

さて上記の通り、トークン・エコノミー法は「望ましい行動の形成や維持を試みる」ということを目的として行われる行動療法的技法になります。

例えば、リラクセーションを1日1回行ったらトークンを付与する等はあり得るかもしれませんが、これはリラクセーション自体が目的なのではなく「リラクセーションという望ましい行動を形成することが目的」になりますから、「リラクセーションを主な目的とする技法」を選択する本問の趣旨には合わないことになります。

「リラクセーションを主な目的とする技法」というからには、どういう状況であろうがその技法を用いるときにはリラクセーションを行う、ということが重要になってきます。

トークン・エコノミー法に関しては「リラクセーションを用いること」はあったとしても、リラクセーションを「トークン・エコノミー法で毎回行うこととして位置づけていない」わけですから、リラクセーションを主な目的とする技法とは言えないでしょうね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ アサーション・トレーニング

アサーション・トレーニングは、自分と相手の権利を尊重しながら、適切で建設的な自己主張・自己表現(アサーション)を身につけるためのトレーニングを指します(自己主張トレーニング、主張性訓練と呼ばれることもある)。

元々は、アサーティブ(主張的)な行動をトレーニングすることで、不安反応を抑制することを目指した行動療法の技法として開発されました。

理論モデルで言えば「認知行動療法モデル」に該当する技法とされることが多いですね(古典的条件づけベースの技法なのですけどね)。

その後、相手の権利を尊重しつつ、自らの考え、感情、権利を適切に主張するためのコミュニケーショントレーニングへと発展しました。

アサーショントレーニングにおいては、コミュニケーション行動は以下のように分類されます。

  1. 自分の考えや感情を表現しなかったり抑制したりする「非主張的行動」
  2. 相手の考えや感情を無視して自分の考えや感情を相手に押し付ける「攻撃的行動」
  3. より適切な方法で自分の考えや気持ちを相手に伝える「アサーティブ行動」

アサーション・トレーニングでは、上記の「アサーティブ行動」の習得を目標とし、講義やロールプレイ、観察、ホームワークなどから成るプログラムが開発されています。

上記の通り、アサーション・トレーニングは「自分と相手の権利を尊重しながら、適切で建設的な自己主張・自己表現(アサーション)を身につける」ことを目的とした営みであり、そのトレーニング内容自体にはリラクセーションは含まれておりません。

ですが、実際にアサーティブな表現をするにあたっては、それなりの落ち着きが重要になってきますから、トレーニングを行っていく上でリラクセーションが必要と判断されれば、アサーティブ・トレーニングにリラクセーション法を組み込んでいくこともあり得るでしょう。

とは言え、アサーション・トレーニング自体にリラクセーションが含まれているわけではなく、また、アサーション・トレーニングの目的はリラクセーションではなく「自分と相手の権利を尊重しながら、適切で建設的な自己主張・自己表現(アサーション)を身につけること」になります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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